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廃棄物処理事業における官民協働の動向

出典:環境自治体 3月号

廃棄物処理事業での官民協働の果たす役割と背景

高まる環境対策への関心

平成14年12月にダイオキシン規制に対する対応措置が取られ、また、環境に関する市民の注目度が向上する中、廃棄物の焼却処理事業の管理はよりいっそうの厳しさが求められるようになった。同時に住民に対する公開性や、説明性が要求されるようにもなってきた。このような事業環境では、運営から情報公開までを自治体が一括して実施していく従来の方法では、住民からの高い信頼性を確保することが難しくなっており、適切かつ公開された管理を行うことで住民との距離を縮める必要が発生している。

自治体の財政支出低減への期待

また、より厳しい規制、事業条件に対応するため、各自治体ではこれまで以上に多くの焼却炉の施設整備費用を負担する傾向が強まっている。廃棄物処理施設の整備事業は自治体にとって、多大な財政支出を必要とする事業であり、財政の逼迫した自治体にとっては施設整備費および運営費のコスト削減が急務となっている。コストの削減を行うには、これまで市場で鍛えられてきた民間のコスト削減技術を適用していくことが有効である。コスト削減のためには官民協働は非常に効果がある。

政府方針として進む官民協働

一方、小泉内閣による構造改革が浸透し、公共事業の民間委託が始まった。特に、施設整備に必要な資金を民間企業や民間金融機関から調達することによって財政負担を軽減する方法として、PFI(Private Finance Initiative)がある。PFIは資金調達という自治体側のメリットのみならず、公共サービス事業の民間開放という民間事業者側のメリットも生み出すものである。PFIは各自治体での検討段階のものも含めると、表1のような件数となり、着実に普及が進んでいる。特に廃棄物処理事業は施設建設のみならず、公共サービスを民間開放する事業の代表例であり、この1~2年の間に検討が進んできた。
この流れは、今後拡大するとともに、PFI以外の官民協働事業方式へと展開することが予想される。本稿では、コストダウンが迫られる廃棄物処理分野において、公共サービス事業の民間開放を進めることができる官民協働事業方式について示す。

 

普及するPFI事業

PFIによる廃棄物処理事業の特徴

前節で示したように、廃棄物の中間処理には官民協働による事業運営が必要になってきた。その代表例が施設整備から長期間の運営事業の一括した性能発注方式であるPFI方式だ。その特徴は以下の3つに集約することができる。 
実際に適用が行われ、落札者決定に至った廃棄物の中間処理PFI案件は既に2件ある。1件目は、秋田県の「大館周辺広域市町村圏組合ごみ処理事業」である。本件は、PFI推進法施行後の初の案件であり、処理技術を特定せず民間事業者の自由度を増すなどのPFIに適した公募を行った先進事例である。2件目は岡山県の「倉敷市・資源循環型廃棄物処理施設整備運営事業」である。本件は、一般廃棄物のみならず民間事業である産業廃棄物の処理も同時に行う事業であり、PFIの民間事業としての特徴を有効に利用している例である。
この他、PFI法施行前ではあるが、PFI法に従った発注方式で施設整備を行った、北海道の「西胆振廃棄物広域処理事業」がある。本件は施設建設および長期の運営事業を一括で性能発注した本邦初の公設民営(DBO:Design Build Operate)事業となった。

