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バイオマスビジネス成立のための条件

出典:月刊地球環境 4月号

バイオマスビジネス成立のための条件 「バイオマス・ニッポン総合戦略」によって、バイオマス事業の促進がうたわれた。だが、バオイマスは資源の集積度が低いため、自立的に発展していくためにはさまざまな条件が必要となることも事実。バイオマス事業を研究している筆者が、ビジネスとして成立するための条件を都市型、都市周辺型、農村型に分けて提言する。

バイオマス普及活性化のための背景

バイオマスとは生物由来の資源のことであり、生ごみなどの食品廃棄物や、家畜のふん尿、建築廃材、また間伐材などの産業廃棄物などがある。 欧米では、脱化石燃料を可能とする環境性を重視したエネルギー資源であるバイオマスに早くから注目し、99年には国家戦略としてエネルギー資源とする方針が打ち出された、米国では「バイオ製品とバイオエネルギーの開発および促進に関する国家戦略」として方針が出され、2010年には、バイオ製品とバイオエネルギーの消費量を3倍に増加させる方針を出している。
また、EUでは「再生可能エネルギーに関するEU戦略・アクションプラン」として、こちらも2010年までに3倍の増加を目標に掲げている。各国の取り組みに遅れはしたが、わが国でも1府5省連携の下に昨年12月に戦略が策定された。 バイオマスの有効利用は、これまでの石油危機が起こるたびにその普及が求められてきたという歴史がある。
しかし、今回は石油危機が引き金になったものではなく地球環境問題の解決に取り組むとともに、持続可能な社会への転換のための大方針であり、これまでのバイオマスブームとは異質なものである。

バイオマス・ニッポンの総合戦略の方針

バイオマス・ニッポンの総合戦略の方針は、
1. 地球温暖化の防止、
2. 循環型社会の形成、
3. 競争力のある新たな戦略的産業の育成、
4. 農林漁業、農産漁村の活性化 
の4つである。 また、具体的な目標を掲げている。この目標からは、含水率の高いバイオマスについてはデンマークやスウェーデンのような大型プラントよりも、ドイツのような中小型の施設を多数設けることが方針として出されている、ただし、地域に合った携帯で普及することとしており、施設設備の主体者が自治体となるか民間になるかによって大きく変わってくる。 このように米国やEUに遅れはしたものの、地球環境問題に対する解決方法のひとつとして、2010年に向けた方針が策定された。今後はこの方針をいかに具体的に発展させていくかが大きいな課題である。その解決には、適切な法規制や制度の確立必要である。

バイオマス周辺への法規制の動向

バイオマスの普及を促進する要因として、リサイクル、エネルギー、などの法規制がある。EU、米国におけるバイオマス普及策の中で効果があったものとして、バイオマスにより発電された電力買い取りの義務付けや税制優遇制度、補助制度がある。これに対して、わが国ではリサイクル面での法規制によってバイオマスの普及が促進されようとしている。推進の原動力となっているのは、家畜排せつ物法と食品リサイクル法である。
どちらも含水率が高いバイオマスを対象としたものである。 家畜排せつ物法では、2004年11月以降、家畜の排せつ物を適正処理もしくは有効利用していない事業者に対して罰則が適用されることになっており、畜産農家、もしくは畜産農家が多い地域の自治体が中心となって対応策を検討している。 食品リサイクル法では、2007年4月から食品廃棄物を20%以上リサイクルしていない食品関連の事業者に罰則が適用される。こちらは、民間事業者が中心となって対応策を検討中である。 これらリサイクル法によって、関連の事業者はリサイクル整備の導入が必要となっており、現在より安価で効率のよい方法は何かが検討されている。
当初、その中で最も期待できるのはたい肥化設備であったが、たい肥の有効利用が難しいということが明らかとなり、現在、方針はエネルギー利用にシフトする動きが出てきた。 というのは、バイオマスによる発電電力はこれまで高価に買い取られることはなかったが、バイオマス・ニッポン総合戦略では他の新エネルギー並みの価格で買い取ることができるようにする方針を打ち出したからである。RPS法(新エネルギー利用特別措置法)の施行とともに、EUや米国同様に、わが国においても電力などを中心としたバイオマスの普及が促進される傾向が出てきた。
リサイクル法で普及促進が図られている食品廃棄物や家畜排せつ物などの含水率の高いバイオマスのエネルギー利用について、以下に普及の課題と施策を示す。

バイオマス有効利用の課題

普及促進の基本方針が明確化され、施策が実施され始めたバイオマス有効利用ではあるが、現時点ではまだまだ普及は進んでいない。その要因は、
1. コストが負担できない
2. 持続的な環境維持へのインセンティブが希薄である
3. 技術的な信頼性が確保されていない
の3つである。 以下に各項目の詳細を示す。 

1. コスト負担ができない
対象となるバイオマスは廃棄物バイオマスであり、本来処理委託費を払って処理するものである。しかし、家畜の排せつ物などはもともと処理にコストが発生していなかったものであり、生産量が膨大であるため、通常の産業廃棄物並みにコストを発生させれば、農家の経営が破綻してしまう。また、食品廃棄物においても処理設備を導入すれば、数千万から数億の支出が発生し、経営を圧迫することになる。 

