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JRIレビュー Vol.2, No.97

ESGと役員報酬に関するアメリカ企業の事例研究と日本企業への示唆
Apple社、P&G社、Disney社、SBUX(スターバックス)社、NIKE社を例に

2022年03月07日 綾高徳


コーポレートガバナンス・コードでは上場企業にESG(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance))等のサステナビリティを巡る課題への適切な対応を求めている。各企業においてESGへの取り組みが進むにつれて、それによる経営成果(成果創出への動機付けを含む)と役員報酬が結び付いていくことは経営戦略にとって自然なことである。具体的には、役員報酬を決定する際にESG要素をKPI(重要業績評価指標)の一つに加えることで、中長期的な企業価値の向上に至るストーリーが制度化される。今後、日本企業の多くで、役員報酬にESG要素を反映する流れが定着していくものと考えられる。

現時点において欧米企業の多くは、ESGへの取り組みを短期インセンティブ(主に現金賞与)に反映していることが先行研究で報告されている。

ESGへの取り組みのような非財務指標を役員報酬に反映することについて様々な説があるものの、非財務指標が財務指標や中長期的な企業価値の向上にどのような影響を及ぼすのか、今のところ確かなエビデンスとなる研究は存在しない。しかしながら、結果として財務指標等に表れるか否かは分からないまでも、役員報酬を算定するために設定する非財務指標のKPIに関して、役員の意識や行動を変革する効果があることは疑うことができない。加えて、報酬制度を通じた社内外のステークホルダーとのコミュニケーションにも、一般的なIR活動を超えたコミットメントを強調する効果があるものと考えられる。

本論では、A.Apple社、B.P&G社、C.Disney社、D.SBUX(スターバックス)社、E.NIKE社における役員報酬へのESG要素の反映について調査した。調査の結果、A.〜C.は賞与へ、D.E.は株式報酬(業績連動型のRSU:Restricted Stock Unit)へ反映する仕組みを制度化していることが分かった。

役員報酬への反映方法は、C.Disney社を除いて財務実績に応じて算定された達成率(達成率に応じた賞与支給率)をESG評価によって調整することができる外付けの設計である。この方法は財務実績が主で、ESG評価が従という関係性である。財務実績による評価結果をダイレクトにESG評価を用いて調整できるというメリットは大きいものの、財務実績が賞与支給率ゼロとなるミニマム達成率を下回る場合に、ESG評価を反映する部分そのものが失われてしまうことから、財務実績あってのESG評価と言える。一方でC.Disney社のみが、達成率100%の内数としてESG評価の配点枠が用意されている。ここに設計思想の違いが見て取れる。

ESG評価の反映ボリュームは、各社とも総報酬額のおおむね5%前後の範囲で決定される。

ESG評価の判定基準と決定プロセスは、D.SBUX社以外は明確に示されていない。D.SBUX社では登用における多様性を判定基準としており、登用率の達成度に応じて、財務実績をもとに算定された株式報酬の交付ユニット数を調整する率まで具体的に示している。

今後、日本企業においてESG評価を役員報酬へ反映しようとする場合に、まずは目的に応じて反映する報酬を選択することが重要である。前年実績に報いたいのであれば支給する賞与や交付する株式報酬、将来の達成を動機付けたいのであれば今後数年にわたって交付する株式ユニットを最終的に株式や譲渡制限付き株式へ交換する交換率等への反映が適当である。反映する報酬が決まった後は、判定基準決定プロセスの設計となる。非財務指標であっても定量化して目標に用いる場合、達成度の判定は明白であるし、特別な判定プロセスも要しない。ESG評価であれば、CO2の排出削減目標達成率や登用における多様性目標達成率等、またはESG評価機関の評価結果(ランキングや格付け、点数等)やINDEX入りの有無が挙げられる。非財務指標を定性的に目標に用いる場合、判定基準を精緻に設けることは難しいので、判定プロセスに比重を置いた制度設計が求められる。

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