オピニオン
介護人材の需給推計ワークシートの改良及び需給状況の分析手法に関する調査研究事業
2022年04月15日 福田隆士、太田壮祐、高橋光進
*本事業は令和3年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。
1.調査研究の背景・目的
厚生労働省の公表資料において、2025年には数十万人の介護人材の需給ギャップが生じるとの推計が示されている(出所:「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)。厚生労働省は、第6期介護保険事業支援計画策定に合わせ、介護人材の需給推計ワークシートを作成の上、2014年度に各都道府県に配布し、同ワークシートによる各都道府県の推計結果の取りまとめを実施した。2017年度、2021年度にも介護保険事業支援計画策定にあわせる形で、各都道府県における需給推計が行われている。
需給推計結果は各計画に掲載され、人材確保等に関する施策の根拠資料として活用される等、一定の成果が得られているといえる。一方、より効果的な運用モデルの整理や推計精度の向上については都道府県等から継続的に指摘されている。第9期に向けた需給推計の実施においては、第8期の推計実施状況等を踏まえ、効果的な運用モデルの整理や推計精度の向上が引き続き求められている。
本調査研究においては、介護人材の需給推計ワークシートを活用した人材確保に関する運用モデルの検討、ワークシートの有効性検証、推計精度の向上に向けた改良点の検討等を目的とした。
2.調査方法・進め方
本調査研究は以下の実施内容、進め方で検討を行った。
(1) 検討委員会の設置・運営
本調査研究では、学識経験者、実務者等の有識者からなる検討委員会を設置し、各種検討を行った。検討委員会は全3回実施した。
(2) 自治体における効果的な介護人材確保策の推進プロセスの検討・整理
介護人材の需給推計結果を有効活用していくためには、介護人材確保に係る施策検討・効果検証等に関する都道府県、市区町村の運用モデルを整理することが重要である。そのため、自治体アンケート調査やヒアリング調査の結果等を踏まえて、自治体における効果的な介護人材確保策の推進プロセスを検討・整理した。
(3) 介護人材需給推計の精度向上のためのワークシートに係る検討
(2)と同様に自治体アンケート調査等を踏まえ、介護人材需給推計の精度向上に向けた検討を行った。
(4) 自治体アンケート調査の実施
各検討の基礎資料を整備する目的で、都道府県、市区町村を対象としたアンケート調査を実施した。
①都道府県向け調査の概要
・対象:都道府県(介護保険担当課(室)介護人材関連業務担当者)
・調査期間:2022年1月31日~2月21日
・送付件数:47件
・回収件数:43件(回収率:91.5%)
・主な調査項目:介護人材確保等に関する地域・行政内での体制整備の状況、介護人材の動向等に関する実態把握の状況、介護人材対策の取り組み状況、介護人材の需給推計の実施・活用状況 等
②市区町村向け調査の概要
・対象:市区町村(介護保険担当課(室)介護人材関連業務担当者)
・調査期間:2022年1月31日~2月21日
・送付件数:1741件 ※都道府県経由で調査票を配布
・回収件数:744件(回収率:42.7%)
・主な調査項目:介護人材確保等に関する地域・行政内での体制整備の状況、介護人材の動向等に関する実態把握の状況、介護人材対策の取り組み状況、介護人材の需給推計の実施・活用状況 等
(5) ヒアリング調査の実施
有識者、自治体、施設・事業所を対象としたヒアリング調査を実施した。
(6) 報告書の取りまとめ
(1)~(5)における検討を踏まえ、報告書の取りまとめを実施した。
3.結果の概要・考察
本調査研究においては、主に需給推計の精度向上、効果的な運用モデル構築の2点について検討・整理を実施した。以下に主要な結果について整理する。
(1)需給推計の精度向上に向けた課題と提案
①アンケート調査およびヒアリング調査結果等の整理
・より精緻な推計を実施するためには、詳細区分で実態を把握できるデータの充実が必要であるが、データの充実に向けてはコストや自治体等への負担がかかることが想定されるため、どこまでの精緻さが必要かは推計の目的を踏まえて慎重に検討することが求められる。
・都道府県等においては、推計精度の向上よりも具体的な施策の検討・推進につながるようなワークシートの効果的運用に関する指針や運用プロセスを整理することへの期待感が高い。
・ワークシートについては、都道府県の判断でパラメータの操作が可能であるが、その操作の判断基準となるデータや情報の不足への課題意識が強い。
・新規入職促進、離職防止、再流入促進に対して都道府県が実施する支援策等が、どのようなロジックで、どの程度影響を及ぼす可能性があるのか等、検討に資する情報等への期待感が高い。
②需給推計の精度向上に向けた課題
・推計精度向上と都道府県等の担当者負担のバランスを考慮する必要がある。
・自治体において求められる需給推計の精度も踏まえて検討することが必要である。
・需給推計の精度向上には詳細データの把握に加え、正規・非正規等の従事者属性や地域内の事業所での取り組み状況、今後の政策動向等、さらに考慮すべき事項がある。
③需給推計の精度向上に向けた提案
・次期ワークシートの改定、需給推計の実施に向けては、本調査研究の結果を踏まえ、負担の大きすぎない範囲での改定を前提とし、需給推計や施策の検討に資する情報提供も実施するなどして、これまでより詳細な検討ができるよう見直しを図ることが期待される。
(2)効果的な運用モデル構築に向けた課題と提案
①アンケート調査およびヒアリング調査結果等の整理
・都道府県において需給推計ワークシートは現状および将来の見通しについて把握するためのツールとして広く活用されており、その有用性は担当者からも評価されていたが、介護保険事業支援計画や目標設定以外での活用は限定的である。
・推計の目的や推計後の活用方法が必ずしも明確になっていないことから、現状および将来の見通しについての把握を実施したのみで、検討プロセスが終了しているケースが多数を占める。
・推計を実施し、結果をどのように具体的アクションにつなげ得るのかについての情報が不足しているという認識が大きい。
・人材確保のための自治体の施策や事業者の取り組みについて、想定される効果等が明確にできておらず、需給推計の結果を、介護人材確保策の検討・推進に用いることが難しい状態である。
・地域の実情に応じた施策を実施するためには、市区町村や地域法人等の協力、連携が重要であり、効果的な連携事例や関連する情報に関する期待も大きい。
・市区町村においては、推計に活用するデータの不足、マンパワー不足等の理由で、ワークシートの活用は限定的であった。また、自治体規模ごとに推計に対する期待やデータの整備状況等に差異があるため、自治体の規模や属性等に応じた検討の必要があると考えられる。
・都道府県および市区町村ともに、介護人材確保における目標設定や施策検討、進捗管理に活用できるツールがあれば活用したいという意向は総じて高い。
②効果的な運用モデルの構築に向けた課題
・自治体における標準的な運用プロセスとプロセスにおける推計結果の効果的な活用方策を示す必要がある。
・需給推計結果および施策検討・推進、効果検証等に影響する要素を明確にすることも期待される。
・使用できる支援ツール等の提供も検討すべきである。
・効果的な運用モデルの構築を進めるためには国から指針・ガイドライン等を示していくことも期待される。
③効果的な運用モデルの構築に向けた提案
・介護人材確保策を検討・推進するための効果的な運用モデルを整理し、示していくことが必要と考えられる。
・運用を円滑なものにするために、需給推計を効果的に活用するための指針・ガイドライン、ツールの作成、提供も期待される。
※本調査研究事業の詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
【報告書】
【本件に関するお問い合わせ】
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 福田隆士
TEL: 080-2302-7799 E-mail: fukuda.t@jri.co.jp