2. 持続的な環境維持へのインセンティブが希薄である
農家の高齢化問題は深刻であり、全体の60%以上が60歳を超えている。このような状況では、今後も継続的に農業を行い、そのために環境の設備を行っていくというインセンティブは働きにくい。また、食品関連事業者にとっても、環境への配慮をアピールしたい大手の事業者と、現在の経営を優先する中小規模の事業者では異なる。中小では、持続的社会形成に対する社会貢献へのインセンティブは小さい。
 
3. 技術的な信頼性が確保されていない。
含水率の高いバイオマスのエネルギー利用技術の代表は、メタン発行させてバイオガスとして利用する方法である。本方法はEUにおけるバイオマス処理技術の主流であることから、わが国でもさまざまな技術や試験設備の導入が行われてきた。しかし、多くの施設で当初期待していた性能を発揮できないでいる。その理由は様々であるが、当初見込んでいたバイオマスの質や量が確保できないことが原因であることが多い。 さらに、当時は国内のプラントメーカーにノウハウが少なかったため、機種選定や改造方針に誤りがあったと考えられる。しかし、現在では多くのメーカーは試験設備や実機設備を導入し、実機レベルのノウハウを蓄積してきた。このため、今後のプラントは技術面での課題を克服できる可能性は高い。 

バイオマス有効利用の普及の向けての提言

このような課題を克服し、バイオマスの有効利用を促進していくには、以下のような戦略が有効である。
 
(1) 都市型事業戦略
都市のおけるバイオマスは食品廃棄物が主流である、しかも、排出場所は分散しており、集中処理は難しい。このような状況では、ホテルのような大手の排出者が単独で処理を行う戦略と、地域の生ごみを一括処理するネットワークをつくる戦略がある。 ネットワークをつくる戦略としては、たい肥化の事業例として、京都名鉄商店街のように、商店街のどの地域で有効利用を行う動きは出てきている。
しかし、純粋な寄り集まり方式では、だれが、中心になって実施するかはなかなか決められないものである。 ネットワーク形成のうえでは、中心となるプレイヤーが存在しなければならないのだ。しかも、収益性の高い事業でないためインセンティブが環境への貢献でなければならない。このような点で、大手電力会社などの地域貢献度の高い会社が率先してネットワークを形成することで、地域をまとめていくという方法がある。生ごみを中心としたバイオマス発電は、家畜排せつ物などに比べて発電量も大きく、自然エネルギーの普及に対しても貢献度は大きい。
 
(2) 都市周辺型事業戦略
都市周辺で家畜農家の多い地域では、食品廃棄物と家畜廃棄物の両方をバイオマス発電に利用することができる。この場合、併せて処理することにより施設規模拡大が可能となり、スケールメリットによりコストの低減が可能となる。前述の通り、家畜のふん尿には処理委託費収入が得られ難い。これに対して、食品廃棄物は一般廃棄物として焼却処理されており、この際、処理にかかる費用は1t当たり\15,000~\30,000かかっていた。
バイオガス化にかかるコストは焼却処理よりも安価であるため、これらを併せて処理することによって家畜ふん尿の処理が可能になる。 ただし、家畜ふん尿という少ない処理委託費しか得られないバイオマスを処理するには、国庫補助金などの支援がなければ推進されにくいこと、また施設は大型化して共同の施設となることから、実施の主体者は自治体となる場合が多くなると考えられる。自治体は廃棄物の処理委託費がバイオマスの排出者から得られ、しかも国庫補助事業として実施することが可能であるため、財政負担を極めて小さくすることができる。
 
(3) 農村型事業戦略
都市から離れた農村部では食品廃棄物が大量に得られないことが多いため、事業を実施する場合はバイオマスの排出者へのコスト負担が大きくなってしまう。このような場合は、電力販売による収入の増加を行うことと、処理残さである液肥の利用によって農業振興を図ることが重要である。さらにエネルギー増加と農業振興を同時に行う資源削減の育成がポイントとなる。 EUにおいては、この方法はエネルギーファーミングとして定着しているが、わが国においては進んでいない。ここで、資源作物とは食用として栽培するのではなく、エネルギーなどの利用を目的として作物の栽培を行うことである。代表的なものは菜の花である。
菜の花は、絞った油をバイオディーゼルの原料として使い、絞ったかすはバイオバス化することで、ガスとしてエネルギー利用することができる。絞りかすは、家畜排せつ物の10倍近いガスを発生することができる効率の高い場バイオマスである。 ドイツなどでは、資源作物として菜の花の栽培が盛んに行われている。しかも、菜の花は通常転作に利用され、低コストで収穫できる資源作物としては都合がよい。食用を主とした農業の転作作物として菜の花を利用することが、最も適した利用方法であろう。 さらに、バイオガスの残さである液肥を有効利用すれば、作物の栽培コストを低減することができる。得られた有機作物は菜の花などのイメージブランドとともに、今後日本各地でブランドを形成していくことが予想される。 
このように、農村部においても菜の花のエネルギーを利用することと、さらに今後の電力 の買い取り価格の向上によって、事業採算性を確保できる可能性が高くなってきている。
本稿では、バイオマス・ニッポン総合戦略と併せて、今後普及が期待される水分率の高いバイオマスの可能性と戦略について概説した。これまでビジネスになりにくかった分野であるが、ようやく実現可能な事業化戦略が得られ始めた。
しかし、バイオマスはあくまで廃棄物のリサイクル原料であり、貴重な資源と呼べるものにはなっていない。2010年に向け、バイオマスが貴重な資源となるような、さまざまな規制緩和措置や技術開発に期待するところである。

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