PFI普及の阻害要因はどのようなものか

上記のような背景にはあるが、現在でもまだPFI事業推進の上で、様々な疑問や不安は残っている。下記に代表的な例を示す。 
(1)運営を全て民間に委託すると、環境条件を満たすことができるかどうか不安であり、住民への説明性が確保できない可能性がある。
(2)施設の所有権が自治体になければ、民間事業者が倒産したときに、廃棄物処理サービスを継続できない可能性がある。
(3)民間業務の質を評価することが困難である。
1つ目の疑問は誤解によるものである。なぜならば、PFIは民間企業に全てを任せて、自治体は何もしないという事業ではないからである。自治体は何もしないのではなく、これまで以上に強く監視する責任が求められることになる。この点では、公設公営よりも厳しい管理が導入されることになる。
2つ目の課題は、倒産時の履行保証の方法など契約技術によって回避することが可能である。従来は、運営の責任は自治体にあったため、厳しい履行保証を求めるという習慣がなかったが、長期の運営契約においては当然組み込むべき内容である。
3つ目の課題への対応として、民間業務を評価する自治体をサポートする技術アドバイザーの設置がある。本方針についてはエンジニアリング・サポート・サービス(後述)にて詳しく示す。

アウトソーシング事業の動向

高官民協働の次の潮流

PFIは新設事業に適用される方式であるため、新設プラントのある自治体しかPFIによるコストダウン効果を享受できない。これに対し、アウトソーシング事業は全ての自治体が利用可能である。そのため、市場規模の点でも、PFIよりも大きなものとなることが期待されている事業である。
アウトソーシング事業の中でも、廃棄物処理施設へ適用する場合は、従来の公共事業の民間委託とは異なり、PFIにおける運営事業の方法を取り入れたものとなる。これを長期責任委託という。このため、PFIと同様に官民のリスク分担、コストダウンが可能となる。本事業方式は以下の3つの特徴を持つ。 
(1)複数年契約により長期の委託を行う。
(2)運転のみならず維持管理補修などの業務に拡大する。
(3)運転の環境条件の遵守の責任までを負う性能発注を行う。

動き出した先行事例

本事業方式は、先述のDBO方式である西胆振でも適用されている。DBO方式とは、施設建設と長期責任委託を一つの事業として発注したものである。また、昨年、石川県内のRDF製造施設2件、「羽咋郡市広域圏事務組合 リサイクルセンター運営管理委託業務」、「奥能登クリーン組合 奥能登クリーンセンター・ごみ固形燃料化施設運営業務」、そして、RDF専焼炉「石川県北部アール・ディ・エフ広域処理組合 石川北部RDF専焼炉施設に関する運転維持管理補修更新業務」に適用された。これらは、従来の公設公営を前提とした運営事業に長期責任委託を適用したものである。

長期責任委託が適用される事業とは

のように年々増加する傾向にある。特に補修については、プラントメーカへの依存度が大きくコストダウンし難い部分である。この部分のコストダウンが焼却炉の維持管理の上では重要であり、長期責任委託を適用することによって予想外の支出が発生しない、長期の支払いの一定化が可能になる。
これまでに示した、従来方式、長期責任委託、DBO、PFIの関係を図2に示す。長期責任委託になり、委託期間が短いものほど従来の発注方式に近い事業となる。

 

その他の新たな事業の展開

これまで進められてきた官民協働の事業方式について動向を示してきた。これらの事業に加えて今後期待される事業を以下に示す。

一般廃棄物と産業廃棄物の混焼が進む

産業廃棄物の安定処理への対応は急務

昨年12月のダイオキシン規制後には、産業廃棄物処理施設の1/3が閉鎖されることになり、産業廃棄物の処理能力は激減することとなった。このため、産業廃棄物の不法投棄などの対策として、安定かつ適正な処理を行う施設の整備が必要となってきている。そこで、一般廃棄物のみならず、産業廃棄物を同時に処理する事業の普及が期待されてきた。第1号案件が倉敷市のPFI事業である。本事業では、図3のようにPFI事業を行う一般廃棄物処理事業者と民間事業である産業廃棄物の処理事業を一体的に行っている。産業廃棄物を扱う場合は、技術面のみならず廃棄物そのものの確保を民間事業者が行わなければならないため、経営面での安定化にも十分な配慮が必要である。この点では、産業廃棄物処理事業を行うことができる民間事業者が、併せて一般廃棄物処理事業を行う場合に事業を安定化することができる。

 

