地方政治の担い手不足の深刻化
2027年の春に統一地方選を控える地方政治の現場では、「担い手不足」が深刻化している。2023年の統一地方選挙では、有権者の審判を受けずに当選した無投票当選者の割合は、町村長で56.0%、町村議で30.3%、道府県議で25.0%であった(※1)。対抗馬が現れず、選挙戦が実質的に成立しない多くの事例の背景には、なり手不足が深刻化している実態がある。加えて、議員構成をみると女性の比率は低く、市(区)議会の女性議員割合が0%の議会は全国814自治体のうち16自治体、町村議会の女性議員割合が0%の議会は全国926自治体のうち196自治体となっており、市区町村議会のうち2割で女性議員が0%という実態である(※2)。また、町村議会議員の86.7%が男性で、年齢別では60歳以上が約75%を占めている(※3)。このような現状を踏まえると、小規模自治体ほど、地域の人口構成や社会の多様性を十分に反映しているとは言い難い状況にある。
これまで地方政治の担い手は、主に既存の政治家や政党、あるいは地域特有の組織・団体を中心に輩出されてきた。いわゆる「ジバン・カンバン・カバン」を前提とした継承型の構造である。しかし、この仕組みは今大きく揺らいでいる。その背景の一つには、人口減少や地域社会の変化に伴い、かつて議員の人材供給源となっていた自治会・青年団・農協・商工会等の団体・組織が減少・小規模化したという地域社会特有の要因があげられる(※4)。
2023年の統一地方選では、市議会議員選挙および特別区議会議員として当選した6,635人のうち、24.8%となる1,646人が新人議員であった(※5)が、新しく地方政治家を志す人がさらに広く増えていくことが望ましい。
新しい政治人材に追い風となるSNS
こうした状況の中、地方政治において現れ始めている、「ジバン・カンバン・カバン」を継承しない人材には、一つの共通する要素があると考えられる。それは、選挙活動におけるSNSの活用である。例えば、2023年に史上最年少の26歳2カ月で芦屋市長に当選した高島市長は、動画配信アプリ「TikTok」での投稿の再生回数が100万回を超えるなど新たなアピール方法で支持を広げた(※6)。また2020年10月のつくば市議会選で当選した川久保議員は、後援会もなく街頭演説や選挙カーといった従来型の選挙活動を行わず、「わずか3カ月、市内のゴミ拾いとネット上での活動をしただけの無名の新人候補」(※7)であったが、4,218票を獲得し41人中3位で当選した。このように、必ずしも既存の政治ネットワークを引き継いでいなくても、SNSを活用した発信力を軸に支持を集めることで、これまでの地方政治の選挙スタイルや政治人材像にとらわれない新しい政治人材の輩出が一部で進んできている。
なおこの背景には、有権者の選挙に係るメディアを通じた情報収集の在り方の変化も影響している。東京都議会議員選挙(2025年6月22日投開票)、参議院議員通常選挙(2025年7月20日投開票)と立て続けに選挙が実施された東京都の有権者3,000人を対象とした有権者アンケート(※8)にて、SNSで見た情報が投票行動や投票先の決定へ与えた影響について尋ねたところ、若い年代ほど、SNS(X、Instagramなど)で見た情報が投票行動や投票先の決定に影響を与えたと回答した比率が高く、18~29歳においては、「大いに影響した」「ある程度影響した」と回答した比率が、都議選では35.1%、参院選では43.0%を占めた。
このような動きを踏まえると、従来の選挙スタイルや既存の政治ネットワークに依存しない新しい政治人材候補にもチャンスが広がってきているといえる。
新しい政治人材の発掘・活躍に向けた「政治人材バンク」構想
