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2023年02月09日

各位

株式会社日本総合研究所


医療データの利活用促進のための提言を発表

~「グランドデザイン」「データ基盤」「データガバナンス」三つの観点からの提言~



 株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 谷崎勝教、以下「日本総研」)は、「健康・医療政策コンソーシアム」(以下「本コンソーシアム」/※1)の活動として開催した「ヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブル(座長: 森田朗 東京大学名誉教授)」で策定された、わが国の医療データの利活用促進のための提言である「医療データの利活用促進に関する提言」(以下「本提言」)を発表します。
 本提言では、個人の医療データを医療機関を横断して利活用することで診断・治療に役立てることや、医療分野におけるビッグデータを、ゲノム医療のほか、新たな診断・治療法の開発などで利活用することを目指し、「グランドデザイン」「データ基盤」「データガバナンス」の三つの観点からの提言がまとめられています。
 本提言は、以下からご覧になれます。
 医療データの利活用促進に関する提言
 https://www.jri.co.jp/column/opinion/detail/13976/

■背景
 現在、患者の診断や治療に関する医療データは、わが国では原則としてそれぞれの医療機関が管理しています。そのため、例えば、過去に他の医療機関で受けた治療の結果や撮影したCT画像について、新たに受診した医療機関が参照することはほとんど行われてきませんでした。また、医療データの利活用は、患者本人の診断や治療のための一次利用が主とされてきており、研究機関や企業、行政などによる調査や研究、政策立案のための二次利用は、個人情報保護法などの制約によって、あまり活発には行われてきませんでした。
 そうした中、わが国でも、医療データについて、医療機関を横断して利活用できるようにすることの重要性が議論されるようになりました。実現すれば、救急対応の際に他の医療機関での患者のデータを迅速に入手することや、複数の医療機関による地域包括ケアの構築に役立てられるなど、質の高い医療サービスの推進に大きく貢献すると考えられます。
 また、最新のITを活用することで、医療分野におけるビッグデータを有効に利活用し、ゲノム医療をはじめ、新たな診断・治療法の開発などに役立てることも期待されるようになっています。

■提言
 本コンソーシアムでは、健康・医療政策の一つとして、デジタル改革による医療データの連携と利活用を推進するため、森田朗東京大学名誉教授をはじめとした有識者と共に「ヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブル」を開催しました。その中で、医療データの収集・蓄積・利活用に関する戦略的な方向性を明確にするグランドデザインとユースケースの必要性をはじめ、システム基盤の整備やデータガバナンスの実装などについて議論を行い、以下の3つの提言を取りまとめました。

提言① 医療データの利活用で実現したい姿(グランドデザイン)とユースケースの作成
 医療データの利活用については、対象とするデータの項目と連携の在り方などが、政府や厚生労働省などから示されています。例えば、現在、医療機関間で連携できるデータは処方された薬のデータだけですが、今後は傷病名やアレルギーに関するデータなども連携させるとする指針が既に示されており、その実現方法の検討が厚生労働省で行われています。
 しかし、医療データの利活用における利点や開始時期などについて、まだ十分には明らかにされていません。また、臨床研究のほか、医療資源の最適化や持続可能な社会保障制度を検討するために、医療データを利活用することについても、期待が高まる一方で方針は示されていません。
 このように、医療データ利活用が目指す姿(グランドデザイン)が存在しないため、例えば、医療政策と産業政策の両視点からの中長期的な戦略について、省庁横断で議論したりすることが難しくなっています。また、国民・患者・現場の医療従事者にとっては、医療機関の間で連携するデータの項目が増えることのほかは、何がどのように、何のために変わるのか、スケジュールも含めて具体的なイメージが想起しにくいため、国民的な共通理解が醸成されていないのが実態です。
 そこで本提言では、健康医療および産業に関する中長期的な戦略の策定に必要なグランドデザインを策定した上で、医療データの利活用について、さまざまな関係者が具体的なイメージを共有するために欠かせない各場面における個別のユースケースを作成しました。また、ユースケースについては、(1)患者個々人に応じた医療の個別最適化、(2)公衆衛生・医学研究・医薬品開発の促進、(3)医療資源の最適配分、(4)社会保障制度の持続可能性確保の4つの観点から、医療データの利活用を促進する意義が理解できるように提示しています。

提言②:データ基盤の整備
 厚生労働省では、医療機関における電子カルテの普及と活用方法の拡大を目指し、データの標準化や連携のためのネットワーク構築などに積極的に取り組んでいます。例えば、過去に処方された薬のデータを医療機関同士で連携できる仕組みが、マイナンバーカードの健康保険証の機能として構築されたのは、その取り組みの一つです。
 しかし、わが国では、患者の医療データの管理は医療機関ごとに行うことがほとんどであり、異なる医療機関が連携し利活用できる、国家レベルでのデータ基盤はありません。現在は、3文書6情報(※2)についても、過去に処方された薬のデータと同様に連携することを目指して検討が進められていますが、これらデータ利活用の方法についての方針はまだ定まっていません。また、データの連携に欠かせない電子カルテシステムについて、令和2年時点で採用している医療機関は、全国で50%程度(※3)にとどまる状況です。
 そこで本コンソーシアムでは、医療データについて、一次利用のほか、本人が特定されない形での二次利用を可能とすることを目指し、後述するデータガバナンスなどを備えたデータ基盤の在り方について提言しています。例えば、さまざまな利用方法に対応できる柔軟性・拡張性のあるデータ基盤の実現に必要な、データの標準化、システム相互運用性の確保、データ結合のID設計などについての検討事項を示しました。また、併せて、医療現場のデータ入力の業務効率向上の方向性についての検討事項も示しています。

