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自治体環境行政と金融(上)

出典:月刊環境自治体  2003年8月号

地方財政計画における地方一般歳出は14年度で対前年度比マイナス3.3%、15年度で同マイナス2.0%と2年連続でマイナスに押さえ込まれた。講じたい環境対策は数多くあるが、十分な予算が配分されないという悩みを多くの担当者が抱えている。
しかし、環境対策をひとつの「プロジェクト」だと考えれば、財源の捻出の仕方は多様にある。民間プロジェクトで資金をどう融通してくるのかという、金融の問題と同じだからである。

法定外目的税の可能性

自治体の行う財源調達の代表的方法は「徴税」である。そして、自治体が特定の使用目的や事業の経費とするために,地方税法で定められていない税目を条例で定めて設ける税、いわゆる法定外目的税が平成12年4月1日施行の地方分権一括法による地方税法改正で創設されたことは記憶に新しい。
現在までに、環境行政の脈絡の中で、施行もしくは可決を見ている主な事例としては、河口湖町遊漁税条例(平成13年7月1日施行)、すぎなみ環境目的税条例(平成14年3月18日可決)、多治見市一般廃棄物埋立税条例(平成14年4月1日施行)、三重県産業廃棄物税条例(平成14年4月1日施行)、岡山県産業廃棄物処理税条例(平成15年4月1日施行)、高知県森林環境税(平成15年4月1日施行)、北九州市環境未来税条例(平成15年10月1日施行),広島県産業廃棄物埋立税条例(平成15年4月1日施行)、鳥取県産業廃棄物処分場税条例(平成15年4月1日施行)、秋田県産業廃棄物税条例(平成16年1月1日施行)がある。
こうした法定外目的税の導入は、企業の経済活動を産業廃棄物のリサイクルや減量化に誘導するなど、経済的措置として環境政策そのものに貢献するというメリットもある。その一方で、財源確保の手段であることを明確に打ち出している事例もある。例えば北九州市は、『「環境未来都市」の創造を重点施策としてごみの資源化・減量化、産業廃棄物処理施設の整備及びエコタウン事業などの様々な取組みを推進しており、国内外から高い評価を得ています。環境の世紀といわれる21世紀を迎え、環境を維持・改善するための事業は、ますますその重要性を増しています。今後、各種の環境施策をより積極的に推進していくためには、持続的で安定的な財源を確保することが重要です。』とその狙いを述べている。
法定外目的税は、目的税化しているため、「住民の受益と負担の関係」を明確にすることにより、納税者に理解を求めやすい、税の存在理由がわかりやすいというメリットを有する。例えば、北九州市の例では、平成15年度当初予算において、約3億円の歳入を予定し、図表2に示したような活用を想定している。
(図表1 北九州市環境未来税 導入までの経緯 ※略)
(図表2 北九州市環境未来税による歳入の活用 ※略)
ただし課題もある。その代表は「機会の平等」についての問題点を指摘するものである。例えば、日本フランチャイズチェーン協会の加盟各社は、すぎなみ環境目的税に断固反対する立場をとっている。その理由は「区民以外にも課税される税を、杉並区のみで条例化ができるのか。税の公平性、整合性がない」、「杉並区に対する環境負荷の有無にかかわらず、区民以外の人が課税されたり、区民が課税されなかったりする税は、公平性、整合性がない」、「区外で買物をする区民は課税されず、その比率が10%以上ある課税制度は、公平性、整合性がない」、「ごみの減量化の目的税にもかかわらず、レジ袋の排出時ではなく、譲渡時点での課税は、税の目的との整合性がない」、「国の法律である容器包装リサイクル法に従ってレジ袋のリサイクルのため環境コストを負担しているにもかかわらず、レジ袋に課税することは二重負担となり公平性、整合性がない」とするものである。こうしたことから、条例が可決しているものの、「税の施行については、景気の動向やレジ袋の削減状況等に配慮し、議会の同意を得て、総務省の同意が必要となりますので、今のところ具体的な日程は未定です」という見解を杉並区はとっている。
こうした徴税される側の不公平感を回避する方法としては、高知県森林環境税のように個人と法人の県民税均等割りに年五百円を上乗せして徴収するというように「ひろく薄く」課税を行うという考え方がありうる。このやり方では、税自体の環境政策としての経済的措置、誘導効果は発揮されにくいので、税導入の動機を政策誘導効果と財源確保のどちらに重点を置くかという点から税の設計が行われることが重要である。
現在、岐阜県の「乗鞍環境保全税」、神奈川県の「水源環境税」などの議論も進んでおり、複数の自治体が連携して同じ法定外目的税を導入しようとする動きもある。また、今後は「受益と負担の関係」から、歳入と歳出が異なる自治体で生じるような法定外目的税のあり方が認められる必要もあろう。
いずれにせよ法定外目的税は、自治体環境行政にとって有力な財源調達手法として、今後も可能性が広がっていくだろう。

