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デジタルマーケティングでウェブサイトを使い倒す ―ウェブサイトの活用レベル引き上げに向けた問題解決の糸口―【第3回】
そのコンテンツは「顧客が見たい」情報になっているか 価値訴求に向けた思考プロセス

2023年03月30日 林翔太


 本稿は、デジタルマーケティングの推進が叫ばれる昨今、特にウェブサイトの活用で、うまく取り組みを進められないと悩みを抱えているBtoB企業向けに、問題解決の糸口を提示することを目的とした発信シリーズの第3回である。
 第1回第2回では、ウェブサイトの活用がうまく進まない根本原因の検証方法と、主なつまずきポイントの一つである「ターゲット顧客の考え方」について解説したので、興味がある方はぜひとも参照してみてほしい。
 第3回では、「商品の価値の訴求」といった観点でのつまずきポイントの追求と、対応策を導き出すための思考プロセスの解説を行う。



1.自社のサービス/商品の価値を、きちんと捉えられているか(マーケティング戦略・販売計画レベル)
 まずは次の問いについて考えてみてほしい。

自社のサービス/商品の強みや、競合との差別化ポイント(価値)は何か。

 これはよくある問いであり、何かしらの回答はあると思う。では、その回答を以下の観点でもう一段検証してみてほしい。

 「強みや差別化ポイントであると回答した内容は、自社視点で抽出した内容になっていないか、顧客視点に立って深掘りし、抽出できているか。

 筆者の過去のコンサルティングの支援の中で、この時点でつまずいているケースが意外にも多いため、ここから解説を進めていきたい。
 自社視点で考えてしまっている例としては「開発者視点から見た他社との違いを、そのまま強みとしている」といったケースが挙げられる。
 少し極端な例で説明しよう。今回も、第2回の具体例を踏襲し、ITベンダーが中堅~大手企業向けの販売管理システムソリューションをウェブサイトで発信するというケースで説明する。
このケースにおいて、強みや差別化ポイントは何かという問いに対し、「出荷機能に業界初のAI機能を搭載」と回答したとしよう。おそらく開発者としては、他社にはないAI機能を商品に盛り込めたという注力ポイントを、そのまま強みとしたのだろう。
 確かに、ターゲット顧客はそれを見て、「何だかすごそうだ」と感じるかもしれない。しかし、結局それが、ターゲット顧客にとってどのような価値につながるのかは分からないということが大いに想定される。これでは顧客視点に立って強みや差別化ポイントを深掘りし、抽出しているとは言えない。

 例えば以下のように、ターゲット顧客の業務課題(仮説)とひもづけて、良さを感じてもらえるところまで追求していれば、初めて顧客視点でポイントを整理できていると言えるのではないか。
 
 「業界初のAI搭載により、唯一、受注や生産、在庫などの状況を勘案して、最適な引当案と納期回答案を自動で提示できる。その結果、出荷業務および納期検討時のマニュアル作業の80%軽減を達成できる。

 要するに、自社視点で抽出したポイント自体に価値はなく、顧客の何らかの問題を解決できるという解釈まで深掘りして、初めて顧客にとって価値がある強みや差別化ポイントを特定できている、ということである。 

2.どうやってターゲット顧客に商品/サービスの価値を届けるか(ウェブサイト戦略レベル)
 前段で、顧客視点で自社商品/サービスの価値を把握するところまで進められたとする。
続いて検証したいのは、ターゲット顧客にその価値を届けられるかという点である。
 ターゲット顧客が、ウェブリサーチを行う際に(この具体的なタイミングは第2回を参照のこと)、自社のウェブサイトまで到達し、内容を理解し、魅力を感じて問い合わせるといったアクションまで起こして初めて価値が十分に届いた、という話になるのだが、その道のりは容易ではない。
ウェブリサーチの開始から、価値が届くまでには、3段階の大きなつまずきポイントが存在すると認識している。この3段階のつまずきポイントに対処していくためには、ターゲット顧客側の置かれている状況や、ターゲット顧客がウェブリサーチを行う際の思考プロセスや行動を理解し、その内容に寄り添いながらウェブサイトを構築することが重要だと考える。
 3段階の解読すべき事項と検討すべきポイントを整理した結果が、以下の図表の内容である。



 なお、上記のターゲットの状況や思考、行動、そこから派生する検討ポイントについては、あくまでもたたき台として捉え、自社のターゲットを想定しながら、アレンジしてほしい。
 では、図表で示した検討ポイントについて、順番に解説していきたい。

①「検索段階」での検討ポイント
 本段階の検討ポイントは、そもそもターゲット顧客に、自社ウェブサイトまで、どうやってたどり着いてもらうかという点である。ターゲット顧客がどのようなキーワードで検索をかけて、どうやって情報にアクセスしているのかを特定し、そのルート上にうまく自社ウェブサイトが表示されるよう対応を進めていく必要がある。
例えば、前段の販売管理ソリューションの例で考えてみると、さまざまな検索キーワード候補が想定されるだろう。

 「販売管理システム 業界名」、「販売管理システム リプレース(刷新)」、「中堅企業 販売管理ソリューション」、「販売管理 課題内容 ソリューション」、「課題名 解決事例」 など

 これらを自社で絞り込み、正解を特定していくのは難しい。また、顧客の立場で考えているつもりでも抜け落ちる観点もあるだろう。そこで、ある程度検討した後は、実際にターゲット顧客にヒアリングなどをかけながら回答を探ることを推奨する。回答を想定できれば、その後ウェブサイトとしてできることは、いわゆるSEO対策(Search Engine Optimization:検索最適化)というテクニカルな内容になる。この点については、ちまたに多数の情報やサービス提供があるため、本稿での説明は割愛する。
 
