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ESCO、地球温暖化防止対策>基本的な考え方
企業の社会的責任 CSR 住友信託が専門組織

出典:日経産業新聞 2003年6月5日

(1)地球温暖化の進行

地球温暖化は着実に進行している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第三次報告によれば、気候の変化については、
○過去50年間の温暖化の大部分は人間活動に起因
○ さらに21世紀末までに、1990年と比べ、地球の平均気温が、最大5.8 ℃上昇、平均海面水位が、最大88cm上昇
○ 豪雨、渇水などの異常気象現象が増加
との分析がなされており、影響については、
○ 温暖化は、すでに脆弱な生態系に影響
○ 40cmの海面上昇で、世界の浸水被害が7千5百万人~2億人増加
○ 途上国の農業生産等に大きな悪影響を与え、南北格差が拡大
○ 生態系の破壊、伝染病の拡大
が問題視されている。

(2)京都議定書の批准

こうした地球温暖化に対して、「気候変動枠組み条約」が1992年に採択され、1994 年から発効している。ここでは先進国が1990年代末までに温室効果ガス排出量を1990年レベルまで戻すことを目指すことが努力目標とされた。1997年に採択された気候変動枠組み条約京都議定書では、改めて先進国に法的拘束力ある数値目標を各国毎に設定した(2008 ~2012年において1990年比で日本は-6%、米国は-7%、EU は-8%)。2001年10 ~11月マラケッシュ(モロッコ)で開催された第7回締結国会議では、京都議定書発効に向け、ボン合意を踏まえ、運用ルールの成文(テキスト)に合意している。
わが国においても、「気候変動枠組条約の京都議定書の締結の国会承認を求める件」及び京都議定書の国内担保法である「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が2002年5月31日に国会で可決成立し、政府は、6月4日に京都議定書の受諾について閣議決定し、同日(現地時間)に国連に受諾書を寄託した。

(3)新たな地球温暖化対策推進大綱の決定

これに先だって、3月19日に政府は、京都議定書の6%削減約束の達成に向けた具体的裏付けのある対策の全体像を示すとともに、温室効果ガスの種類その他の区分ごとに目標並びに対策及びその実施スケジュールを記述することとし、併せて個々の対策についての我が国全体における導入目標量、排出削減見込み量及び対策を推進するための施策を定めた「新たな地球温暖化対策推進大綱」を決定した。
 そこでは基本的考え方として、
○ 温暖化対策への取組が、経済活性化や雇用創出などにもつながるよう、技術革新や経済界の創意工夫を活かし、環境と経済の両立に資するような仕組みの整備・構築を図る。(「環境と経済の両立」)
○ 節目節目(2004 年、2007 年)に対策の進捗状況について評価・見直しを行い、段階的に必要な対策を講じていく。(「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」)
○ 京都議定書の目標達成は決して容易ではなく、国、地方公共団体、事業者、国民といったすべての主体がそれぞれの役割に応じて総力を挙げて取り組むことが不可欠である。かかる観点から、引き続き事業者の自主的取組の推進を図るとともに、特に、民生・運輸部門の対策を強力に進める。(各界各層が一体となった取組の推進)
○ 米国や開発途上国を含む全ての国が参加する共通のルールが構築されるよう、引き続き最大限の努力を傾けていく。(「地球温暖化対策の国際的連携の確保」)
がうたわれている。内容としては具体的裏付けのある対策の全体像を明らかにするとして、政府を挙げて100 種類を超える個々の対策・施策のパッケージが取り纏められた。▲6%削減約束については、
○ エネルギー起源二酸化炭素について1990 年度と同水準に抑制する。
○ 非エネルギー起源二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素について0.5%分の削減を達成する。
○ 革新的技術開発及び国民各界各層の更なる地球温暖化防止活動の推進により2.0 %分の削減を達成する。
○ 代替フロン等3ガス(HFC、PFC、SF6)については自然体でプラス5%をプラス2%程度の影響に止める。
○ 吸収量の確保については COP7で合意された▲3.9%程度の吸収量を確保する。
ことが目標として掲げられた。

