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CSR:その概要と企業の取組

出典:日本機械輸出組合 2003年6月度

背景

1999年からスイスのUBSとタイアップして、日本でエコファンドという投資信託の商品をスタートさせた。これに関連して、私どもは企業評価の部分で仕事をしてきた。ルクセンブルクでスイスのUBSが設定しているファンドについては、2000年から環境以外の評価指標も試行的に採択して、昨年からは正式に企業評価のクライテリアとして導入している。ここ3ヵ年程度の流れを見てきた立場からお話しを申し上げたい。

CSRとは

CSR(Corporate Social Responsibility)は、EUのヨーロピアン・コミッションが昨年出したグリーンペーパーの中でこう定義している。「企業の事業推進そのものに関連し、ステイクホルダ-との関係性の上で、自発的な姿勢に基づいて、社会適合性、環境適合性に関心を払っていくものである」と。 一つ目の「事業推進そのものに関連し」とは、従来メセナとかフィナンソロフィーといって企業は利益の中から一部を社会貢献に使うという社会性発揮の側面があったが、そうではなくて、事業推進そのものに関連した取り組みであって欲しいというものである。二つ目の「ステイクホルダーとの関係」とは、特に欧州は昨今「ステイクホルダー・エコノミー」とか大変好んで使うが、企業を取り巻く利害関係者との関係性の上でものを考えて欲しいというものである。三つ目の「自発的な姿勢に基づいて」は、言い換えると、法律を守るということに加えて、いかに取組が進んでいるのかという所が注視されるのである。その内容は、社会の様々な諸問題との適合や、21世紀最大の課題である環境保全との適合に関心を払っていくということである。これが、一般的に企業の社会的責任と言われるものである。

何故、CSRなのか

企業はいろんなところから圧力を受けている。NGOからの圧力、安全な製品を求める消費者からの圧力、アセンブリーメーカーから部品メーカーに対するサプライヤーの圧力、またその逆、SRI(社会的責任投資)の観点からの株主、投資家、金融機関からの圧力がある。また、従業員の圧力がある。これは、欧州では従業員のモラールの問題と会社がいかに尊敬に値する会社であるかが一体となって論じられるようになってきている。さらに、労働組合からの圧力がある。これは、産業の空洞化に関連していかに雇用を守るかという観点である。最後に、政府からの圧力である。このように、様々な主体からの圧力を企業が受ける機会が増えているということが、CSRを考える上での第一歩になると思われる。

CSRに注目する欧州の背景

一つ目は、アンチ・グローバリゼーションの意識である。これは、NGOを中心に、あるいはフランスのような農業国で活発な意識である。二つ目は、安全や環境に対する高い意識である。例えば、遺伝子組み換え食品に対する欧州の対応、またドイツ、北欧の環境意識もその底流にある。三つ目は、米国流グローバリゼーションに対する欧州のアイデンティティ発楊である。事実上、企業競争の中では米国企業に負けてしまった欧州企業も多いが、それでも企業のあり方は米国流でないものもあるという道筋を見つけたいということでもある。四つ目は、政府の役割にも関わってくる。EU加盟国には財政赤字に対する一定の制約が課せられている。例えば、社会保障の問題、景気浮揚の問題を含めて、自由に財政出動をして景気回復しようということができない。英国では、病院や学校の整備もままならないと言われる。PFI(Private Finance Initiative)もその枠組の中から出てきた。昨今は、それは広がってPPP(Public Private Partnership)といって、従来政府が担っていたような社会的役割を、企業に担ってもらいたいという期待感がある。さらに、EUにおける産業空洞化である。これは深刻で、労働組合が何故CSRを問題にするのか調査すると、表立っては製造業が海外に移転することにNOとは言えない。しかし、例えば中国でその企業がどういう賃金で労働者を雇用しているのか問題にすることで、少しでも生産拠点の移転に歯止めをかけたいとの思惑もある。また、企業の側も労働組合やNGOと連携した政策づくりを強めており、ドイツでは企業の最終意思決定に労働組合の意思決定が相当程度コミットしているという制度的背景もある。最後に社会民主主義的な手厚い社会保障、社会的な平等、厚生といったものを追求する雰囲気、またそれが具現化している社会民主主義政権がまだいくつもあるという背景もあると思われる。