自治体にとっての金融スキームとしての地域通貨

前述の法定外目的税は、しかしながら「安易な増税」に陥る危険性を常に秘めているといえる。そこで、もう少し市民の自発性に依拠するスキームを考えることは出来ないか。そうしたスキームとして「地域通貨」がある。
地域通貨を、ここでは「特定の地域内、あるいは、コミュニティ内において流通する価値の媒体のこと。しばしば、現行の法定通貨(日本円、米ドル等)では表現することが困難な、社会的価値、あるいは、コミュニティ独自の価値を交換・流通させるために利用される」と定義することとし、そのなかで「コミュニティウェイ」という考え方に着目したい。
通常の個人と個人とのあいだのボランティアや助け合いを媒介する地域通貨ではなく、「コミュニティウェイ」には、(1)商店・企業、(2)コミュニティ・プロジェクト、(3)個人という3つのプレーヤーが登場する。そして、本来自治体の行う環境行政上の個別施策を「コミュニティ・プロジェクト」と位置づけるのである。仮にこれを「街路の清掃」という施策としよう。
(図表3 コミュニティウェイの考え方 ※略) 
従来施策の発想であれば、当該施策は自治体予算において実施される。財源は例えば、税収である。これに対して「コミュニティウェイ」では、商店・企業からの「地域通貨」による寄付を財源とする。もし「地域通貨」が個人にとって価値を持つものであれば、それを個人の法定通貨と交換することによって、「コミュニティ・プロジェクト」は歳出可能な予算を手に入れることができる。または、個人の法定通貨と交換するかわりに、個人の労役などの提供を受けることも可能である。これによって、「街路の清掃」は自治体の従来型の財源を前提としなくとも実現可能ということになる。
ここで、焦点となるのは、個人にとって価値を持つような「地域通貨」を商店・企業が寄付しようと考えるインセンティブとは何かということであろう。さらに、個人にとって価値を持つ「地域通貨」とは何かということも問題になる。
 最も簡単な例としては、商店・企業で使える割引券としての「地域通貨」というイメージがある。商店・企業がそうした割引券の発行によって、個々の売価は下がるとしても顧客数の増大などで利益が増加するのだとしたら、「地域通貨」を商店・企業が寄付しようと考えるインセンティブにはなる。当該商店・企業の顧客になることを決めている個人にとっては、その割引券は、確かに価値を持つものになるだろう。
こうした「コミュニティウェイ」型の「地域通貨」の運用に当たっては、「コミュニティ・プロジェクト」に該当する環境施策が、商店・企業に対して外部経済性を有していることが重要である。例えば、「街路の清掃」によって商店街が快適となり、商店街の魅力が高まるなどが明示できれば、より商店・企業側の「地域通貨」を寄付することのインセンティブは高まる。
ここで、よくある疑問は、個別の商店・企業が「地域通貨」を寄付するのではなく、例えば商店街などの組織が個別の商店・企業に負担金を課して、一括して「コミュニティ・プロジェクト」の費用を負担すればよいではないか、というものである。ただし、この方式では組織全体の合意を得ることが困難だという壁によく直面する。「地域通貨」はやる気のある商店・企業のイニシアチブ(先導性)を発揮できる手法であり、また「地域通貨」の還流によって顧客増大などの効果が実感できる仕組みである。
一方、「コミュニティ・プロジェクト」に該当する環境施策が個人の共感や支持を得やすいものであることも重要である。個人の共感や支持を得ているほど、個人が法定通貨と地域通貨とを交換しよう、役務の提供によって地域通貨を獲得しようというインセンティブは高まるからである。
既に、世田谷区では、烏山の四商店街が共通化した販促ポイント(ダイヤスタンプ)を、地域活動をした人にも発行して、それを市民が、エコマネー・ポイントとしてお互いの活動(草むしりや家事の代行、パソコンの指導など何でも)でも交換し、最後には商店街ポイント加盟店や、世田谷区の施設(世田谷区文学館、社会福祉協議会運営の同施設内喫茶店)でも使えるという、商店街が主導した、市民と事業者と行政が参加するエコマネー活動実験の事例が出てきている。2月1日に実施した「烏山クリーン・クリーン大作戦」では、「いいポン」(いい・こみゅにてぃポイントの略)500円分を、商店街のごみの片付けや駐輪自転車整理などの活動に参加した人に進呈した。この実験イベントには、予想の倍以上の120人が参加したという。
これまでは「コミュニティ・プロジェクト」の担い手は、主にNPOなどが発意した取り組みが中心だったが、早晩、自治体がこうした「コミュニティウェイ」型の「地域通貨」によって財源の捻出を図るという事例も現れてくるだろう。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)という制度は、わが国ではハコモノ施設を整備する際の、「民間への運営委託付き建設費延払い」と解されている傾向が強い。しかし、こうした「コミュニティウェイ」型の「地域通貨」に見られる商店・企業の財源提供やNPOなどを担い手とした「コミュニティ・プロジェクト」の実施というような「行政と民間の連携」という側面に、本来、より焦点が当てられるべきだと考えられる。
(図表 全国の主な地域通貨導入事例 ※略)

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