(4)厳しい目標達成と企業の役割

ただし、京都議定書の目標達成は必ずしも容易ではない。環境省の発表した2000年度の温室効果ガスの総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数(GWP)を乗じ、それらを合算したもの)は、13億3200万トン(二酸化炭素換算)であり、京都議定書の規定による基準年(1990 年。ただし、HFCs、PFCs及びSF6 については1995年)の総排出量(12億3300万トン)と比べ、8.0 %の増加となっている。また、前年度と比べても0.2%の増加となった。
このうち2000年度の二酸化炭素排出量は、12億3700万トン、1人当たり排出量は、9.75トン/人である。これは、1990年度と比べ排出量で10.5%、1人当たり排出量で7.6%の増加である。
部門別にみると、二酸化炭素排出量の約4 割を占める産業部門(工業プロセスを除く)からの排出は、1990年度比で0.9%増加しており、前年度と比べると0.2 %の減少となっている。運輸部門からの排出は、2000 年度において1990 年度比で20.6%の増加となったが、前年度と比べると2.1%の減少となっている。民生(家庭)部門からの排出は、2000 年度において1990 年度比で20.4%の増加となっており、前年度比4.1%の増加となった。民生(業務)部門は、1990 年度比で22.2%の増加となっており、前年度比1.7%の増加となった。
経済界には、「企業は1973年のオイルショックを契機に、日本は省エネルギーに努力し、GDP当たりのCO2排出量はアメリカの約3分の1、欧州の約2分の1に抑えられている。そのため、CO2の追加的削減のためのコストも世界一になっている」、「雇用対策が経済の最重要課題となっている。こうした中、環境税の導入などさらなる対策を産業界に求めれば、環境コストの上昇により国際競争力は失われ、国内の雇用情勢はさらに悪化する。追加的な温暖化対策の検討にあたっては、雇用に悪影響を及ぼすことのないように配慮すべきである」、「CO2排出総量の伸びが著しい民生・運輸両部門の対策の多くが国民生活に直結するものであることから、政府は、我が国の目標達成の厳しさと国民が果たす役割の重要性について理解を求めるとともに、交通渋滞解消のためのインフラ整備など、CO2削減に効果のある対策に取り組むべきである」等の意見も根強い。
しかし、地球温暖化対策推進法に規定されているように「事業者は、その事業活動に関し、温室効果ガスの排出の抑制等のための措置(他の者の温室効果ガスの排出の抑制等に寄与するための措置を含む。)を講ずるように努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する温室効果ガスの排出の抑制等のための施策に協力しなければならない」のであり、企業の責任は今後、一層強く求められることになろう。

実践におけるポイント

わが国は、石油危機以降の官民あげた省エネ努力により、世界でも最高水準の省エネルギーを達成している。しかし、エネルギー供給構造の脆弱性は依然として変わらず、原油の中東依存度は既に石油危機当時の水準を超えている状況にある。こうしたなか、近年の民生・運輸部門を中心としたエネルギー消費の増加傾向を考慮すると、今後も着実な省エネルギー対策の推進が極めて重要である。
1998年、京都議定書の目標達成のために向けて、原油換算約5600万kl相当の省エネルギー対策の積み上げが行われ、さらに2000年から行われた総合資源エネルギー調査会でのエネルギー政策の総合的な見直しの中で、省エネルギー部会において、省エネルギー対策の再評価(原油換算約5000万kl)、及びエネルギー需要傾向が著しい民生・運輸部門を中心とした追加的省エネルギー対策(原油換算約700万kl)が打ち出されている。
以下には、生産部門における省エネ対策について、主要なポイントを述べる。

(1)自主行動計画の着実な実施とフォローアップ

産業界では地球温暖化問題への主体的取組として、日本経済団体連合会は環境自主行動計画を策定し、それに基づき取組を行ってきている。自主行動計画等により期待される省エネルギー量は「新たな地球温暖化対策推進大綱」における省エネルギー対策のおよそ3分の1の量を占め、今後の省エネルギー対策においても中心的役割を成すものである。行動計画を策定していない業種に対し、数値目標などの具体的な行動計画の早期の策定とその公表を促すとされており、こうした業種別の行動計画に準拠した省エネ対策の着実な実績づくりが企業には求められている。

(2)エネルギー管理の徹底

省エネルギーの推進に当たっては、エネルギー需要場所における適切なマネジメントが図られることが重要である。このため、エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネルギー法)に基づく措置を中心として、工場・事業場におけるエネルギー管理の仕組み構築が求められており、IT 技術の活用、更には設備の設置者に代わってビジネスとして省エネルギーを包括的に進めるESCO (Energy Service Company )の活用等により業務ビル等における適切なエネルギー管理を推進していくなど、現場におけるエネルギー管理の徹底がポイントとなる。

