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「社会に対する責任」という企業経営の視点(6) 経済競争力に弾み

出典:日刊工業新聞 2月17日

-公共政策としてのCSR推進の意義-

「企業の社会に対する責任」は、企業を取り巻く顧客、NGO、従業員、投資家などからの要請で進展していることはいうまでもないが、この数年、特に欧州において「政府」がこれを積極的に促進させようという姿勢を鮮明化させている。
英国では、年金法が改正され「投資判断の際に、対象企業の環境、社会配慮を考慮に入れているか」についての開示が義務づけられた。フランスでは会社法が改正され、上場企業が環境保全やその他社会的責任に対してどう取り組んでいるのかを報告書として発行することが義務づけられた。この2カ国にはともに内閣にCSR担当大臣が置かれている。ベルギーでは国際労働基準に合致した条件で製造された消費財に社会性適合マークを付与する制度が始まっている。スイスやスウェーデンでは公的年金の運用に、社会的責任投資の導入が試みられている。
EUの取組も見逃すことができない。2000年5月の首脳会議で、EUは「CSR推進が欧州の経済競争力を強化する」とする基本戦略を打ち出した。現在、EUは、「CSRは各企業が法律で定められた要件プラスアルファのことを自発的に取り組むことで実現する。したがって、その促進策は直接的な規制強化ではない」としながらも、CSRの効果についての普及・啓発、企業間の参考になる経験の共有、企業におけるCSRマネジメント能力の開発促進、中小企業における普及などを積極的に担うとの積極的な立場をとっている。
では、公共政策としてのCSR推進の意義とは何であろうか。第一はEUの基本戦略にもあるように経済競争力を高める産業政策の側面がある。しかし、欧州の事情はさらに複雑である。第二に指摘すべきは、行政改革としての側面がある。欧州はサッチャーリズムのような例があるにせよ、伝統的には政府の役割を重視してきた。しかし大きな政府を維持する財政負担能力は、欧州のどの国にもない。国民の社会保障や福祉水準を維持しながら、どのように身軽な政府を作るか。その処方箋として役割を企業に肩代わりして貰おうという政策が生まれているといえる。第三は国内ならびに国際的な安定化政策としての側面がある。世界経済におけるグローバリゼーションの進展は自国内においても南北間においても所得格差を確実に増大させ、犯罪や紛争を助長させている。CSRが雇用における機会均等や発展途上国でのサプライチェーンマネジメントを問題にするのは、グローバリゼーションの陰の影響をできるだけくい止めることに繋がるからである。
経済競争力の強化、政府のあり方の見直し、セイフティネットの整備。このようにしてみるとCSR推進はわが国政策課題への処方箋にもなることに改めて気づかされる。
欧州委員会「CSRグリーンペーパー」に対する意見書発行主体の構成(N=350)

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