医療データの利活用促進に関する提言(プレゼンテーション資料)
概要
現在、患者の診断や治療に関する医療データは、わが国では原則としてそれぞれの医療機関が管理しています。そのため、例えば、過去に他の医療機関で受けた治療の結果や撮影したCT画像について、新たに受診した医療機関が参照することはほとんど行われてきませんでした。また、医療データの利活用は、患者本人の診断や治療のための一次利用が主とされてきており、研究機関や企業、行政などによる調査や研究、政策立案のための二次利用は、個人情報保護法などの制約によってあまり活発には行われてはきませんでした。
そうした中、わが国でも、医療データについて、医療機関を横断して利活用できるようにすることの重要性が議論されるようになりました。実現すれば、救急対応の際に他の医療機関での患者のデータを迅速に入手することや、複数の医療機関による地域包括ケアの構築に役立てられるなど、質の高い医療サービスの推進に大きく貢献すると考えられます。
そして、最新のITを活用することで、医療分野におけるビッグデータを有効に利活用し、ゲノム医療をはじめ、新たな診断・治療法などの開発などに大きな役割を果たすことが期待されるようになっています。また、一次利用においても、医療機関を横断した医療データの利活用が全国で可能になれば、救急対応する医療従事者への迅速な患者の治療データ提供や、医療機関間のデータ連携促進など質の高い医療サービスや地域包括ケアの実現にも役立つと考えられています。
一方、EUでは医療データの利活用に向けた取り組み(※1)が進んでおり、新たな医薬品や機器の開発に役立てられているほか、人々の健康に貢献するための体制やシステムに関する仕組みづくりにも貢献しています。
そうした中、わが国でも、医療データについて、医療機関を横断して利活用できるようにすることの重要性が議論されるようになりました。実現すれば、救急対応の際に他の医療機関での患者のデータを迅速に入手することや、複数の医療機関による地域包括ケアの構築に役立てられるなど、質の高い医療サービスの推進に大きく貢献すると考えられます。
また、最新のITを活用することで、医療分野におけるビッグデータを有効に利活用し、ゲノム医療をはじめ、新たな診断・治療法の開発などに役立てることも期待されるようになっています。
そこで、本コンソーシアムでは、健康・医療政策の一つとして、デジタル改革による医療データの連携と利活用を推進するため、森田朗東京大学名誉教授をはじめとした有識者と共に「ヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブル」を開催し、ここで検討した内容を踏まえて3つの提言を取りまとめました。1つ目は、医療データ利活用で実現したい姿(グランドデザイン)とユースケースの作成、2つ目は、医療データ利活用のプラットフォームであるデータ基盤の整備、そして3つ目は、医療データ利活用に関する管理機関の設置などデータガバナンスの実装です。
[参考]
※提言内容については、上記の提言資料などをご参照ください。
※第1回および第2回ラウンドテーブルの概要は以下よりご覧ください。
第1回ラウンドテーブル
第2回ラウンドテーブル
※第3回ラウンドテーブルの議事概要は、以下をご参照ください。
第3回ヘルスケアデジタル改革ラウンドテーブルの議事概要
■構成員の有識者の方々からのコメント
◆東京大学名誉教授、(一社)次世代基盤政策研究所代表理事、森田朗(座長)より
現在、先進国では、医療分野におけるデジタル化が急速に進められています。特に、EUでは、コロナ禍の経験から、域内でどこからでも自分の医療データにアクセスできるEuropean Health Data Space (EHDS)構想が提案されています。わが国もそのような動きに遅れず、医療の質の改善、医薬品等の開発を進めていくためには、できることよりも、あるべき姿を目指して理想的な法制度の制定を目指すベきです。そこで一つの理想像を示していきたいと思っています。
◆中央大学国際情報学部教授 石井夏生利より
高齢化社会が進む日本において、医療情報の適切な利活用は重要な政策課題です。日本は、2003年の個人情報保護法制定後、約20年をかけて、欧州をはじめとする国際的水準を満たすための個人情報保護制度の整備を進めてきました。他方、医療をはじめとする個別分野における個人情報の利活用のあり方については、多くの課題が存在します。本検討会で示された各提言によって、患者および医療従事者双方へのメリットが還元される制度改革がなされることを期待しています。