政府が積極的に後押しする理由

欧州委員会は、企業社会責任が競争力ある経済を作るという論理を推し進めて政策を展開しようとしている。より多くのより良い仕事と、より社会的に一体性を持ちながら持続的な経済成長が可能な経済を目指している。そしてそれが、世界で最も競争的で力強い知識基盤型の経済になるという認識を持っている。

企業の側の認識の深まり

CSRは、どちらかというと企業にとっては外圧の中で生まれてきた考え方で、日本でも反企業運動ではないかという感触を持つ方もたくさんいるということは承知しているが、欧州で企業へのヒアリングを重ねると、企業の側の認識も深まっていると気づかされた。ここでは4つ、企業の側の認識をあげている。一つ目は、CSRは企業のリスクマネジメント・ツールである。例えば事故、スキャンダル、特定NGOからの攻撃などに対する予防的防御策であるという認識である。二つ目は、CSRは有能な従業員の確保・動機付けのツールである。前述の力強い知的基盤型経済と謳われていたが、いわゆる知的従業員、人的資源のモチベーションは何か。アメリカ的に言えば、ヘッドハンティングであり高いサラリーであるが、欧州では違う。本当に有能な従業員達が会社に残ってくれて、非常に動機付けされて生き生きと働いてくれるその動機は、まさに尊敬される会社であるということである。日本でも学生の就職活動の中で、企業の環境問題への取組が話題になり、「環境就職ガイドブック」が出た。若い人ほど企業の社会的側面に関心を持ち始めている。三つ目は、CSRは経営効率化のツールである。分かりやすいのは環境問題である。欧州のWBCSDという組織があるが、今から10年ほど前に「環境効率性」という概念を提唱している。それは、労働生産性と同じような概念で、ある売上高を上げるのにどれだけ小さな環境負荷で達成できるのか、例えば二酸化炭素の排出であるとか、廃棄物の発生量だとかの尺度で企業の効率性を測るという考え方である。当時はまだ一種のスローガンだと思われていたようだ。しかし昨今、例えば廃棄物の処理費用はこの5年間で、日本でも2倍~3倍に跳ね上がっている。ゴミを減らすということは、外部の廃棄物処理業者に渡す金を減らすということになる。一番分かりやすいのは省エネである。省エネは電気を使わなければそれだけその分が浮くということである。一昨日の日経新聞の夕刊に、東京都が大手事業所に対して二酸化炭素の排出量の削減業務を課すと出ていた。その次には、国内の排出権取引が制度として展望されている。産業界からは議論があるが、二酸化炭素の排出量を減らすと金になるということで、CSRはコストダウンのツールになるということである。最後に、CSRは企業ブランドや企業ロイヤリティ改善のツールであるという認識の深まりである。以上、代表的4つの考え方から、欧州または米国でも賛同する企業はあるが、CSRは企業競争力、企業価値を向上させるという考え方が広がってきている。

企業、政府、投資家の相互進化

企業、政府、投資家の3つの主体がスパイラル的に絡み合いながら、CSRの動きを前に進めている。企業の取組に対して、投資家(金融機関や株主)が評価して投資行動をとる。あるいは企業の取組に対して、政府が情報の開示を積極的に促す、またはあるスタンダードを作ろうということで動くなど、この三つが絡み合いながら前に進んでいるという点も重要である。

