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アジア・マンスリー 2022年1月号

中国の鉄鋼減産の要因と今後の見通し

2021年12月27日 関辰一


中国の鉄鋼減産の主因は、建設・自動車産業での鋼材需要の弱まりと考えられる。当面、鉄鋼業は在庫調整のために減産を続けるも、春頃には需要サイドの回復を受けて増産に転じると見込まれる。

■粗鋼生産量は大幅に減少
中国では、鉄鋼の減産が続いている。2021 年11 月の粗鋼生産量は前年同月比▲22.0%と5 カ月連続の前年割れとなった。この要因として、中国政府が脱炭素政策を重視して鉄鋼業に減産を求めたことが一般に指摘されている。

習近平国家主席は、2020 年9 月の国連総会の演説で、2030 年の二酸化炭素排出のピークアウト、2060 年のカーボンニュートラルを目指すと宣言した。この脱炭素「30・60 目標」の達成に向けて、2020 年末の全国工信部工作会議で肖亜慶部長は、2021 年の粗鋼生産量を2020 年比で減少させるよう鉄鋼業に求めた。

2021 年4 月には、国家発展改革委員会と工信部が減産を改めて要請すると、6 月からは江蘇省、安徽省、江西省などの地方政府が鉄鋼業に対して減産を書面で要求した。

鉄鋼業は6 月後半以降、国有企業を中心に生産停止に向けたスケジュールを相次いで発表した。たとえば、最大手の宝武鋼鉄集団傘下の武漢鋼鉄は、6 月29 日から150 日間にわたって高炉のメンテナンスを行うと宣言した。河鋼集団や鞍鋼集団などの大手鉄鋼企業も6 月中に減産のスケジュールを発表した。

しかしながら、様々なデータを踏まえると、中国政府が粗鋼の減産を指示しなかったとしても、中国鉄鋼業は需要の弱まりにより大幅な減産を余儀なくされたと考えられる。

■鋼材需要が減少して在庫率は上昇
中国では、鋼材需要に占める建設向けのシェアが高い。中国冶金工業規劃研究院の「2021 年中国和全国鋼鉄需求予測成果研究報告」によると、2020 年の中国の鋼材消費量の58.5%が建設向け、16.1%が機械向け、5.4%が自動車向け、20.0%がその他向けである。

建設向け鋼材需要は、建設業の不振により2021 年春以降急速に弱まった。GDP 統計による
と、建設業の実質付加価値(前年同期比)は2020年後半の+6%超から、2021 年4~6 月期に同+1.8%へ鈍化し、7~9 月期は同▲1.8%のマイナスに転じた。

この背景には、中国政府による投資抑制策がある。2020 年中に中国経済がコロナ禍からV 字回復を果たすと、中国政府は、インフラ投資の財源となる地方債の発行を抑制したほか、地方政府の隠れ債務拡大を防ぐために、銀行理財商品などのスキームを通じた地方政府向けの与信も抑制した。この結果、鉄道や道路などのインフラ投資は2021年春頃から減速し始め、夏場には前年を大きく下回るようになった。

また、2020 年夏に導入された「三つのレッドライン」と呼ばれる不動産開発企業の資金調達条件の厳格化措置と住宅需要の減少を受けて、恒大集団などの大手不動産開発企業が経営危機に直面したほか、経済全体の不動産開発投資も弱まった。

自動車向け鋼材需要も減少した。中国の自動車販売台数は、2020 年後半から2021 年4 月まで年率換算で2,700 万台超の水準を保っていたものの、半導体をはじめとする部品不足によって、9 月には同2,300 万台へと大きく落ち込んだ。

このように、建設向けと自動車向けの鋼材需要が弱まったことで、大手と中堅鉄鋼企業の鋼材出荷量は鋼材生産量を上回るペースで減少し、在庫率は4 月の22.6%から10 月の29.9%へ上昇した。

■当面は減産が続くも、その後は投資拡大で増産へ
2022 年の中国鉄鋼業を展望すると、当面は在庫調整のための減産が続くと見込まれる。工信部と生態環境部は、10 月に北京、天津、河北省および周辺地域の鉄鋼企業に対して減産(2021 年11 月15 日から2022 年3 月15 日まで)を求めた。これは在庫調整の必要性を考慮した措置とみられる。

もっとも、建設向け鋼材需要の回復により、鉄鋼企業は遠からず増産に転じる可能性が高い。中国政府は、民間設備投資が弱まり、雇用環境に悪化の兆しがみられるため、2021 年夏場から景気重視の政策スタンスに徐々にシフトし、投資抑制策を緩和し始めた。具体的には、インフラ投資の前倒しを指示しているほか、不動産開発企業の資金調達条件や住宅需要抑制策も緩和し始めた。

不動産開発投資の調整圧力は残るものの、インフラ投資が持ち直すことで、建設業の業況は回復に転じると見込まれる。実際、11 月の建設業のPMI 新規受注指数が2 カ月連続で良し悪しの目安となる「50」を上回るなど、業況に持ち直しの兆しがみられる。

また、自動車向け鋼材需要も緩やかに回復すると見込まれる。半導体不足が緩和したことで、11 月の自動車販売台数は年率換算で2,500 万台の水準へ持ち直した。

以上のように鉄鋼減産の背景には、建設向けや自動車向け鋼材需要の弱まりが影響しており、環境対策のみにその原因を求めるのは適当ではない。当面、鉄鋼企業は在庫調整から減産を続けるものの、建設業や自動車産業の回復を受けて春頃に増産に転じると見込まれる。
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