コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

デジタルマーケティングでウェブサイトを使い倒す ―ウェブサイトの活用レベル引き上げに向けた問題解決の糸口―【第1回】

2022年03月17日 林翔太


 本稿は、デジタルマーケティングの推進が叫ばれる昨今、特にウェブサイトの活用面で、うまく取り組みを進められないと悩みを抱えているBtoB企業向けに、問題解決の糸口を提示することを目的としたものである。

テクノロジーは進歩していても、どう活用すべきかという本質的な悩みはいまだ存在
 AI等のテクノロジーの活用や、ペルソナ化やカスタマージャーニーといった検討のフレームワークの活用により、より顧客に寄り添った1to1マーケティングの推進が可能になりつつある。一方で、こうしたテクノロジーやフレームワーク活用の重要性について理解はしているものの、実際にどのように自社のウェブサイトの見直しにつなげていけばよいのか、いま一つ分からないといった事態に陥っていないだろうか。
 また、ウェブサイト制作会社に依頼して、見た目のよいUI(ユーザーインターフェース)になったものの、あまりコンバージョン(問い合わせや引き合い・注文等)の獲得に寄与しておらず、困っているといった事象は起きていないだろうか。

 ウェブサイトというツールの活用が当たり前の世界になって久しい一方、日々進化を遂げるテクノロジーや検討のフレームワークをどんどん活用しながら前に進む企業もいれば、どうすればうまく活用できるのかという本質的な悩みを抱えている企業もまた存在するというのが実情である。
 では、そうした悩みの解決を阻む根本原因は、時代やテクノロジーの進歩とともに変遷しているだろうか。支援の現場に身を置く筆者の見解としては、意外にもそうではないと考えている。
 実際に、デジタルマーケティングの支援現場で、悩みの要因を追究していくと、古くから言及されている「いくつかの根本原因」に帰着するケースが想像以上に多いと肌で感じている。
 古くから言及されているにも関わらず、当該原因がなくなっていないということから、「言葉としては理解できても、自社のケースに具体的に当てはめて考えて、実際に見直すことが想像以上に難しい」という状況が続いているのではないかと筆者は考えている。
 そこで本稿では、読み手が、少しでも自社の問題解決に着手する糸口をつかめるように、根本原因がどのようなケースで発生し、その時にどのような思考プロセスに陥っているのかを、可能な限り具体化する形で執筆を進めた。
 是非とも一緒に考えながら読み進めてほしい。

自社のウェブサイト戦略の検証からはじめよう
 早速だが、下図に記載した検証事項について、簡単でよいので少し考えてみてほしい。その際に、いきなりウェブサイト戦略部分からチェックするのではなく、その上流に位置付けられる、マーケティング戦略・販売計画からチェックを進めてほしい。



 いかがだろうか。全て明瞭に答えられ、かつ、回答内容に問題がない状態であれば、少なくとも今この瞬間は、まだウェブサイトの理想的な活用状況でなかったとしても、理想に近づく形で継続的に改善が図られていくだろう。
 逆に、回答に詰まったり、回答に不明瞭な点もしくは問題が見えていたりする場合、そこが、ウェブサイト活用に悩む根本原因を特定する糸口となる可能性がある。

 今回は、上記観点の中でも、特に問題の根本原因となっているケースが多く見受けられる「ターゲット顧客」の部分について掘り下げていくこととし、「商品の価値の訴求」と「運用プロセス」の部分については、次稿に譲ることとする。

ウェブサイトで接点を持ちたいターゲット顧客は誰か
 まず言及したいのは、ウェブサイトの見直しにおいては、より上流工程のマーケティング戦略や販売計画までさかのぼって分析を実施することが重要であるという点だ。マーケティング戦略や販売計画とうまく連動する形で、ウェブサイトに求める役割や、ウェブサイトにおけるターゲット顧客を明確化できているかどうかが、ウェブサイト活用の有効性を大きく左右するためである。
 この重要性については、おそらく、多くの読者が、言葉としては当然だという感覚を持ったのではないだろうか。だが実態として、この「ターゲット顧客の明確化」は想像以上に難しいようだ。
 この検証を進めると、ターゲット顧客は誰で、どのようにウェブサイトを活用するかといった位置付けが曖昧であったということが判明するケースが意外にも多いのだ。

 では早速、上記をもう少し具体的な内容に落とし込んで掘り下げてみよう。
 以下で、「ウェブサイトのターゲット顧客」の検討時に、陥りがちな思考パターンの代表例を整理した。該当していた場合は、ぜひとも今後の見直し時に軌道修正を図ってみてほしい。

