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欧州 [CSRヨーロッパ]に見るCSRの実態
ヨーロッパのコミュニケーション活動

出典:(社)日本パブリックリレーションズ協会報 2004年106号

グローバリゼーションの進展とCSR

新聞紙上でも、最近、「企業の社会的責任(CSR; Corporate Social Responsibility)」という言葉を頻繁に目にするようになった。日本企業にも、古くからこうした考え方は経営の根幹に存在していたという指摘がある一方、実際には外国人投資家のプレゼンス増大やグローバルなサプライチェーンの進展のなかで、欧米から波及している新たな要請という面は否定できない。世界のCSRの潮流を牽引しているのは欧州である。英国にはCSR担当大臣が置かれているし、超党派の議員連盟も存在している。フランスでは、今年から上場企業の年次報告に、環境・社会問題への対応に関する情報開示が義務付けられるようになった。欧州委員会(EUの行政執行機関)は、2001年7月にCSRについてのグリーンペ-パーを発行して、欧州においてこの概念をどのように社会システムに反映していくかの議論を続けている。こうした議論の背景には「グローバリゼーションの進展に対する不安」がある。製品、資本、人材、資材や部品などあらゆるものが国境を越える状況がますます拡大している。多国籍企業が、世界中で市場を開拓し、生産拠点を作り、資材や部品調達を行うとき、経済的価値だけを過度に優先すれば、環境破壊、労働環境の悪化、雇用の不安定化、地域での所得格差の助長、製品安全性の欠如など負の側面が必ず現れる。「国家よりも存在感を増した企業に、ビジネスの論理プラスアルファを考えて貰わないと、世界がとんでもないことになってしまう」という懸念が「企業の社会的責任」論の原点にある。加えて、先進国内の企業不祥事頻発が、企業に対する信頼感を著しく低下させている。他方、欧米ではNGOの存在感が増している。NGOは政府やマスメディアに代わって、企業を監視し、批判キャンペーンやボイコットなどを通じてその行動を是正させる役割を果たしている。こうしたNGO(環境保護団体をはじめ消費者団体、労働者団体、株主団体など多様な企業を取り巻くステークホルダーを含む)からの要請も背景にある。

CSRヨーロッパの役割

さらに、欧州においては、政府の役割の低下という背景もある。ユーロという通貨価値を守るために欧州各国は自国の財政赤字をGDPの3%以下に押さえ込まなければならない。このため政府は自由な財政出動ができないでいる。一方、欧州内でも経済的格差の増大、犯罪の多発、教育の荒廃などさまざまな社会問題が深刻化している。今後、旧東欧圏などから新たに10ヶ国がEU入りを果たすと、事態は一層複雑化すると予想されている。従来、政府が果していた役割の一部を、企業にも担って貰いたい。こうした期待も高まっているのである。世界の先進企業には、こうした状況を捉えて「社会的責任」に積極的に対応していくことで、リスクマネジメントを強化するとともに、他社に対しての競争優位を築こうと考えるところが出てきた。こうした企業の連合体として「CSRヨーロッパ」がある。本部をブリュッセルに置き、60余りの大手企業をメンバーとして、CSR概念の普及、啓発に取り組んでいる。具体的には 1ベストプラクティスの共有と普及、2管理職を対象にした教育、研修などだ。さらに、もうひとつの役割が欧州委員会に対するロビイングである。現在、欧州委員会はEuropean Multi stakeholder Forumという企業、労働団体、消費者団体、環境NGO、人権NGO、投資家団体などをメンバーにする会議体を組織して、欧州委員会としてCSRに関してどのような施策を今後進めていくかを諮問している。04年夏には、その答申が行われる予定であるが、そこでもCSRヨーロッパは積極的な役割を果している。

ステークホルダー・リレーション活動の重要性

このCSRヨーロッパが特に力をいれている分野に「ステークホルダー・リレーション」がある。03年3月に発表された報告書「CSRと企業IR活動」では、企業のIR担当者がCSRの観点からの企業価値を世の中に伝える重要な役割を果たすようになっている実態を、欧州の有力20企業に対するインタビューを通じて明らかにしている。「ステークホルダー・リレーション」と従来の「パブリック・リレーション」という言葉との差異をあえて強調すれば、前者は投資家、顧客、従業員、NGO、地域社会といったステークホルダーごとの関心事や企業への期待に則してコミュニケーションを行い、良好な関係性を構築していこうという考え方である。ここでは媒体としてマスコミや電子メディアを活用するというよりも、むしろ直接的な対話が重視される傾向がある。さらにいえば、NGOとの連携プロジェクトの実践活動それ自体が「ステークホルダー・リレーション」活動と位置付けられてもいる。一例を挙げれば、英国のBP社は「ステークホルダーの意見が持続的な事業継続の鍵である」と言明して、直接、間接のコンタクトやステークホルダー・ミーティングを重視している。また、フランスに本拠を置く大手総合エネルギー企業Electricite de Franceは「すべてのステークホルダーとの対話を通じ、経済的発展、環境保護、社会的平等を両立させる」と01年に宣言して、03年からは、アニュアル・レポートと環境・社会責任レポートを統合して発行するようになっている。CSRの定義 "CSR means addressing the legal, ethical, commercial and other expectations society has for business, and making decisions that fairly balance the claims of all key stakeholders"に従えば、CSR経営とは「ステークホルダーの声に積極的に耳を傾け、そのなかから企業を鍛えようとしていく経営」にほかならない。そこでは、コミュニケーション活動が鍵を握り、ステークホルダー・リレーションの巧拙が、まさに競争力を左右する状況が生まれているのである。

 

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