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自治体におけるアウトソーシング導入のポイント 第8回

出典:地方財務 2004年1月号

廃棄物の包括的アウトソーシング


1 何故、廃棄物の包括的のアウトソーシングか

本連載で述べてきたように、自治体の廃棄物処理事業、特に焼却・溶融施設の運営管理においては、新技術への対応や管理体制の改善、リスクの封じ込めといった観点からアウトソーシングを導入するメリットが大きい。これは、15年を超える運営期間中、廃棄物処理施設の運営を、民間の創意工夫とリスクテークに任せるというものである。一方で、廃棄物問題は3R(Reduce, Reuse, Recycle)が重要である、といわれるように、廃棄物行政の本質的な目的を達成するためには、廃棄物の減量化を図っていくことが必要である。しかし、現状の廃棄物処理事業のアウトソーシングでは、廃棄物が減っても、自治体は事業を継続するための一定額以上のコストを負担するのが普通である。例えば、日本では、供給保証という形の支払い保証はなされていないものの、事業を維持するための施設費や人件費を固定費として事業期間中に支払うこととしており、固定費が委託費全体の8割程度を占めるケースもある。廃棄物が減量した際の変動費の支払いは避けられるものの、固定費を負担しなくてはならないという点で従前の公共事業と大きくは変わらない。こうした構造のもとでは、廃棄物の処理量が例えば、現状の半分に減るような変動が起こった場合に、十分な効率的施策が運営できるとは言い難い。このような問題が生じるのは、廃棄物処理事業に限らず、これまでの社会基盤施設の整備や運営が、基本的に人口増を前提とした枠組みの中で行われてきたからである。しかし、今後、これまでのような増加人口を見込むことはできないと考えられる。国立社会保障・人口問題研究所が2002年1月に行った試算によると、将来の日本の総人口は、2006年をピークに減少する見込みとなっている(図1※略)。中位推計に基づくと、2050年にはピーク時から2割程度減少し、1970年頃の水準にまで減少することとなる。日本の社会基盤施設は、人口減少時代に対応する必要がある。加えて、廃棄物政策においては、リサイクルを推進する政策が需要の減少に拍車をかける。政府が、平成11年9月28日のダイオキシン対策関係閣僚会議で決定した「廃棄物の減量化の目標量」によると、平成22年度において、一般廃棄物と産業廃棄物あわせて、廃棄物の排出を5,300万トンから5,000万トンに5%削減し、リサイクル率を10%から24%に増加した上で、再生利用できない廃棄物を中間処理により減量化し、最終処分量を半減させる、という目標が示されている。このように、廃棄物処理事業においては、需要減少を生み出す社会的背景や政策的背景を鑑みると、従来型の投資事業では十分に効率的な事業運営を行うことは困難である。需要の減少に対して、需要増時代につくられた事業構造を踏襲してリスク管理を行うことが良い結果をもらたすといえないのである。こうした問題を解決するためには、民間の業務範囲を従来よりも拡大し、性能発注の要件を、より高位の政策目標とした形でのアウトソーシングを行うことが有効である。現在実施されている焼却施設のアウトソーシングでは、施設に搬入されたごみを、適正に環境要件を遵守しながら処理を行うことが民間企業に求められる要件である。これを、次の1~3をクリアすれば、廃棄物の政策目標と民間の事業のベクトルを一致させることができる。
1 ごみの減量化の実現
2 高いリサイクル率の達成
3 住民サービスの確保
これは現在、自治体において検討している地域の廃棄物管理の計画にも民間の創意工夫を活用しようという発想である。政策目標の達成を含めた包括的なアウトソーシングは、日本の廃棄物分野においてはまだ例がないが、公共サービスへの市場原理の導入が進んでいる英国では、総合ごみ管理 (Integrated Waste Management)が始まっている。本稿では、この総合ごみ管理の概要について述べた上で、日本の廃棄物事業において同様のサービスを導入する可能性を示すこととする。