提言③:データガバナンスの実装
 医療データを利活用するためには、データを統制する方法についてのルールの整備も必要です。医療データの利活用は個人情報保護法によって規制されていますが、二次利用については、個人が特定されない形にしたデータでの利活用の方法を定めた次世代医療基盤法が整備されるなどの取り組みが進んでいます。しかし、初診時に書面で該当者に通知する丁寧なオプトアウトが必要であるなど、運用面での難しさが利活用を発展させる上での課題となっています。
 そこで、本提言では、セキュリティやプライバシーの確保と医療データの利活用のバランスの在り方をはじめ、同意のタイミング、管理側への罰則の考え方、一次利用が患者自身および医療機関にもたらすメリット、そして二次利用における社会全体の利益などがまとめられています。
 また、現在では、一次利用と二次利用でデータの形が異なるといった技術的な問題もあり、医療現場にとってデータ収集は大きな負担となっています。そのため、本コンソーシアムでは、患者のプライバシーを守るための規制の重点を、利活用における出口に移すべきと考えています。本提言では、データ収集時に二次利用の同意を取得する従来の在り方から、目的の確認と個人が特定されない技術的な保障を軸に、二次利用側を規制し監視する在り方への移行についてまとめられています。

■まとめ
 医療データの利活用については、国民・住民の健康増進をはじめ、医療に関する研究促進、限りある医療資源の提供最適化、社会保障制度の継続改善に、広く役立つようにする観点から推進することが必要です。そのためには、法的根拠を持ったグランドデザインおよび共通理解を醸成するためのユースケースを策定した上で、データ基盤とデータガバナンス体制の構築を、国民・患者・現場の医療従事者の理解を得ながら中長期的に進めることが欠かせません。
 上記について、政府をはじめとした省庁横断による中長期的な視点での戦略策定において検討されることを、ヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブルでの検討結果として提言します。

■構成員
森田 朗(座長)  東京大学名誉教授
石井 夏生利    中央大学国際情報学部教授
伊藤 由希子    津田塾大学総合政策学部教授
落合 孝文     渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所所長、日本医療ベンチャー協会理事
黒田 知宏     京都大学 医学部附属病院 教授
近藤 則子     老テク研究会事務局長
松村 泰志     独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター院長
宮田 俊男     医療法人DENみいクリニック理事長、早稲田大学理工学術院教授
美代 賢吾     国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター長、
          一般社団法人 Medical Excellence Japan シニアフェロー

■オブザーバー
内閣府 規制改革推進室
総務省 情報流通行政局 地域通信振興課デジタル経済推進室
経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課
一般社団法人 次世代基盤政策研究所
ライフサイエンスインキュベーション協議会

■エンドースメント(代表)
東京大学名誉教授、(一社)次世代基盤政策研究所代表理事、森田朗(座長)より
 現在、先進国では、医療分野におけるデジタル化が急速に進められています。特に、EUでは、コロナ禍の経験から、域内でどこからでも自分の医療データにアクセスできるEuropean Health Data Space (EHDS)構想が提案されています。わが国もそのような動きに遅れず、医療の質の改善、医薬品等の開発を進めていくためには、できることよりも、あるべき姿を目指して理想的な法制度の制定を目指すベきです。そこで一つの理想像を示していきたいと思っています。

■協賛
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社、日本イーライリリー株式会社、株式会社フィリップス・ジャパン(五十音順)

■賛同
日本製薬工業協会

(※1)健康・医療政策コンソーシアム
 持続可能で質の高い医療提供体制を構築することなどを目的に、医薬・医療機器の業界団体や医療・IT関連企業、医師が所属する学会、医療や経済の専門家、そして患者団体などと共に設立した研究会。
「健康・医療政策コンソーシアム」設立について(ニュースリリース/2022年7月12日)
  https://www.jri.co.jp/company/release/2022/0712/

(※2)電子カルテシステムの普及率は、一般病院57.2%、診療所49.9%(令和2年)
出典: 電子カルテシステム等の普及状況の推移(厚生労働省)
  https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf

(※3)3文書(①診療情報提供書、②キー画像等を含む退院時サマリー、③健康診断結果報告書)、6情報(①傷病名、②アレルギー情報、③感染症情報、④薬剤禁忌情報、⑤検査情報(救急時に有用な検査、生活習慣病関連の検査)、⑥処方情報)

 

以上

■本件に関するお問い合わせ先
 【報道関係者様】 広報部              山口 電話: 080-7154-5017
 【一般のお客様】 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム
          担当: 川崎 メール: 200010-JRI_Healthcare_consortium@ml.jri.co.jp

 
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