企業の取組事例

このCSRを欧州で進めている一番大きな団体はCSR Europeで、ジュネーブに本拠を持っている。欧州で活動する50以上の企業がメンバーになり、企業もCSRに取り組むステートメントの元に集まり、一つはベスト・プラクティスとして事例を学び合う活動をしている。二つ目は、欧州の大学と協力して人材を育てるところからCSRのコンセプトを盛り込むため、欧州ビジネスアカデミーをスタートさせている。さらに、企業のCSRに関するニーズをEUやILOにロビィーイングする機能も担っている。若干蛇足だが、2004年末にCSR Europeは、「ビジネス・オリンピック onCSR」というキャンペーンをやるらしい。世界のCSRのプラクティスのベストを選ぶというコンペティションだそうである。これに似た団体がアメリカにもあってBSR(Business Social Responsibility)という団体である。ここは財団が出資しているが、その顔ぶれは企業系であったり、企業そのものもいる。ケロッグ財団やAT&T財団、企業そのものではSCジョンソンなどである。ここもキャパシティ・ビルディングと言っているが、概念の普及と人材教育に力を入れている。それから、BITC(Business In The Community)がある。汎ヨーロッパではなく、イギリスを中心としている団体で、チャールズ皇太子が理事長をしている。ここの活動は大変ユニークで、企業からスポンサードを受けて活動しているが、企業が何か社会的責任に係わるアクションをとる時に、NGOやボランティアと協調する時の仲立ちをする。ある企業でプログラムが策定されると、そのニーズに応じて適当なNGOやテーマ、課題などについてアドバイスをする。このNGOはスタッッフが300人もいて、企業の社会的責任の遂行をサポートする機関として定着している。

個別企業の取組事例

ドイツのシーメンスでは、インターネットを通じたプロキュアメントの取組を進めている。インターネットでのエントリーフォームに社会適合性についてのアンケートが併設されている。昨年私が日本で経験した事例で、欧州の大手金融機関がコンピューターシステムのリプレースメントをやるので国際入札をかけた。そこで、入札の価格以外に環境社会に対するアンケート調査が付いてきた。まさにプロキュアメントの中での社会環境性の質問なり、評価というのも現実のものになりつつある。

その他、個別企業の取組事例

ブリストル・マイヤーズ・スクイブの場合は、外部のステイクホルダーとの関係を非常に重視している。ステイクホルダーはコンシャス・シチズン(大変意識を持った市民)であると位置づけている。そして、外部のアドバイザー・グループを組織して毎年宿題をもらう。ブリストル・マイヤーズ・スクイブがいま解決しなければならないことに関してである。例えば、「バイオテクノロジーの安全性」「環境効率」「動物実験」「残留農薬」「製品のライフサイクル」など、一つ一つにどういう進捗があったのか正直に報告書の中で報告するという取組をしている。 UBSは、積極的に欧州の金融機関に働きかけて、業界として自分たちの取組の結果を公表するパフォーマンス指標のスタンダードを作ろうとしている。そして欧州の金融機関10機関程度が一緒にやっていると思うが、あえて客観的に比較ができる、比較されるということを覚悟の上で開示し合うのである。それによって、社内を含め競い合うことでステイクホルダーからのプレッシャーに対応していこうというものである。スカンスカはスウェーデンのいわゆるゼネコンであるが、環境事故を一つのきっかけにして、有害化学物質を撒き散らしたという反省の上に立って、リスクマネジメントをいかに確実にやっていくかということをアピールする基本的なポリシーを持っている。その中で、自分たちが少しでも信頼を回復していくという取組である。スターバックス・コーヒーは、フェア・トレードということで、きちんとした値段でコーヒー豆を買って、あえて高くてもマネージメントの行き届いた農家でコーヒーを調達するという方針を明確にしている。そういう先駆的なメッセージを発しているが故に、それに対する攻撃を受け続けている企業でもあるが、社会的に要求されたものは一つ一つ取り組んでいくという思想で、それを競争力に転化していくプロセスに成功している企業だと見ている。