◆津田塾大学総合政策学部教授 伊藤由希子より
情報共有は命を救うツールです。一人ひとりの傷病の重症度や緊急性を、目の前の状態だけでなく医療履歴から判断することで、より適切な医療につなげられます。医療者にとって初対面の急患であっても迅速に診断できれば、現場の医療資源が限られる状況でも、多くの住民に医療サービスを提供することができます。今、命を救う情報共有を構築できるかどうかが今後の日本の医療サービスの質を大きく左右することになるでしょう。
◆渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所所長、日本医療ベンチャー協会理事 落合孝文より
医療を取り巻く未来の社会像と取り組むべき政策があって、その次に情報の利活用、ガバナンスのあり方の検討が進められることが重要です。本検討では、既存の制度ありきではなく、あるべき姿から検討から、現場での医療提供、研究・開発の進展の可能性を踏まえつつ、業務、システム、法体系の在り方を検討した点に価値があると考えており、今後の医療政策を検討するにあたり、その礎になることを期待します。
◆京都大学 医学部附属病院 医療情報部長 教授 黒田知宏より
昨今の医療DXの議論では、どうしてもデータを「使う」側の視点で議論され、本来情報技術の恩恵がもたらされるべき医療現場に、データを「作る」仕事を押し付けてしまいがちです。患者さんの権利を守るための手段だと考えられている「同意取得」も、患者さんの権利を直接守るべきデータ利用者の「免罪符」を患者さんから得る作業を、医療機関に「押し付け」ることに、結果的になってしまっています。医療現場の負担を高めることなく、データ利用者が自ら患者さんの権利を守るよう努めている姿が患者さんから見えるようにして、患者さんも、医療機関も、データ利用者も、それぞれが自分のすべきことをして「みんなが幸せ」になるためには、「出口制御」、つまり「使う人」に直接規制をかける個人情報保護の仕組みを社会全体で作る方が良いだろうと考えます。この提言が、そんな社会のありさまを議論するきっかけになれば幸いです。
◆国立病院機構大阪医療センター院長、大阪大学名誉教授 松村泰志より
個人の診療に関わる過去からの情報は、本人のためにも、また、未来に類似の病気になる人達にとっても貴重な情報であり、その価値は一般に思われている以上です。ICTを活用することで、その利用を促すことができますが、個人情報の漏洩リスクがゼロではないこと、名前等を消しても個人が特定できる可能性がゼロではないことから、日本では個人の同意が必要とされ、その手続きの煩雑さのためにICTの利用が進まない結果となっています。この問題を合理的に考えて法整備を行い、ICTの活用を促進させる必要があります。
◆医療法人DENみいクリニック理事長、早稲田大学理工学術院教授 宮田俊男より
実際にオンライン診療の初診を行っていますが、医療DXがもっと進めば、得られる情報を事前にもっと多く得ることができ、診療の質の向上につながります。またコロナの臨床上のエビデンスも日本から世界に十分に発信することができませんでした。入口の同意の規制を改め、出口規制を適切にすることで、さらなるデータ利活用が進み、国民の安心感を高めるとともに世界の公衆衛生に寄与できると思います。
◆国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター長、一般社団法人 Medical Excellence Japan シニアフェロー 美代賢吾より
現在の治療法や処方薬は、過去の患者のデータを用いて開発されました。自らの診療データを自らの治療に利用することは当然ですが、これを未来の患者のための新しい医療の開発にも活用できれば素晴らしいことだと思います。特に日本は、国民皆保険のもと、誰もが等しくまたバリアなく医療が受けられ、質の高い医療が提供される稀有な国です。提言を通じて、この国の悉皆的な診療データが「健康」という人々の普遍的な価値の実現に貢献するために、技術的、制度的、法的な改革が進むことを期待します。
(※1) EHDS構想(European Health Data Space):欧州を単一市場として捉え、データの共有を実現するため、データ収集の仕組み作りについて示した構想
以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。