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「社会に対する責任」という企業経営の視点(7) 利害超越社会的豊かさを

出典:日刊工業新聞 2月17日

-21世紀の企業像と「市場」概念の進化-

21世紀が、世界貿易センターへの攻撃とエンロンの崩壊で始まったというのは、象徴的である。グローバリゼーション、市場機能への信頼、短期成果志向、株主重視といったビジネスモデルが多くの歪みを孕んでいることが、改めて確認された。だからといって、今日の企業経営がこうした要素に背を向けることも不可能であって、結論的にはカタストロフィーを回避するための何らかのナビゲーターで自らの位置を常に確認しながら、航路を慎重に調整していくしかない。「社会に対する責任」という視点を強く意識するというのは、自らの姿をチェックする姿見を企業が獲得することに他ならないのである。
「民間主導」という言葉があるが、これは単に組織としての「企業」と「行政」を比べたときに世界の大方の国において前者の方にやや信頼感が残っているという程度のことを指しているだけであって、貧困、格差、環境問題などを想起すれば、21世紀というのは「私ごと」より「公ごと」がより重要となる世紀であることは明白である。
このことを早くから看破していた政治家がトニー・ブレアであろう。彼は首相となる前の97年にシンガポールで行った演説で「持続的な豊かさを実現するためには、単に企業の取組だけでは不十分である。それが国民全体の目標であり、誇りとなることが必要である。信頼感というものが互いの目標であり、利益になる社会。ステイクホルダー経済というのがこれであって、そこでは機会がすべての人に開かれており、どの社会的グループや階層も放置されたり排除されたりはしない」と「ステイクホルダー経済」というビジョンを提起した。したがって、CSR促進やSRI普及に英国が最も熱心であるというのは単なる偶然ではない。消費者、NGO、従業員もこのビジョンに共感して発言力を強めており、経済界もこれが企業の持続可能性の道を拓くとして今のところ支持しているのである。
「ステイクホルダー経済」の市場概念は、従来とは大きく変容したものになろう。製品の質と価格という単純化された情報ではなく、製品の生産プロセスから企業が社会的問題にどのように関わっているのかという姿勢までが情報として交換され、選択の根拠になる「市場」がそれである。
 現下の日本企業の意識は、まだCSR重視というところから遠いところにある。リストラ、市場主義の貫徹、厳格な業績評価、株主重視のガバナンスが眼前の課題であり、これらはCSR重視の企業経営とは相容れない側面も多い。しかし、「今は失われた10年のツケを払わされている」だけだという認識を持たなければならない。世界は、確実に進化しており、トンネルを抜けた日本企業が再び参入するのは、「社会に対する責任」という企業経営が一般化した世界市場である。
「企業の社会に対する責任」に関する認識と現状の取組
(設問に対して、「そう思う」、「強くそう思う」という人の割合)

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