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環境・CSR 入門講座
どのような道筋でCSRは企業業績に結びつくのか

出典:環境・CSR  2004年9月8日臨時増刊号


「企業の社会的責任」もしくはCorporate Social Responsibility(CSR)という言葉は、いずれも決して新しいものではない。しかし、この数年、この言葉に対する新たな関心が世界的に拡大しているということができる。「CSRとは、社会が企業に対して抱く法的、倫理的、商業的もしくはその他の期待に対して照準を合わせ、すべてのカギとなる利害関係者の要求に対してバランスよく意思決定することを意味する」というのは、米国のCSR推進企業団体Business for Social Responsibilityの定義である。ここでは「社会が企業に対して抱く期待」という部分に注目したい。世の中は不確実性と不安定性を強めている21世紀にバラ色の未来を描く人はめっきり少なくなった。たとえば、2003年を振り返っても、全世界で300万人の人がHIV/AIDSで死亡しており、重症急性呼吸器症候群(SARS)という新たな感染症も出現した。米国と英国がイラク攻撃を開始したのも昨年であり、世界の二酸化炭素排出量は依然として増加している。その一方で、世界の人々の5人に1人は、1日1ドル未満で生活しているという状況に変化はない。国連の報告によれば、世界には2000万人の難民が住まいを追われて生活している。これまでは、これら社会的な問題に対して規制や社会保障などを通じて手を打っていくのは政府の役割とされてきた。しかし、官僚主義による硬直化、財政構造の悪化、政治の指導性欠如などにより、その政府の機能不全がどの国でも顕著になってきている。また企業グループ全体の売上高が、一国のGDPを上回る例は決して珍しくなくなり、多国籍で活動する企業の行動を、一国の法律で縛ることも困難になっている。米国のEdelman社の調査によれば、欧州では政府に代わって「信頼できる」として評価されたのが「NGO」で、その割合は41%に上っている。社会問題に対して、監視の目を光らせ、予防策を講じ、解決に向けた行動を実践する主体としての「政府」の地位を、「NGO」が取って代わろうとしている。このような状況下で企業とNGOとの関係を象徴するキーワードとして「CSR」がクローズアップされている。こうした傾向は、1990年代後半の欧州で先行して始まった。EU統合の中で、経済格差の拡大、失業問題の深刻化、秩序や治安に対する人々の不安がいち早く顕在化したからである。

一過性のブームで終わるのか?

一方で、日本はどうか。現在、「企業の社会的責任」に関心が集まっている背景は「NGOの台頭」ということよりも、「企業不祥事の頻発」「SRI(社会的責任投資)投資信託の拡大や企業間取引における要請」「ISO(国際標準化機構)によるCSR規格化の推進」といった要因が大きい。 SRI投資信託に関していえば、99年に環境問題への取り組みの進んだ企業を選定して投資を行う「エコファンド」から日本のSRIが始まった。資産残高はわずか5年間に1500億円を超える規模に成長している。また、海外のSRI投資家からの評価・選別の目も確実に厳しくなっている。 企業間取引においても、流通業から食品製造業に、組立メーカーから素材・部品メーカーに環境・社会問題に対する一定の配慮を行うことを取引条件として求める「サプライヤー行動規範」を示すところが現実に出てきている。ISOでは、01年春から消費者団体などの声を背景に、CSRの国際規格化を検討してきたが、今年6月には組織のSR(Social Responsibility)に関して、第三者認証を目的としないガイダンス文書の策定に着手することを議決した。 6月21~22日には66カ国の355名が出席して、ISOの社会的責任に関する規格化の議論のための国際会議がスウェーデンで開催された。 産業界の消極的姿勢とは対照的に各国規格協会、消費者団体、発展途上国の積極的な意見が大きな影響力を持った。このような背景の下で、日本企業のCSRに対する理解は、海外とはやや異なる面もある。すなわち「コンプライアンス経営の徹底」と「日本的経営の再評価と情報発信強化」をもって、CSR経営の推進と理解しようとする傾向である。このことは、時に日本におけるCSR議論の内発性の欠如として指摘される。これが一過性の言葉のブームに終わるとの指摘を生むゆえんともなっている。

消費者、株主、学生も期待に率先して応える

確かにわが国の「NGO」の存在感は、欧州に比して小さい。しかし、消費者が商品選択を行う際には、従来のように品質・価格・好みばかりでなく、メーカーや販売業者の企業としての環境・社会問題への取り組み姿勢を反映させるようになってきた。株主は株主総会などで企業の環境・社会問題への取り組み姿勢を問題提起するケースも増えてきた。あるいは学生が就職活動を行う場合、企業の環境・社会問題への取り組み姿勢を考慮して企業選択を行うことなども、現実になってきている。これまでは、こうした消費者、株主、学生は企業にとって取るに足らない存在だったかも知れない。しかし徐々に、こうした層が拡大していくのだとしたら、「彼らが企業に対して抱く期待」というものにいち早く耳を傾け、企業が率先して期待に応える行動をとっていくことで支持を獲得するという戦略仮説が導かれる。言い換えればCSRが企業の競争力につながるということである。欧米では、CSRが企業業績につながる道筋について、活発な研究が行われ、ケーススタディも多く生まれている。
具体的には、

1 潜在的なコスト削減
2 リスクマネジメント
3 企業イメージやブランドの防衛、改善
4 事業革新の機会獲得
5 人材の獲得、定着、活性化

などがその具体例である。SRIも実際、こうした観点からの将来の企業価値の増大に注目する新たな投資スタイルだといえる。社会が安定と秩序を取り戻し、頼りになる政府セクターが再生されないかぎり、CSRというトレンドは消え去ることはない。わが国においても展望は同様だ。

 

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