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シーズをつかめ シンクタンクが提案する再生への処方せん
提案を評価する制度必要 選定段階からのパートナーシップを

出典:日刊建設工業新聞 2004年10月4日

事業リスクの低減図れ

課題残る事業者選定手法

PFIやPPPの案件数は増えてきたが、事業者選定手法については依然として模索が続いている。その原因として指摘されるのは会計法や地方自治法により定められた入札制度を前提とした硬直性の高い選定プロセスである。募集要項に提示された条件は、事業者決定後も変更はないものとされているからだ。
PFIについては価格だけでなく提案内容を評価に取り入れようとの観点から総合評価方式やプロポーザル方式で提案審査されるものの、多くの課題が残されている。
例えば、総合評価方式では、事前に事業者を選定するための審査基準を決める必要があるが、事業者の創意工夫を評価するための完ぺきな基準をあらかじめ発注者側で予測し、設定することは困難である。付加価値の高い事業であればあるほど、書類だけの審査だけではなく、十分な面接や意見交換を経て決めることが必要となってくる。

一発勝負からの脱却を

英国の公共調達では通常、ロングリストとショートリストによる2段階の選定が行われており、ショートリストとして数社が絞られた後は、選ばれた事業者と公共側の間で詳細な提案評価が行われる。例えば、以前紹介した総合ごみ管理事業のような数百億円規模の事業では、提案の内容が多岐にわたり発注額も非常に高額となる。このような事業では、提案内容を基に、長い期間をかけて複数の事業者と意見交換を行った後、最終的に一者に絞り込むプロセスが取られている。複数の事業者と実質的に交渉に近いことを行うことは手間やコストがかかるが、事前に提案内容を深く評価でき将来的な事業リスクを低減することができる。複数の事業者と個別に議論を行うことは、入札での「一発勝負」を原則とする日本では透明性の観点から問題視されることが多いが、英国では記録を残すことで手続きの透明性を確保するなどの工夫が行われている。
こうした実効性の高い選定手法が取られている背景には、長期にわたり事業を共に行っていくパートナーを選定するに当たって制度を柔軟に解釈しようという姿勢がうかがえる。

パートナリングとは

最近、英米では、建設工事を中心にパートナリングという概念が取り入れられている。パートナリングとは、発注者と受注者、または受注者と下請との間のコミュニケーションをより強化しようというものである。元来、契約社会である英米では、工事に伴う紛争が耐えないという問題があった。1件の工事で千件規模でのクレームが発生するのが通例であり、これらのクレームの対処に多大な労力とコストを要していた。当事者間での連絡不足や信頼感の欠如の結果、訴訟による工期・値段・品質の悪化という問題にまで発展していた。 パートナリングの場合、当事者間でワークショップを開催し、あらかじめターゲットコストを設定し、 事前に把握できないリスクについては、受注者が発注者と受注者で配分するという手法が取られている。例えば、香港で導入されている二段階入札とパートナリングを組み合わせた方法では、応募者が数グループに絞られた段階で、応募者が事業で想定されるリスクを洗い出し、その対応について議論を行う。見えないリスクは「シェアードリスク(配分リスク)」扱いとなり、対応のためのコストは、事業者が見積りを行う。
この方式では、あらかじめターゲット価格を発注者と請負者の双方で決定し、それを上回った場合と下回った場合の費用を双方でシェアすることになる。パートナリングを導入した場合、リスクを配分する仕組みを取り入れることで、民間は必要以上にリスクを抱え込む必要がなくなり、ローリスク・ローリターン型になるというメリットがある。ただし、これを実際に導入するためには、コスト情報を徹底的に開示するオープンブックによる管理が必要になる。パートナリングには特に決まった手法があるわけではなく、様々な手法が試みられており、重要なのはその考え方にあるとされている。かつて 筆者が英国のパートナリング推進機関を訪問した際、「パートナリングとは相互信頼に基づく協働作業だ。日本人の方がパートナリングは得意ではないか」という指摘を受けたこともある。

パートナリングの土壌がある日本

確かに、日本の公共工事はクレーム数も非常に少なく、完工遅延や低品質が英米のように問題化しているわけではない。むしろ、PFIやPPPの導入などこれから契約社会に移行する段階であるともいえる。いわば、パートナリングの土壌がある上で、いかに今後PFIやPPPといった官民の協働手法を取り入れていくか、といった課題がある。
パートナリングは、特に事前に数量などが明確にならない契約で有効とされており、PFIの場合、サービス部分が大きい事業や運営の比重が多い事業で有効性が高いと考えられる。そもそもPFIは、市民が公共サービスの利益を享受するという点で、公共と民間の利益が一致しており、パートナリングになじみやすいとも言える。
PFI事業について言えば、現在の入札制度を前提とした事業者選定のままでは提案内容が十分に評価されず、結果として価格競争に陥るとの指摘がよく聞かれるところである。事業でのパートナーシップを実現するために、選定段階での十分なパートナーシップを構築する必要があるのではないだろうか。


官民の協働手法 いかに取り入れるかが課題


 

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