政府の取組事例

最も動きが活発であるのは英国であると思う。CSRは、ブレア政権の「第三の道」というコンセプト、つまり、小さな政府を目指しながら社会的な厚生を確保するという流れとも関係している。英国ではDTI(貿易産業省)にCSR担当大臣が置かれていて、政府としての受け皿や取組が大変明確化されている。また、企業の情報開示を積極的に推進している。ブレア首相を含め、ことあるごとに環境報告書を何年までに出さないとペナルティを課すなど脅しをかけている。3つ目に、一昨年、英国の年金法が改正されて、年金基金は運用方針の中に企業の社会的責任を考慮しているのか否かということを運用報告書の中に記述し、しているならどのように考慮しているか報告することを要請している。これによって、改正は7月にあったが、10月の調査結果では、8割近い年金基金が何らかの配慮を始めるということになり、投資の観点から社会的責任投資が一気に大きくなって、それを受け止める形で企業のCSRの取組も対応せざるを得なくなった。現在、会社法の改正が検討されていて、環境報告書、社会報告書を義務付ける内容が審議されている。これは産業界で反対が強い。 年金法の改正については、英国の動きがいろんな国に飛び火していて、ドイツでも同じような制度ができている。ただこれは、年金基金を最初に作るときだけである。またオーストラリアでも、すべての金融商品にこういう方針が義務付けられた。ベルギー、カナダでも制度化が検討されている。 一方、フランスについては一足先に、上場企業に対しての社会・環境情報開示の義務付けが制度化されていて(2001年5月10日)、今年の3月にはその政令も明らかになっていて、2003年度版からレポートが出る。EUであるが、冒頭にも述べた通り、2001年7月にグリーンペーパーを出して、CSRの考え方を整理した。パブリック・コメントを経て、2002年7月にコミュニケーションペーパーが出た。EUとして政策的にこれを推進していくという基本的視点を確認した上で、今後のCSR推進の公共政策に関する基本戦略を提示した上で詳細を詰めていくという機運になっている。その具体的な動きが、2002年10月16日のEUマルチ・ステイクホルダー・フォーラムの発足である。経営団体、労働組合、CSR関連の企業団体(CSR Europeもここに入っている)、NGO(アムネスティインターナショナルも入っている)の18組織からなり、2004年の年央までに欧州委員会がCSR推進に関していかなるアクションを取るべきかを答申する。欧州委員会の基本的スタンスは、情報開示(トランスペアレント)の部分について政府としては後押しをしたいと言っており、先ほどの環境報告書や社会報告書のような企業の情報開示についてのルール作りということが一つの大きな焦点になってくると思われる。 一方で、金融機関の側とか投資家の側についても同じような注文が付いていて、実は企業の側が一矢を報いた結果だと私は思うが、評価されるばかりで金融機関とかSRIといっている側の透明性や信頼性はどうなのか。欧州委員会では金融行動の方にも透明性を確保するやり方、例えばコンサルティングをやりながら評価をするというのはおかしいということを求めている。

投資家/SRIの動向

ポイントとしては4つ指摘できる。一つは、市場は着実に拡大しているということである。欧州、米国についてもそうである。二つ目は、年金等機関投資家の参入が著しいということである。スイス、スウェーデン、オランダでは、公的年金の部分ですら試験的にSRI型の運用を始めている。三つ目は、ネガティブ基準からポジティブ基準へということである。これまでの社会的責任投資というのは、例えばギャンブルに関連しているビジネスをやっているところはダメだとか、軍事に関連しているビジネスはダメだとか、酒を造っているところはダメだとか、そういうネガティブなことから基準を作って、そうした企業を排除するという方式を取ってきた。昨今はボジティブ基準になってきて、例えば環境の問題であれば、如何に二酸化炭素排出量を削減しているのかとか、企業の雇用均等でも、議論のある所ではあるが、女性の進出がどこまで進んでいるのかとか、そういうパフォーマンスでものを見るという基準づくりが主流になってきている。四つ目は、エンゲージメントと言っているが、日本でも株主代理権行使が話題になっている。アメリカ流に言うと、取締役の報酬が高すぎるからもっとよこせとか、経済的部分の指摘や要求が多いが、それの社会版あるいは環境版である。一番極端なケースでは、議決権を行使する、議案を提案するというものもあるし、その手前で言えば、株主になって改善点を促していくということである。先ほど紹介したのはスイスのエトスという年金基金の投資顧問をやっている会社で非常に印象的だったのは、我々は二番手の企業を買うという。そして、その企業に対してどんどん要求をしていって、その結果改善されて株価が上昇するということでリターンを得るという投資戦略をとっている。単にパフォーマンスの優れた会社を買う、それを長期保有するということだけではなくて、積極的に企業行動にコミットしていくというような動きも、昨今増えている。

求められる日本企業の対応

各金融機関、調査機関がアンケート調査票を日本企業に送付している。これは、国内もそうだが、社会という観点からは海外からということもたくさんあると思う。SRIでもグローバル運用を、特に欧州の投資家は行っているのだが、日本企業のウェイトが低いということは問題であると認識している。特に年金基金はパッシブ型の運用、これは市場平均のベンチマークを目標にしているので、日本だけが組入銘柄に入ってないと変な動きになる。日本企業を入れたいという思いは大変強いが、一方で入手できる絶対的情報量が少ないということで、アンケート調査の回答率も極端に低いという声をたくさん聞く。ある種の苛立ちとか不審に近い感覚も生まれていると感じている。