②「比較検討段階」での検討ポイント
 本段階の検討ポイントは、自社サイトにたどり着いたターゲット顧客に、価値を適切に理解させ、ターゲット顧客の有望リストに入り込むためにどうすべきか、というところであり、非常に重要である。
 ターゲット顧客が求める情報(コンテンツ)を、いかにターゲット顧客に伝わる形で掲載していくか。(言葉にすると当たり前に見えるが)実態は真逆で、実に多くのウェブサイトが、自社の手持ちのコンテンツ、すなわち、自分達が見せたい情報(コンテンツ)の羅列に陥っている。
 この落とし穴に陥らず検討を進めるために必要なのは、徹底したターゲット顧客視点である。どんな情報(コンテンツ)が参照できると、「このサービス/商品は探していたものだ!」という納得感をもった状態になるかを考える、ということである。

 では、実際にどのように考えていくべきなのか、以下具体例で解説する。前段の販売管理ソリューションの例をベースに解説を進めていく。なお、本ケースでは、後続の解説をよりイメージしやすくするために次の設定を加える。

・ターゲット顧客企業は、販売管理業務領域に、業界特性が絡む課題認識があり、その解決策として、販売管理システムソリューションを探している状況である。
・ターゲット顧客は、課題分析と施策検討が完了したため、ベンダーなどに対し、情報提供依頼を進めようとしている段階であり、担当者がウェブリサーチで、さまざまな販売管理ソリューションのウェブサイトを調査しようとしている。

 さて、このとき担当者はどのような観点で各社サイトの情報を整理し、比較するだろうか。
 まずは、このソリューションで、自社の課題を解決できるのか、ということが気になるのは間違いないだろう。それも一定の根拠を伴う形で。今回の例で言えば、「業界特性が絡む課題」である以上、まずは自業界でこのソリューションが導入されており、課題を実際に解決できたのかどうかが気になるだろう。ここで最重要情報(コンテンツ)は「同業他社の課題解決事例」であるということが特定できた。そういった情報(コンテンツ)が掲載されていれば、情報収集の初期段階として、これ以上望ましいことはないだろう。
 課題解決の可否と同業他社での事例までが十分に見えれば、後は、情報提供依頼の対象とすべきかを最終判断するために、自社の調達の諸条件に適合するような内容であるかをチェックしたいと考えるだろう。例えば以下のような内容である。

 ・企業規模がマッチしているか
 ・納期のイメージがあっているか
 ・十分な事例があるか
 ・サービスが将来的に継続・発展していくか など

 こういった形で、顧客視点になりきって、どのような情報を見たいのかについて、検討をしていくことが重要である。ぜひとも一度、自社のウェブサイトの情報(コンテンツ)と、顧客が見たい情報が、どこまでマッチしているか検証してみてほしい。

③「納得・問い合わせ段階」での検討ポイント
 ②の段階で、顧客に適切な情報を提示し、納得感まで醸成できていれば、価値を届けるという意味では成功なのだが、企業戦略上、顧客が必要とする全ての情報(コンテンツ)を、ウェブサイト上に開示することはできない(価値訴求しきれない)ケースは必ず存在するだろう。本段階の検討ポイントは、そうした制約をある意味逆手にとって、顧客のアクションを引き出す(価値に能動的にアプローチしてもらう)ための仕掛けをどのように作るかという点にある。
 例えば、価格やノウハウ関連の情報などは、競合に対する情報保護などを理由に戦略的に非公開とすることがあるだろう。しかし、公開していないがために、ターゲット顧客が離脱してしまうのは避けたい。こうした場合においても、非公開情報以外の部分で、うまくストーリーラインや仕掛けを作って対処していきたい。
 例えば、前段で最重要情報(コンテンツ)とした「同業他社の課題解決事例」について、ウェブサイトで公開する情報を「同業他社での事例の有無や、特定の業界課題の解決の実現可否」程度にとどめたとする。顧客は、同業他社での課題解決事例があることは分かるので、顧客自身が抱える課題も解決できるかもしれないという最低限の期待感と、どう解決したのか、もっときちんと情報を把握したいという渇望を抱く状態になるだろう。
 ここで、次に顧客の目に飛び込むコンテンツが「事例ベースでの特定の業界課題の解決ノウハウ」という顧客が望むもので、またその資料がダウンロードできる、となったらどうだろうか。もちろん顧客自身の情報を入力してダウンロードを行う負担感と、渇望を充足させたいという思いを天秤にかけた結果次第だが、顧客のアクションを引き出せる可能性は見込めるだろう。うまくいけば、情報(コンテンツ)の非公開といった制約を受け入れつつも、ターゲット顧客に情報を十分に届けられ、かつ顧客情報が入手できるといった、本来のウェブサイトの目的の達成に至るわけである。こうしたサイトコンテンツのストーリーラインや、コンバージョンを導くための仕掛け作りについては、紙面の関係上、詳細な解説は割愛する。

3.おわりに
 第1回、第2回で、ターゲット顧客をどうやって具体化するかについて言及し、第3回の本稿では、特定したターゲット顧客に「どのように」適切に商品情報を伝えていくのか、その検討ポイントについて言及した。「誰」に、「どのように」という部分の肝を押さえられれば、後は、実践と検証を繰り返し、精度を上げていくためのPDCAサイクルの遂行が重要となる。
 次稿の第4回では、そうした運用サイクル面でポイントとなる事項について言及していくことを予定している。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク

    デジタルマーケティングでウェブサイトを使い倒す
    ―ウェブサイトの活用レベル引き上げに向けた問題解決の糸口―
    【第1回】
    【第2回】
    【第3回】

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