 まずは次の問いに答えられるだろうか。

 「自社のこの商品・サービスについて、ウェブサイトで接点を持ちたいターゲット顧客の業種は何で、企業規模はどのレンジを狙っているか。そこに該当する企業は何社程度あるか。」

 この問いに対し、エクセルの数十行のアカウントリストが思い浮かんでしまったり、汎用的なサービス・商品だから、対象は全業種で数えきれない、との回答が思い浮かんでしまったりした場合は要注意だ。



[要注意ケース①:数十行のアカウントリストが思い浮かんだ場合]
 まずは数十行のリストが思い浮かんだ場合、何が問題かというと、リスト管理できる規模のターゲット顧客には、そもそも対面営業でアプローチをかけることができ、既にアプローチをかけている可能性も高いということである。つまり、ウェブサイトで狙わなくとも、既にアプロ―チできているターゲット顧客を思い浮かべてしまっているということだ。
 このケースに該当した場合は、マーケティング戦略や販売計画として、対面(オフライン)で狙うターゲット顧客と、オンラインで狙うターゲット顧客をきちんとすみ分けて整理できているかを改めて検証し、見直してみてほしい。
 狙うターゲットやチャネルの位置付けが変われば、掲載すべきコンテンツは大きく変わってくるのだ。
 例えば、自社の商品を知らないターゲット顧客の流入チャネルとして、ウェブサイトの活用を想定するのであれば、「自社の商品に関する基礎情報を提供し、問い合わせへと導くためのツール」として活用する方が妥当だろう。逆に、極端な例だが、自社商品・サービスのターゲット顧客が、オンライン/オフライン問わず、一握りの大企業のみであり、オフラインの対面営業でターゲットへのアプローチを実施している状況だとどうだろうか。当然ターゲット顧客は、既に自社の商品・サービスのある程度の紹介を受けている状況なのだから、ウェブサイトの活用の仕方は「既にアプローチした顧客に対し、より詳細な資料や動画、デモ等を参照してもらうためのツール」といった形が有効になり得るかもしれない。

[要注意ケース②:対象は全業種で数えきれないとの回答が思い浮かんだ場合]
 続いて、対象は全業種で数えきれない、とのケースに該当した場合も、マーケティング戦略や販売計画、またはウェブサイト戦略をうまく策定しきれていない可能性が十分に想定される。
 競合のいない唯一無二のサービスや商品を提供している場合を除けば、競争市場を勝ち抜いていくためには、ターゲット顧客について、全方位的に満遍なく狙うのではなく、限られたリソースの中で、ターゲットセグメントを絞り込んで自社のポジショニングを確立していく必要性がある。なので、まずはマーケティング戦略や販売計画において、ターゲット顧客を絞り込めていない場合は、それ自体を問題として検証し、対応を検討する必要がある。
 また、マーケティング戦略や販売計画では、ターゲット顧客を絞り込んでいるが、ウェブサイトでは特段ターゲット顧客を絞り込まずに門戸を広げている、という状況であった場合は、「自分では全方位に門戸を広げているつもりだが、実は誰もくぐりたいと思わない門戸になってしまっている」という問題が発生している可能性がある。
 この問題をより具体的に言い換えてみると次のようになる。全方位想定だと、具体的なターゲット企業の顧客の顔を思い浮かべることが難しくなったり、思い浮かべたイメージが実態とかけ離れるリスクが高まったりする。結果として、実在する顧客が必要としている情報ではなく、自分達が見せたい情報を、見せたい形で提示しているような、独りよがりのウェブサイト構成に陥ってしまい、実は誰も見てくれなくなってしまう可能性があるということだ。
 このように、ターゲット顧客は全方位であり絞り込んでいない、という考え方は、ウェブサイト活用を考える上では大きなミスマッチやアンマッチを引き起こしかねないので、ターゲット顧客を絞り込んで具体的に考えることが必要である。

ここまで2つのケースの思考プロセスを紹介してきたが、ターゲット顧客について考えているつもりでも、うまく設定できていなかったというケースに陥ってしまうケースは想像以上に身近なものである。ぜひとも自社の状況を検証し、仮にターゲット顧客の設定が甘い状態であった場合は、具体的に絞り込んできちんと設定した上で、ウェブサイトの見直しを進めるようにしてほしい。

おわりに
 今回は、「ターゲット顧客」にまつわる根本原因に関して言及したが、デジタルマーケティングの文脈でのウェブサイトの見直しを進めるにあたって、よく見受けられる根本原因は、まだまだ他にも存在する。そうした内容については、次稿以降で言及を進めていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク

    デジタルマーケティングでウェブサイトを使い倒す
    ―ウェブサイトの活用レベル引き上げに向けた問題解決の糸口―
    【第1回】
    【第2回】
    【第3回】

経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