(3)建築物の省エネ性能の向上

建築物の省エネルギー性能は、民生部門のエネルギー消費に長期にわたり大きな影響を与えるものであり、確実な対策の実施が求められる。このため、省エネルギー法に示された建築主の判断基準や建築時の指導に従い、助成措置等を活用しつつ、新たな工場、事業所の建築においては率先した省エネルギー措置の実施を図ることがポイントとなる。

(4)分散型電源の普及

分散型電源については、エネルギーコストの低減といった主として経済的要因により、普及が進みつつある。このような電源は、需要場所に設置されるため排熱の有効利用が図られやすく、需要場所の電気及び熱の比率とバランスの取れたコージェネレーションが行われ、高い総合効率が得られる場合には、在来システムに比べエネルギーの効率的利用が図られる。したがって、総合効率の高いコージェネレーションを採用することも省エネ対策のポイントになる。日本においては、一般的に電気・熱の需要比率に占める電気の比率が高く、今後は電力化率が更に高まっていく状況に鑑みれば、分散型電源の発電効率の向上が省エネルギーに資するコージェネレーション普及のカギとなる。このため今後、発電効率の高い燃料電池等の開発・導入が期待されている。

主な課題

上述の「自主行動計画の着実な実施とフォローアップ」については、自主行動計画の更なる透明性の向上を図るため、第三者機関による認証・登録制度の必要性が議論されている。計画は産業界の温暖化対策の柱だが、自主性を尊重する余り透明性や信頼性が乏しいという批判が存在しているのである。
これに対して、日本経済団体連合会は2002年7月に温暖化ガスの排出削減に向けた「自主行動計画」に第三者による評価制度を導入すると発表している。具体的には学識経験者らからなる第三者評価委員会が、計画が適正に運営されているかどうか監視する。参加業種のデータの集計と日本経団連への報告などが適切かどうかを評価し、システム全体の透明性と信頼性を向上するため、改善点があれば勧告することになっている。こうした第三者評価委員会が実効的に機能するかは大きな焦点である。
経済産業省は、2001年度に鉄鋼業、非鉄金属製造業、紙・パルプ・紙加工品製造業の3業種の約650工場を対象に工場総点検を実施した。そのうち、2001 年12月末までの505 工場について現地調査結果を公表している。それによれば、省エネルギー法に基づく工場判断基準の遵守状況について、「工場判断基準の遵守状況が不十分であり、法第25条に基づく立入検査が必要と判断された工場」が8工場(1.6%)、「工場判断基準の遵守状況の改善等に向けて、法第5条に基づく書面指導が必要と判断された工場で、改善状況について経過報告を求める工場」が65工場(12.9 %)、「エネルギー管理が十分になされてはいるが、エネルギー消費原単位を今後改善していくため、所要の検討を行うことに関して法第5条に基づく書面指導が必要と判断された工場」が5 工場(1.0 %)あったことが報告されている。また、エネルギー消費原単位の改善状況についてエネルギー消費原単位の改善状況についてエネルギー消費原単位の改善状況について2000年度のエネルギー消費原単位が前年度と比較して1%以上改善した工場は505工場中297工場(58.8 %)にとどまる水準であったことも報告されている。このように、必ずしもすべての工場において省エネ対策の重要性が認知されていないこともまた事実なのである。