2 英国の総合ごみ管理の概要

英国はEUに加盟していることから、廃棄物政策はEUの方針の影響を色濃く受けている。近年、EUにおいては埋立率削減のための数値目標が定められ、加盟各国に削減目標が割り振られ、達成できなかった場合のペナルティも定められた。英国においては、この目標を達成するため、各自治体の埋立率削減目標が設定されたため、各自治体では、他の自治体との広域的な連携や、民間企業への広範囲のアウトソーシングなど、様々な取り組みが行われている。この1つが、一定のリサイクル率の達成や埋立率の達成を要件としたアウトソーシングを行う総合ごみ管理である。総合ごみ管理とは、民間企業に一定のリサイクル率の達成や、埋立率の削減を義務づけた上で、そのために必要となるごみの収集、リサイクル施設や焼却施設の整備と運営、埋立処分、資源のリサイクルといった事業を包括的に委ねるものである。この場合の民間企業の役割は、決められたエリア内で発生する家庭ごみを、定められたリサイクルや埋立率の目標を達成して処理することである。したがって、そのための中継施設、コンポスト化施設や資源回収施設、焼却施設の配置計画等が民間の裁量に委ねられており、施設の許認可リスクも含めた相当のリスクが民間に移転している。表1(※略)に、国の補助金の交付を受けている総合ごみ管理の案件を示す。検討中のものも含めると、案件の数はすでに10件以上にのぼっており、特にここ数年で導入が進んでいる。契約期間は25年程度が多い。これには施設の投資回収期間や補修時期も関係しているようである。業務範囲が広く、契約期間も25年の長期にわたることから、契約金額は大きいものでは、1,000億円以上の規模にも上るプロジェクトもある。プロジェクト規模が大きく、事業構造が複雑なため、民間企業が応札するためのコストが1億円規模にものぼるという課題もある。総合ごみ管理では広範でリスクの高いサービスの受け皿となる民間企業が存在することが前提となる。仮に、自治体がリサイクル目標の達成や埋立削減といった政策目標の達成を条件として、廃棄物処理業務全般のアウトソーシングを目論んだとしても、応募者がいなければ絵に描いた餅に終わることになる。そうした意味で、英国で総合ごみ管理が進んでいる背景として重要なのは、大陸系のマネジメント企業の存在である。代表的な企業としては、表1(※略)にもあるように、フランスのVeolia Environment(旧 Vivendi)グループの廃棄物処理会社であるOnyx'同じくフランスのViridorやSita'ベルギーのBiffaといった企業を挙げることができる。これらの企業はいずれも英国だけでなく欧州での実績を有しており、合併吸収を繰り返して拡大しているという特徴がある。一方、英国起源の会社としては、スコットランド起源のShanksという企業があるが、大陸系企業と同様、ベルギーやオランダの企業を買収するなど合併と業績の向上により規模を拡大し、ヨーロッパにまたがる廃棄物マネジメント会社となった。このように、資本力と合併吸収により廃棄物処理の運営ノウハウを取り込んでいる企業が複数存在しているのが、英国の総合ごみ管理の特徴である。こうした事業者はどのようにして選定されているのだろうか。英国で補助金の交付を受けるプロジェクトでは、図2(※略)に示す手続きに則って事業者選定が行われるのが通常である。まず、資格審査を通過した複数社から詳細提案を受け、BAFO(Best And Final Offer:最終提案)の段階では2社程度が残り、個別に交渉を行ったのち優先交渉権者となる1社が選定される。複数社から最終提案を提出する2社程度に絞る際には、経済性や、技術・計画面、リスク分担などの各要素について点数をつけ、それらの加重平均により総合点を出している。最終提案の段階では、民間企業から詳細な事業計画が提出される。この計画には、事業期間にわたる廃棄物排出量の見込みのほか、それを踏まえて決定される施設の投資時期や投資規模、施設構成、立地場所を含む施設計画、各年度のリサイクル率や埋立削減率などが示され、この良し悪しが事業者選定のための根拠となる。

3 英国の総合ごみ管理のメリット

総合ごみ管理のメリットは、自治体としては適切な事業者を選定することによって、政策目標を達成できる可能性が高くなることである。これは、民間企業が提示されたリサイクル目標を達成することが契約の条件となるためである。さらに、契約の条件よりも高いリサイクル率を達成した場合には委託費の支払いが増額されるインセンティブも導入されている。支払には大きく3つの要素がある。受け取ったごみの総量で決まる変動費、リサイクル量や再資源化量によって決まるインセンティブ、埋立量の増加によるペナルティである。総合ごみ管理のもう1つメリットとして、民間が施設の計画策定を担うことで、自治体が地域住民と同じ立場から計画をチェックする立場に立てるという点を挙げることができる。英国においても、日本と同様、焼却施設の新規立地には住民合意の問題があり、当初の計画どおりに立地を行うことは容易ではない。例えば、Surreyの案件では、焼却施設建設への反対運動があり、2002年8月の段階で自治体から認可が得られず、施設建設を断念した経緯がある。Hereford & Worcesterの案件においても同様に、3年間にわたる住民反対運動の末、政府が計画を撤回させたとされている。これらは、自治体が住民の意図に反する提案を選定したことにより発生した問題であるが、提案の選定段階で地域住民の意向を反映できればこうした問題に対処することもできる。一例として、事業計画策定段階においてリサイクル率の高い提案が選定されたELWA(East London Waste Authority)のようなケースもある。ELWAは1986年1月に設立された、廃棄物の処理責任を有する広域組合であり、ロンドン東部の4つの自治体(Barking & Dagenham, Newham, Havering, Redbridge)から構成される(図3※略)。事業者選定の最初の段階では約10社が応募したが、最終提案の段階では、受注したShanksを含めた2社に絞られることになった。このプロジェクトで特徴的なのは、焼却を排除したアプローチが採用されたという点である。Shanksは、当初は焼却を提案していたが、最終提案の段階で焼却施設ではなく、MBT(Mechanical Bio-logical Treatment)という方式を提案した。MBTとはフラフバーンのRDFに近い方式である。MBT施設では、ごみは破砕処理後、乾燥され、細菌と悪臭を取り除いた後、金属や石、ガラス、剪定ごみが取り除かれてリサイクルされ、残りは燃料としてエネルギー回収される。一方、リサイクル可能な紙やプラスチック、アルミ、鉄はまとめて同じ袋にいれ、他のごみと一緒に収集されリサイクルされる。住民にとっての分別の負担が軽く、同じ収集運搬車輌を使えるというメリットがある。

