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「第15回企業白書と『CSR(企業の社会的責任)経営』」

出典:「第15回企業白書と『CSR(企業の社会的責任)経営』」 2003年8月

*本レポートは、2003年6月5日に開催された香川経済同友会の21世紀ビジョン委員会が主催した講演会において、日本総合研究所 上席主任研究員の足達英一郎が行なった講演の内容をまとめたもので、香川経済同友会会報(No76)に掲載されたものです。

1. はじめに

~CSRに関心が高まっている背景~ 本日は、(社)経済同友会が2003年3月に出された「第15回企業白書『市場の進化』と社会的責任経営」のワーキンググループに携わった者の一人としてお話をさせて頂きます。
さて、Corporate Social Responsibility、この「企業の社会に対する責任」をCSRと呼ぶことが定着しつつあります。企業の責務とは単に良い商品・サービスを提供して社会に貢献し、利益をあげて投資家に報いるだけではない、という認識はわが国に古くからある企業観です。 確かに景気の低迷、デフレの進行が目の前にあり、短期的な企業業績に目が向きがちですが、わが国においてもこの数年来、企業不祥事が頻発、米国においても2001年エンロン、ワールドコムなどの不正経理問題を発端に、いわゆる「米国流資本主義」に対する信頼が揺らぎ、行き過ぎた「株主資本主義」に対する批判が高まっています。
21世紀を考えたとき、企業成長の鍵は何でしょうか。私は次の4点をあげたいと思います。
 
(1) 環境問題からの制約/例えば日本では間もなく京都議定書による二酸化炭素排出規制が始まろうとしています。
(2) 人口減少の制約/2100年には日本の人口は6500万人、若年労働者が不足する時代となります。欧州でも同じような現象が起きており、優秀な人材に企業に残ってもらうことが企業成長のキーポイントと考えられています。ヘッドハンターが引っ張って来た優秀な人は、また、別のヘッドハンディングで他所に出てしまうことに気づいた欧州の人々が辿り着いた、優秀なクリエイティブな人に会社に残ってもらう鍵とは、「その会社が社会から尊敬される会社になること」でした。
(3) インターネット革命とステイクホルダー (企業を取り巻く関係者、つまりお客様、従業員、地域社会、政府) の影響力が増大/内部告発、消費者の声が高まっています。
(4) グローバリゼーション、メガコンペティション下の競争戦略/今後、日本の製造業は、生産拠点を中国やベトナムに移して価格競争で勝負する以外に方法は無いのでしょうか。生産の際、環境にきちんと配慮した安全な製品をつくり、価格の安さだけではない価値観で消費者に購入してもらう、という「もうひとつの企業成長の道」に焦点を置いていくこともCSRのひとつです。CSRは価格競争に巻き込まれないための競争戦略を教えてくれる可能性を持っています。
このような観点から、現在、世界的にCSRに対する関心が高まっています。

2. 社会的責任経営の捉え方

企業は経済的側面のほか、環境的側面、社会的側面の3つの視点から、その成果が問われているという考え方をトリプルボトムラインと言います。ボトムラインとは決算書の一番下段のことで、3つの収支尻というものがすべて黒字になっていないと、21世紀の企業は存続できない、ということです。 第15回企業白書をまとめるにあたり、社会的責任経営とは何か、について大いに議論しました。まずひとつは、市場に対する責任です。市場に対して継続的な価値創造ができて、新市場を作れている(新たな製品・サービスを生み出せている)こと、顧客・株主に対する価値が提供できていること(顧客・株主に対して誠実)。そして自由・公正・透明な取引・競争を行っていることです。次に環境経営を大きな柱の一つに立てています。具体的にはISO14001のような環境経営を推進するマネジメント体制の確立とか、二酸化炭素排出量を減らしていくような環境負荷軽減の取り組み。 また、環境に対する取り組みを情報開示するとともに、取引先ときちんとパートナーシップをとれているか、ということです。三番目の柱は人間。主に従業員に対する責任です。優れた人材の登用・活用をしているか、従業員の能力を向上させる努力をしているか、従業員の家族にも優しい働きやすい職場環境を実現しているか、です。四番目の柱は社会に対する責任です。日本に従来からある社会貢献活動、情報化開示やパートナーシップ、政治や行政との関係、更には国際社会との協調、例えば海外とビジネスをしている場合、相手国との関係に対する責任もあります。さらには社会的責任と並んで広い概念としてのコーポレート・ガバナンスも重要であると、白書はまとめています。

