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CSR企業人派遣講座より  5 CSRをめぐる概念、システム

出典:経済広報 2004年10月号

経済広報センターは、今年度、早稲田大学商学部でCSR(企業の社会的責任)をテーマとする企業人派遣講座を実施している。その第7回として、日本総合研究所の足達英一郎上席主任研究員が「CSRをめぐる概念、システム」について講義を行った。講義の要旨は以下のとおり。

我々はどういう時代に生きているか

■我々の暮らし

1 地球規模での暮らし

世界中の人たちが今の日本人と同じような暮らし(モノの消費、エネルギーの消費など)を始めた場合、エコロジカルフットプリントという手法を使うと、地球が約2.7個分必要といわれている。同様に、アメリカ人と同じような暮らしを始めたなら、地球が約5.6個分必要だといわれている。 発展途上国の人たちは、豊かな暮らしをしたい、貧困を解消したいと日夜考えている。一方、地球の容量は決まっている。この2つの間でどう折り合いをつけていくか。この問題が、世界的にCSRへの関心を高めている大きな背景のひとつである。

2 地球温暖化問題

世界の穀物市場が値上がりしている。これは世界各地の異常気象やかんばつが原因だと考えられている。地球温暖化が、実際の暮らしや経済へ影響を与え始めた。

3 社会のの不安定性、不確実性

社会の不安定性、不確実性が大きくなっている。世界的にはエイズでの死亡、SARS問題、イラク戦争やCO2(二酸化炭素)排出量問題など懸念されることが多々ある。日本では5年連続で自殺者が3万人を超している。犯罪も急増している。2002年度の生活保護受給世帯87万世帯となり、過去最多記録を更新した。受給人員は124万人に達し、いまや国民の100人に1人が生活保護を受けている状態だ。また、世帯間の所得格差が拡大し、日本社会の不平等化が進行している。

■政府セクターの機能不全

従来は、前述したような社会的問題は政府が解決するものだと考えられてきたが、今は政府への不信感が強まっている。1990年度と2001年度の日本の預貯金の流れを比較する。2001年度になると、明らかに家計からの資金が民間金融機関よりも郵貯・簡保・年金など国に流れている。ペイオフの影響が考えられる。国に集中している資金はご存知のとおり、無駄な高速道路など公共投資に向けられる。本当に必要な犯罪対策や、子どもへの教育などには、まだまだ目が向けられていない。また、欧米でも政府への信頼感は相対的に低く、NGOや企業への期待が高まっている。 このような背景から、企業に対する期待、監視の目が大きくなり、CSRへの関心が高まっているのだ。

CSRの概念

■CSRの観点から求められる新たな企業像

従来の「企業の責任」は、製品・サービスを市場に提供し、税金を納めることで利益を社会に還元していた。さらに余裕があれば、メセナ、フィランソロピー活動を通じて社会に貢献するものと考えられてきた。しかし、その領域が大きく拡大し、法令遵守、説明責任と情報開示、顧客に誠実、人材を育成・支援、環境保全を重視、グローバル市場に的確に対応、社会活動に積極的に関与するなどの新たな企業像が求められるようになった。

■欧米的なCSRの前提にある「市場の進化」

欧米の先進的な企業のなかには、次のような企業が出てきた。従来、様々なステークホルダーが企業に公益への配慮を求め、監視するという動きは、企業側にとって耳障りであり重荷であった。しかし、少しずつではあるが、ステークホルダーにそのような動きや声があるなら、ステークホルダー重視を競争力のカギと位置づけ、CSRに積極的に取り組もうという企業が出てきた。

■CSRが「企業業績に至る道筋」としての5つのバス

CSRに取り組むことが企業業績に結びつくという考え方が、徐々にはあるが仮説として認められるようになってきた。その5つの要素を、例を交えながら紹介する。

(1)コストマネジメント
分かりやすい例では、企業の中の廃棄物を減らすことがコスト削減に繋がるという考え方である。

(2)リスクマネジメント
海外ではNGOの力が拡大している。あるNGOが4年間にわたり米銀を攻撃した。熱帯雨林を壊すような企業、C2Oを排出するような企業にお金を貸すなという内容であった。CSR的な視点を持っていれば回避できたかもしれない。

(3)企業イメージやブランド形成
儲けることだけに専念するのでは企業イメージなどの向上には繋がらないという考え方だ。

(4)事業革新の実現
トヨタ自動車のプリウスは、利益以上に、環境問題へ対応する企業を鮮明に打ち出すための車であった。しかし今ではビジネスの屋台骨となるまでに成長した。

(5)従業員をひきつける
今のように少子高齢化が続けば、将来的には労働者の人口が減る。企業にとってはいかに優秀な人材を確保し、企業に定着してもらうかが競争力のカギとなる。従業員をひきつけるためにも、利益だけでなく世の中に尊敬される企業となる必要がある。

■人々の選択が世の中を変える

CSRに積極的に取り組むことが企業の競争力になるという概念が、果たして日本でも現実のものになるのか。これは人々の選択・行動にかかっていると思う。以下、それに繋がる事例を紹介する。

(1)消費者の購買行動
2002年に経済広報センターが行った調査によると、「商品を購入する際、不祥事の有無、社会的責任への取り組みをどの程度重視するか」の質問に対し、「社会的責任を果たし、倫理観を徹底させている企業のものを優先的に購入する」との回答が62.4%。「品質・価格・好みを優先して購入を決める」が32.9%。回答者の多くが企業に関心のある方々であったとはいえ、企業行動を考えた上で、商品を購入するという興味深い結果となった。

(2)就業者の意識
男子学生の就職意識調査で「あなたの就職観に最も近いものはどれか」という質問に対し、「楽しく働きたい」と回答した学生が、年々減少している。逆に「人のためになる仕事をしたい」「社会に貢献したい」が年々上昇している。企業にとって優秀な人材を確保するためには、世の中から尊敬される企業になることが重要だという考え方は、あながち間違いではないように思う。

(3)投資家の意識
従来、株を買う投資家は、投資先企業の財務情報に関心を持っていた。従って、決算や新製品を評価していた。しかし、それに加えて企業の社会的責任を評価し、株を買うという動きが広まっている。長期的にみると、社会的責任を果たしている企業が、将来の企業価値を維持できると考えるようになってきた。

(文責:国内広報部専門研究員 佐々木貴士)

 

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