事業拡大への課題

本施設は一般廃棄物処理を行う施設であるため、産業廃棄物の処理施設としては高スペックとなり、割高になる。そこで、昨年4月よりPFI事業によって産業廃棄物処理事業を実施する場合には、産業廃棄物設備部分に対しても、一般廃棄物同様の補助が適用され、施設建設費負担を軽減することができることとなった。ただし、この補助が適用されるのは公共出資が25%以上行われ、県に指定されたモデル事業であることが条件となる。
本事業におけるその他の課題を以下に示す。
(1)プロジェクトファイナンスの確保が難しい。
(2)施設整備用地の確保が難しい。
1つ目の課題は、産業廃棄物の調達リスクを特別目的会社(SPC)に負わせることが難しいことを示している。この場合、スポンサーである民間事業者の負担が大きくなる。この解決方法は産業廃棄物の調達を確実に行うことである。幸いなことに、昨今の環境への関心の高まりは、適正処理や発電などのサーマルリサイクルのニーズを拡大させている。高度処理を行う産業廃棄物焼却炉には、高い処理委託費を支払ってでも処理をして欲しいという排出事業者が増えており、混焼事業には追い風となっている。
2つ目の課題は、一般廃棄物のみであっても地域住民の理解を得るには長時間を要するため、用地の確保が難しいということである。しかも、産業廃棄物に対しても同意を得ることは、さらに困難であることが予想される。本課題に対応する有効な方法の一つに、工業地域での処理施設の整備が挙げられる。工業地域では産業廃棄物の排出者が近隣に存在することから運搬費用の削減が可能となり、また、生成するエネルギーを工業地帯で有効に利用することが可能になるので有利である。

エンジニアリング・サポート・サービス(ESS)事業

性能発注を支える技術サポート業務

PFI事業および長期責任委託事業を行う場合には、自治体の業務が性能の監視に移行することを示した。この際、自治体は、結果として得られる性能を評価することになり、業務のプロセスを評価する必要はない。しかしながら、いったん性能未達であるか要注意状況であることが確認された場合は、自治体は説明責任を果たすため、性能改善のための勧告を行うとともに、改善のために通常よりも厳しい監視を行う必要が生じる。この際、自治体には問題発生の原因や改善計画の内容についての一定の評価を行う業務が発生する。 
しかし、建設から運営までを一体的に民間に性能発注した自治体は実際の運営を行って技術を習得する機会がないので、技術的なサポートを自治体の外部に求める必要が生じる。この役割を担うのがESSである。(図4参照)ESSは、技術力の不足する自治体に代わって、民間の業務の監視やトラブル対応を行い、自治体をサポートする。このような機能は性能発注が進む海外でも行われており、我が国においても今後拡大する性能発注による事業を成功させるために必要となってくる。

技術者の人材流動の受け皿となる

本事業の普及を進めるには、自治体をサポートする技術者が不可欠である。しかし、現実に高い技術力を有するのは民間企業に在籍する技術者であり、民間企業からの中立性に疑問が生じる。逆に民間企業に在籍する技術者をESSが確保する可能性は低いことから、リタイアした技術者の確保を積極的に進める方針が現実的である。 
今後、スクラップ&ビルドの時代からオペレーション&メンテナンスの時代に進むと言われている。このような状況では、メーカも今までのようには人材を確保しなくなる可能性があり、技術者の人材流動が加速されることが予想される。これらの人材の受け皿として、ESSが機能する可能性は高い。

■まとめ

PFIという事業方式のみならず、長期責任委託方式、産業廃棄物への拡大、さらにはESSと様々な官民協働による事業方式について、現状と今後の動向について示した。特にESSの普及は重要であり、ESSが十分整備されれば、よりいっそうPFI、長期責任委託の普及が進み、公共サービスの民間事業者への委託が拡大することになる。この2、3年の間に起こった官民協働事業への大きな構造転換は、今後さらに加速していくこととなるであろう。

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