3. 市場の進化

市場が経済性だけではなく社会性・人間性をも評価の軸として動いていくような市場メカニズムを作っていこうという動きが出ています。次の4つの観点から紹介します。 
(1) 財・サービス市場における「消費者」/生活者の“企業観に関するアンケート調査報告書”(経済広報センター)によると、商品を購入する際、年齢が高くなるにつれて不祥事の有無や社会的責任を果たしている企業から優先的に購入する、という結果が出ています。
(2) 財・サービス市場における「企業間取引」/大手電機メーカーが、部品や資材の調達先に環境対策や法令順守など幅広い企業の社会的責任への対応を要求し始めた、という動きがあります。資材の調達には、今までのQ、C、D(クオリティ・コスト・デリバリー)の上にP(プロセス)に考慮することが必要になってきています。
(3) 労働市場における「新規就業者」/学生の就職観にも変化が見えます。就職意識調査によるとこの5年間で、それまで多かった楽しく働きたい、から、人のためになる仕事をしたい、社会に貢献したい人が右肩上がりで増加しています。本当に良い人材を採用するためには、社会から尊敬される会社になる、という時代がやってくるかもしれません。
(4) 資本市場における投資家/社会的責任投資(SRI:環境や人権に配慮している企業の株式に積極的に投資すること)という言葉がCSRとセットで使われることが多くなり、現在ドルベースで言うと、世界で約300兆円がSRIという考え方の中で運用されています。SRIが伸びている理由は、投資とは企業の将来を買う行動なので、環境・人権への配慮がその企業の企業価値を決めるという考えが投資家の間で支持されてきたからです。日本でも、2000年9月以降、この考え方に基づく投資信託商品が出てきました。

4.「社会的責任経営」を先導する欧州

欧州では「企業の社会的責任経営」をどのように定義しているかというと、
◇企業の事業推進そのものに関連し、(企業の本業で)
◇ステイクホルダーとの関係性との上で、(企業を取り巻く利害関係者に充分配慮しながら)
◇自発的な姿勢に基づいて(法律順守プラスα)
◇社会適合性、環境適合性に関心を払っていく経営、としています。 では、なぜ欧州で「社会的責任経営」が進んでいるのでしょうか。欧州は遺伝子組替え製品に対し最初にNO!と言ったように、安全や環境意識が非常に高く、米国流グローバリーゼーションに対する欧州そのもののアイテンティテイの発揚、EUにおける財政規模の制約、EUにおける産業空洞化対策、労働組合・NGOと連携した政策づくりがあります。また社会民主党系の政党が多い欧州は基本的に社会福祉・教育を大事にし、徹底的な市場メカニズムを良しとしない意識があります。これら背景に政府・企業・労働組合が一体となって「企業の社会責任が競争力ある経済を作る」という論理に結びついています。 
英国ではCSR担当の閣外大臣を設置していますし、仏国では、2003年度から上場企業に対して、財務諸表の提出と同様に社会・環境の情報開示を義務付けています。そして欧州連合でもさまざまな動きがあります。 昨年9月から10月にかけて(社)経済同友会では「社会的責任経営」調査のため、欧州視察団を派遣しました。帰国後、議論の末、以下の調査結果をまとめました。 
(1) CSRは単なる利益の社会還元ではない。企業と社会の相乗作用によつて、両者の持続可能な発展を共に実現するための戦略と考えられている。
(2) マネジメントの一部として経営の中核に位置付けられており、CSR担当役員を置いている企業が多く見受けられた。CSRとはコストではなく、5年後の人材の獲得、5年後に市場で支持されているようなブランドを獲得するための「将来への投資」と考えられている。
(3) 日本企業・経済界としても日本型の「社会的責任経営」戦略を企業の側からイニシアチブとして提唱し、日本の企業と社会の長期的発展を目指すための第一歩を踏み出すべきである。 
また、CSRは景気回復にも貢献すると言われています。例えば、株価が下がってきていますが、その原因のひとつが相次ぐ企業不祥事だったわけで、CSRにきちんと取り組むことで企業不祥事を減らし、引いては株式市場の負の連鎖を断ち切るというわけです。そして環境や従業員に配慮することでに新たな設備投資や雇用を創出することにもなります。 また、中国やベトナムなどから安い製品が洪水のように雪崩れ込んでくるなかデフレで苦しんでいる日本企業ですが、CSRへの取り組みは「ただ安く作れば良い」という考え方のアンチテーゼにもなります。以上のことから、日本企業にとって「社会的責任経営」戦略は、日本企業が本来持っている社会性と、現在、社会から要請されているものにきちんと応えることで、世界にも通用する“勝てる可能性のあるゲーム”となる、との結論に達しました。