4 自治体と民間企業の協働体制

総合ごみ管理には、住民への啓発活動や収集運搬業務も業務範囲に含まれるケースもあることから、いかに公共性を確保するかが重要である。廃棄物政策の最終的な責任は自治体が負っていることから、公共と民間の間での情報共有体制が重要となる。先に示したELWAの場合、ELWAと事業会社の間で運営にかかるすべての情報が共有されるほか、投票権のない役員としてELWAのメンバーが事業会社に参加することで、財務情報が共有されるしくみとなっている。ELWAには、構成自治体から各2名のメンバーが派遣されており、結果的に、ELWAを構成する自治体にも情報が共有されている。なお、英国では公務員の民間移転が行われるのが普通であり、先に述べたELWAのケースでは、70人の公務員がSPCに移転した。英国おいては公務員の民間企業への移転に際してはTUPEという制度が適用され、移転前と同じ水準の待遇が保証される。TUPEは、もともとは、企業のM&A(合併や吸収)等が行われた場合に、従業員の身分を守る制度であり、公務員に限らず、合併等で職を移る場合に適用される。官民間の事業では、自治体から受託者、受託者から次の受託者、受託者から自治体の移転の場合に適用される。

5 日本における総合ごみ管理の導入

以上、英国における総合ごみ管理について紹介した。冒頭述べたように、総合ごみ管理は、業務範囲を拡大し、より高位の政策目標の達成を民間に課すという点で、廃棄物政策の目標に叶っている。実際に導入を考えるにあたっては、日本の現状を踏まえていくことが必要である。一点目として、焼却施設が100程度しかない英国と比べ、日本では焼却率が高いことである。日本では、焼却が埋立回避の有力な手法となっていることから、サーマルリサイクルを進めながら、環境負荷を減らし、運営コストを削減できるような処理方法を模索する必要がある。その際、今後、広域化や市町村合併が進むことによって、1つの自治体の中に稼動開始年の異なる複数の焼却施設が存在することが考えられる。これらの施設は、人口増加の時代に十分な余裕率をもって設計されていることから、廃棄物の量に対して十分すぎる量の処理能力が確保されており、運転や維持管理に多額の費用を要している。この低稼働率の施設をどうするかが課題となる。このための方策としては、民間企業に、複数の処理施設の運営を委託することが考えられる。例えば、サーマルリサイクルや処理単価の観点で効率の良い施設にごみを集中させ、片方の施設の系列の停止を行えば、維持管理費を抑制することができる。その上で、節約したコストで、リサイクルのための啓発活動を強化することも可能となる。二点目は、容器包装リサイクル法に則った分別回収が進んでおり、回収頻度や収集車輌の増加によって収集運搬コストが上昇してきていることである。一例を挙げると、名古屋市はごみの減量化を図るために分別収集の徹底を図り資源化を進めた結果、収集運搬コストが大幅に増加した。リサイクル率を向上させるなかで、収集運搬をいかに効率化するかといった点も考慮する必要がある。海外のあるマネジメント企業は、GPS等のITを用いて、収集車の搭載量をモニタリングすることで最適な運行管理を行っている。積載量を都度把握しているため、ごみの排出量管理も可能であるという。こうしたIT管理を導入すれば、リサイクルや収集運搬を最適化することも可能となるほか、施設の稼動率管理にも役立つ。三点目は、焼却・溶融に伴う生成される再資源化物の活用が重要だということである。日本では溶融施設の導入が進んでいるが、スラグ等の再資源化物の活用については、埋立が行われているようなケースもあり、再資源化物の活用に向けて官民のネットワーク力を作ることが考えられる。このように中間処理だけでなく、収集運搬や再資源化をも一体的に行うことで、廃棄物の流れ全体の視点にたった効率的な事業運営が可能となる。包括的なアウトソーシングはややもすると、公共側の責任の放棄や民間への「丸投げ」のように捉えられがちである。また、民間が収集運搬や処理を担うことで、公共のチェック機能が働かず不法投棄が発生するといった懸念も聞かれる。こうした課題に対する取り組みが必要なことは確かであるが、民間企業と公共が政策目標を共有し、広い視野から住民啓発、収集運搬、中間処理、リサイクルといった廃棄物事業全体のあり方を考えることで、より効率的で環境負荷の低い政策の実現が可能となると考えられる。

 

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