今後の展望

省エネルギー法は2002年の第154回通常国会において改正案が可決、成立した。今回の改正の内容は以下の通りである。
○ 第一種エネルギー管理指定工場の対象業種限定の撤廃
従来、相当のエネルギーを使用する製造業等5業種の工場に限定されていた第一種エネルギー管理指定工場の指定対象を、業種で限定することを止めて、全業種に対象を拡大する。この結果として、大規模オフィスビル等にも指定を拡大し将来的な省エネ計画中長期計画の作成・提出、定期の報告等を義務づける。
○ エネルギー管理者選任義務についての例外規定の創設
第一種エネルギー管理指定工場の指定対象に追加される大規模オフィスビル等については、そのエネルギー需要の実態を踏まえ、エネルギー管理士資格を有する専門家を事業所毎に選任する代わりに、中長期計画の作成時のみエネルギー管理士資格を有する者が参画すればよいこととする。
○第二種エネルギー管理指定工場についての定期報告
工場・事業場におけるエネルギー使用量等の状況について国が定期的に把握し、より適切な措置を講ずることができる仕組みを構築するため、第二種エネルギー管理指定工場に対し従来のエネルギー、、使用量等に関する記録義務に代えて、主務大臣に対しエネルギー使用量等を定期的に報告させることとする。
○特定建築物の省エネルギー措置の届出の義務づけ等
特定建築物(2千以上の住宅以外の建築物)の建築主に省エネルギー措置の届出を義務づけるとともに、国土交通大臣から所管行政庁(建築基準法に基づく建築主事を置く市町村長等)に建築物に係る指導及び助言等に関する権限を委譲することとする。
ただし省エネ対策については、自主的取組を重視する立場と規制的措置もしくは経済的措置を重視する立場とが対立している。今回、政府は京都議定書批准に際し、2004年までは自主行動計画を尊重する姿勢を示した。しかし、その時点での達成水準が不十分な場合には、規制的措置もしくは経済的措置が導入される可能性は高い。
そうした措置の代表格としては、温暖化対策税がある。環境省は2001年8月に「地球温暖化防止のための税の論点」を公表している。ここでは温暖化対策税は、民生・運輸部門も含めた排出部門を広く対象範囲とし、その削減努力を促すように設計することが可能であり、また、排出量に応じた形で税負担が行われるという意味での公平性を確保できる。また、市場原理が機能することにより、二酸化炭素(CO2 )排出削減コストが最小化されるなどのメリットがあるとしている。さらに、国内での温暖化対策税導入による環境保全効果の数量モデル試算や、欧州諸国での税導入の事後評価結果を見ても、温暖化対策税の導入によってCO2 の排出削減に一定の効果があるとの結果が得られている。さらに、税と国際排出量取引、CO2 排出削減技術・設備導入のための補助金などの組み合わせにより、低率(炭素トン当たり3 千円程度、ガソリンに換算すると約2円/リットル程度)でも環境面での大きな効果(2010年に1990年比2%削減)が期待される可能性があり、これにより社会全体を温暖化防止の取組みへと促すことができるとしている。
また、温室効果ガスの費用効果的な排出抑制を目指し、また、京都議定書に基づく京都メカニズムの開始に備えて、国内の事業者が排出枠を設定し、その一部を取引する「国内排出量取引」制度についても検討が始まっている。中央環境審議会の「京都議定書の締結に向けた国内制度の在り方に関する答申」(2002年1月)においては、国内排出量取引について、「第1ステップにおいては自主的な取引の実施を支援することが適当である。また、第2ステップにおいては、第1ステップでの成果、海外の動向等も踏まえつつ、必要に応じ、国内の排出量取引制度の多面的な検討を行う。」としているところである。将来的には、大規模事業者に排出枠が設定される可能性も否定できず、温暖化対策税にしても国内排出量取引にしても、現在は内部化されていない温暖化ガス排出コストが将来は顕在化する可能性を示唆している。このことは同時に、先進的な省エネ対策が将来コストを回避する効果を有することを意味しているのである。

ケーススタディ/ESCO

省エネ対策のための活用事例として、以下ではESCO事業を取り上げる。ESCO事業とは、Energy Service Companyの略称で、工場やビルの省エネルギーに関する包括的なサービスを提供し、それまでの環境を損なうことなく省エネルギーを実現し、さらにはその結果得られる省エネルギー効果を保証する事業である。また、ESCOの経費はその顧客の省エネルギーメリットの一部から受取ることも特徴となっている。具体的には次のようなサービスの組み合わせで構成される。
○省エネルギー方策発掘のための診断・コンサルティング 
○方策導入のための計画立案・設計施工・施工管理
○導入後の省エネルギー効果の計測・検証 
○導入した設備やシステムの保守・運転管理
○ 事業資金の調達・ファイナンス
ESCO事業の将来規模としては、(財)省エネルギーセンター「ESCO事業導入研究会」が業務部門・産業部門を合計した潜在市場規模2兆4700億円、潜在省エネ可能量400万kl(原油換算)(霞ヶ関ビル10棟分)と推計している。また、ESCO事業の受注実績と見通しに関してESCO推進協議会の調査(2001年6月)は、2003年度における受注額を約450億円と見込んでいる。



ESCO事業の経費と利益配分
(出所)ESCO推進協議会ホームページ

 

ESCO受注額実績と見通し

参考文献・情報ソース

地球温暖化対策推進本部「地球温暖化対策推進大綱」2002年3月
総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会「省エネルギー部会報告書-今後の省エネルギー対策のあり方について-」2001年6月
地球温暖化防止のための税の在り方検討会「地球温暖化防止のための税の論点報告書」2001年8月
排出量取引・京都メカニズムに係る国内制度検討会「温室効果ガスの国内排出量取引制度について」2002年7月
財団法人省エネルギーセンター「ESCO事業のススメ」2001年

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