5.(社)経済同友会版企業評価基準

わが国企業の「社会的責任経営」への認識は、まだ充分理解されていないのが実情です。CSRとは、社会に経済的価値を提供すること、利益を社会に還元し社会に貢献すること、企業不祥事を防ぐための取り組み、というのが典型的なイメージのようです。しかしそれは何れもCSR全体を表してはいません。私どもでは、2001年より日本企業15社と勉強会を行っていますが、その中での典型的意見も、現下の優先課題である構造改革と矛盾する側面があるのではないか、ISOなどでガイドラインや規格化の動きがあるので、それを見守るべきではないか、などの意見が出ており、CSRの概念は分かったが、それでは企業としてどう行動したらよいのか?という状態であるのが伺えます。 
そこで、(社) 経済同友会ではCSRの考え方を広げていきたいと、「企業評価基準(評価シート)」(第15回企業白書189頁~)を作成しました。これは、各企業の経営者の方に、CSRの概念について理解を深め、その基準から自分の会社を見つめ直し、3年後にどうなりたいかという目標を設定して頂こうという目的で作られました。経営者による自己チェックリストで、経済(市場)、環境、人間、社会、コーポレート・ガバナンスの項目で構成され、「リスクマネジメント(危機管理)とビジネス・ケース(成功例)」に資する視点から作られた設問となっています。現状評価はあくまでも主観的なもので結構ですし、すべての項目に取り組まなければ評価されないわけでもありません。そして回答内容は最終的に経営者ご自身によってご確認下さい。 また、個別回答データを許可なく公表することはありませんし、個別データ管理は徹底して行います。ただし将来的には、情報開示、第三者利用も展望しています。 
今後の展開としては、具体的な回答データを収集・分析し、ベストプラクティスの抽出・評価や、業種や規模別の平均像の分析を行う予定です。また、各方面からのご意見や社会ニーズの変化を反映させ、評価項目の見直しや方法論の精緻化を進めて参ります。ぜひ、皆さんの企業でもご活用頂き、ご意見を承ることができれば幸いです。それによって常に「進化」していくツールになると考えています。 

6. わが国企業における先進的取り組みについて

最後に、参考までにわが国企業における先進的取り組み事例をご紹介いたします。
事例1)サントリー 
事例2)ソニー 
事例3)滋賀県内の建設業界 
事例4)佐川急便
事例5)非政府組織(NGO)やNPO(非営利組織)に自社の環境報告書の内容について意見を求めている企業/積水化学工業、キャノン、NEC、宝酒造、松下電器など。
事例6)KDDI 
事例7)損保ジャパン
事例8)CSRに対する組織的取り組みをしている企業/リコー、ソニー、ユニ・チャーム、損保ジャパン、富士ゼロックス、日本電気、三菱商事

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