ソーシャル・レポーティング・イニシアティブ・ジャパンの試み

同じエコファンドの調査をやっている安田総合研究所(現在、損保ジャパン総研)と連携して、昨年、ソーシャル・レポーティング・イニシアティブというプロジェクトをやった。これは勉強会という言い方が正確かも知れない。環境の部分では情報開示が進んできたが、社会的側面を踏まえて情報開示をどうしたらいいかについて、グローバルに活動する日本企業の15社ほどに協力して頂いた。まず、何が聞かれているかについて調べた。どこの調査機関が何を聞いているのか情報共有した。それを日欧米で整理してみた。ここで日本と書いているのは、例えば朝日新聞の文化財団の調査、経団連の企業行動憲章に言及されている項目、電機総研がやっている調査などを参考にして、それぞれの国の関心事を並べてみて共通項目を得た。国際機関というところでは、ILOのLabor Standardや、GRIはGlobal Reporting Initiativeという世界の環境報告書を統一するためのガイドラインを作っているところであるが、このうな国際機関が出している情報と合わせて、何がユニバーサルな項目なのか議論してきた。日本企業が当座対応すべきと考えた14項目を導き出して議論してきた。 最終的には、15社連盟のプロトタイプレポートを作成して、欧州のSRIアナリストの説明会をやって、このパフォーマンスをどう見るのか、この情報がアナリストの要求項目に合致しているのかいないのかディスカッションすることを考えていた。そこで、この14項目の議論を収斂して各社に検討してもらった。しかし、結果としてそこまでのアクションを起してもよいと考える企業は15社中3社だけであった。そこでこの計画は頓挫している。

浮かび上がってきた意見

その中で出てきた意見は7つほどある。一つは、日本企業の現下の優先課題である構造改革と矛盾する側面がある。リストラをしなければいけないが、雇用の安定性を聞かれる。二つ目は、国際機関がガイドライン規格化を進めており、それを見守るべきではないか。三つ目は、国内で開示項目の合意を作るべきではないか。もっと言うと、業界団体のコンセンサスがないと、自分だけ飛び出す訳にはいかない。四つ目は、日本の文化的背景を踏まえた「良い会社とは」のイメージを明確に持った上で情報発信すべきではないか。五つ目は、「取り組みを行っている」と明言することが、逆に、「不十分」との批判を誘発するのではないか。六つ目は、現在の組織体制では、ある部署がこの事項を担当することは困難。社内調整も極めて大きなエネルギーが必要。七つ目は、担当役員の間でも、情報開示の是非を巡って意見が食い違っている状況。トップの明確な意思決定とリーダーシップがないと取り組めない事項である。このような意見が日本企業の現状であると認識している。

日本企業もCSRに一刻も早く目を向けるべき

ISOの下のCOPOLCO(Committee on consumer policy)が企業の社会的責任の規格化について議論を始めている。どうなるか分からないが、ISO化ということも視野に入ってきている。(注:2003年3月のISO理事会で、CSRに関するTRをISO事務局が2003年末までに作成し、そのTRをもとにマネージメント規格としての検証を高等諮問グループであるハイレベル・アドバイザリー・グループが実施し、最終的には技術管理評議会がCSR規格をマネジメントシステム規格にするかどうかを決定することとなった。)また、CSRは項目によっては日本的経営の再評価に繋がるという部分もある。三つ目は、社会的責任投資への対応は、CSRの観点から自社のコンプライアンス、ガバナンス、マネージメントを見直す絶好の機会になる。トップマネジメントの果たす重要な課題でもあると考えている。とはいえ、経済界も徐々に動き始めており、私も10月に経済同友会のCSRの欧州ミッションのお供をして、2週間向こうの機関を回ってきた。経済界の皆様も重要性の関心を持ってきたと思う。(注:経済同友会は2003年3月発行の第15回企業白書で「市場の進化と社会的責任経営」と題してCSRに対する考え方をとりまとめている。)さらに議論が進んでいくことを期待している。

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