“地方議会議員”は誰もが志すことのできるキャリアの一つである
地方政治の担い手不足をどう乗り越えるか。この問題を解決するには、地方議会議員(以下、地方議員とする)になることのやりがいや魅力を、多様な人材に伝えていくことが重要だと筆者は考える。ここでいう「多様な人材」とは、これから就職活動を行う学生から現在就業している社会人まで、幅広い年代層を対象とすることを意味している。新卒の就職活動や中途の転職活動において、“地方議員”が一般的な選択肢になることで、地方政治を担う人材が充足されていくのではという仮説である。
自身のキャリア転換期において「地方議員に挑戦するか」と真剣に自問自答すると、難しさを感じる人もいるかもしれないが、少なくとも“志す”ということに限って言えば、案外ハードルは高くない。地方議員になるための要件は、日本国民であり欠格事由に該当しないことに加えて、居住実態と満年齢が主な判断基準(※1)であり、特別な資格や経験を有している必要はない。この前提が「“誰もが”志すことができる」ことの真意である。
なお、「地方政治の担い手不足をどう乗り越えるか」という問いは、“政治人材バンクプロジェクト”のリーダーを務める当社の杉原が立てたものであり、地方政治の担い手不足をどう乗り越えるかも併せてご参照いただきたい。筆者自身も兵庫県西部の地方都市で生まれ育ち、かねてより地方政治に関心を持っており、先ほどの問いに対する自分なりの答えを見つけるためにこの活動に参画している。
キャリアパスに“地方議員”を組み込むべきと主張する背景
筆者は組織人事分野におけるチェンジマネジメントのコンサルティングを専門としているが、“キャリアパス”という言葉を、「生涯を通じた職業人生において、自らがなりたい姿に近づいていく道程のパターン」と解釈している。同一企業内で複数の部署や職種を経験して、なりたい姿に近づいていくパターンは分かりやすいが、異業種への転身を重ねる道程もあってよい。企業勤めをするのか独立開業するのかも自由であり、営利事業なのかボランティアなのかも問われていない。自らがなりたい姿に近づいていくためのアプローチは多様であってよいと筆者は考える。ただし、現実的にはキャリアパスの検討は、同一組織に長期間所属しているという前提のもとに行われることが多い。実際に筆者が一般企業向けに組織人事のコンサルティングを行う中で、自社にあったキャリアパスを策定することは多々あるが、当然に同一企業内で描かれるものである。
一方で、労働力調査(2025年)によれば、転職希望者数は年々増加傾向(※2)にあり、その裏返しとして「新卒から定年まで同じ組織でやり遂げるべし」といった感覚を持つ人は減少している可能性が高い。こうした転職希望者が描くキャリアパスの中に、「“地方議員”という選択肢を割り込ませることができないか」と筆者は構想している。国民生活に関する世論調査(2024年)(※3)からは、「働く目的は何か」という問いに対して「社会の一員として、務めを果たすために働く」という項目の比率が、年代が上がるにつれて高まる傾向があることが伺える。この労働者の志向性の実態と、転職検討時の選択肢に“地方議員”が組み込まれるということの親和性は高いと筆者は考える。
あるいは、自分が創出したい社会価値が明確であればそれを実現できる場所が地方議会にある、という状況は新卒の就職活動時においても十分に起こりうる。実際に二十代が活躍している地方議会も、多くないが一定数存在している。もちろん、地方議会以外のフィールドでさまざまな経験をしてから地方議員になるという選択肢も従来通りあってよい。昔よりも健康寿命が長くなり、それに合わせて60歳以降の就労促進も加速し、キャリアの時間軸が明らかに長くなってきている。 例えば“故郷への恩返し”のような観点から、生涯を通じたキャリアのどこかで「地方議員になってみないか」と一考することは、われわれの人生にとって意義深いことかもしれない。
どのようにして“地方議員”をキャリアパスに組み込んでいくのか
地方議員がキャリアパスに組み込まれた状態とは、就職や転職を検討する人が「社会価値創出といえば地方議員(という選択肢もある)」と自然に想起するようになるイメージだ。そのために、まずは政治に少しでも興味のある人材に対して、地方議員のやりがいや苦労を手触り感のある形で伝えていかなければならない。
まず、地方議員の報酬体系や就労環境について、制度や実態をつぶさに理解した方がよい。極めて現実的な話だが、議員の給与額は地方自治体によって大きく異なる。また、議員は任期制で終身雇用ではないという点は、多くの人が不安を感じるかもしれない。しかし見方を変えれば、地方議員としての経験は議員を続けるか否かに関わらず、その後の職業人生においても他では得難い糧となり得る。給与のように直接的あるいは定量的な報酬ではないが、公共側から社会価値を創出するという希少価値の高い経験を積めるということも認知されておくべきである。これらの基礎的な情報の理解を促す土壌として、政党や会派に紐づかないオープンなコミュニティが設置されていることが望ましい。
前段の処遇条件やその実態もさることながら、職務内容に対する理解が最も重要で、この点は民間企業に就職する場合も同じだろう。正しく理解するためにどうすればよいかというと、「実際に触れてみる」ことに尽きる。具体的には、現職の議員とディスカッションをする機会が設けられ、加えて地方自治体の課題解決を題材としたフィールドワークを行うことができれば理想的だ。地方議員のやりがいと苦労の両方を五感で感じ取ることができるに違いない。2022年、政府は企業や学校に対して、キャリア形成のためのインターンシップの促進を図るとともに、その要件として「就業体験」が必須であると明示した(※4)ことなどから、職業を知りキャリアを考えるには、「実際に触れてみる」ことが重要であることを示唆しているといえよう。
また、政治家になるための具体的な手続きや作法について、通常の大学生活や企業活動においてレクチャーを受ける機会はないに等しい。ルールに対する理解不足は、地方議員を志すことの心理的な阻害要因の一つになっている可能性がある。この点を体系的に補完するためのプログラムが、地方議員に興味を持つ人なら誰もがアクセスしやすい場所に具備されている必要がある。
ここまでに挙げた複数の取り組みをバランスよく行うことは、サミュエル・ローランド・ホールが提唱したAIDMAモデルの全てのステップ(認知・関心・欲求・記憶・行動)に満遍なくアプローチしていると考えることができる。そして、これらの場所や機会を創出することこそが、われわれ“政治人材バンクプロジェクト”のミッションだと筆者は信じている。実はそのプロトタイプとなる取り組みが少しずつ動き始めたところであり、構想の具体的な実現度合いは、今後の日本総研のコラム等を通じて適宜お伝えさせていただきたい。
社会課題解決を志す人たちに垣根はない
本稿の大半は筆者の仮説や構想にすぎないが、今後のプロジェクト活動を通じて、一つずつ実践に移し、結果を残していきたい。文脈は少し異なるかもしれないが、「シンクタンクから、“ドゥ・タンク”」(※5)と、当社創発戦略センターも宣言している通りだ。
文中でも繰り返し述べたように、社会価値創出のフィールドをどこにするのかは人それぞれ自由である。私はこの日本総研の未来社会価値研究所から、地方政治の担い手不足解消に資する価値を創出したい。さらにはその価値を、自身の故郷にも何らかの形で還元できればという想いがある。
(※1) e-GOV法令検索HP:地方自治法第 四章 選挙

(※2) 統計局HP:労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果の要約 転職等希望者数の推移

(※3) 内閣府HP:国民生活に関する世論調査(令和6年8月調査)

(※4) 厚生労働省HP:令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります

(※5) 日本総研HP:創発戦略センター
以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