SNSの台頭などを背景として新しい政治人材が輩出される動きはあるものの、それは、あくまでも「すでに政治家を志している人」にとっての参入障壁を下げるものであり、地方政治全体で深刻化している担い手不足の解消に直結するものではない点には留意が必要である。本質的な課題は、そもそも政治というキャリアを選択肢として認識していない、あるいは関心があっても一歩を踏み出していない人材、すなわち「政治人材候補」の掘り起こしにある。さらに、SNSを駆使して「当選できるか」ということと、当選後に「政治家として活躍できるか」は別の課題となる点にも着目したい。
新しい人材が地方政治に参入したとしても、地方政治は制度・慣習・ステークホルダーとの関係が複雑に絡み合う領域であり、これまで政治に関わってこなかった人材にとっては見えない壁が多い。例えば、これまでの地方議員へのヒアリングを通じてみえてきた障壁として、地方議会における一般質問は議員活動の中核の一つとなる一方で、質問は事前に通告書として提出が求められ、その書き方や粒度、提出タイミングなどは議会ごとの運用に依存しており、経験のない新人議員にとっては手続きや暗黙知の理解が大きなハードルとなる可能性がある。
そのため、特にこれまで政治に関わってこなかった新しい政治人材に対しては、地方政治の場で早期に活躍するための教育サポート機能が重要となってくる。
このような背景から、新しい政治家の輩出・教育サポート機能について、これまでのように既存の政治家や政党あるいは地域組織だけに頼るのではなく、民間事業者も力を合わせて新しい政治人材の輩出を目指す「政治人材バンク」構想を提唱したい。現在民間においても政治塾は存在しているが、すでに政治家への強い関心や志が顕在化している層を対象としており、新たな政治人材の掘り起こしとの結びつきは弱い。一方で、「政治人材バンク」構想においては、民間事業者が主体となって、現在政治家への志は顕在化していないものの、地方政治において活躍が期待できる民間でのキャリアや独自の知見をもった社会起業家などの人材を掘り起こし、政治家に向けた機運醸成および教育・実践機会を提供したうえで、将来的な政治参画を支援することを目指すものである。

出所:日本総合研究所作成
特に、既存の政治人材の偏りが顕著で、なり手不足が深刻化する小規模自治体などの地方議会においては、「政治人材バンク」構想が大きな変革をもたらす可能性がある。改革志向の強い首長が地方自治体においても登場したとしても、地方議会が行政と建設的な議論を行い適切な監視ができなければ、その改革推進力も弱まってしまう懸念がある。特に小規模自治体においては地方議会の議員数が少ないため、1人でも2人でも改革志向を持った新たな政治人材が加わることで、自治体の変革力に大きな影響力を与えうるのではないだろうか。
新しい政治人材が活躍するための教育サポート機能
上述のとおり、地方政治の活性化に向けては、新しい政治人材の輩出だけでなく、新しい政治人材の活躍を可能にする教育サポート機能が不可欠となる。また地方自治体は人口減少や地域経済衰退といった外部環境の急激かつ甚大な変化に加えて、硬直的な行政組織構造といった課題に直面している。地方の停滞を打破するため、地方議会には単なる首長や行政のブレーキ役としての機能だけでなく、スピード感をもって大胆で適切なリスクテイクを推進する機能も必要とされる(※9)。このような状況を踏まえたうえで、新しい政治人材が特に地方議員として地方政治の場で活躍するためには、①地方行政を適切に監視するための地方自治の制度に係る知識習得、②実現可能性のある政策立案能力、③市民・行政を含むステークホルダーの意見の傾聴・巻き込み力といった大きく3つのスキルを習得する必要がある。①地方行政を適切に監視するための地方自治の制度に係る知識習得については、文献や講座の受講などを通じて自助努力で一定程度得ることができるものであるが、②実現可能性のある政策立案能力、③市民・行政を含むステークホルダーの意見の傾聴・巻き込み力については、特に外部からのサポートが必要となる。実態として、総務省が公表している「地方議会の運営の実態(※10)」によると、市区町村議会の年間平均議案件数のうち議員・委員会提出は1割程度となっており、議員および委員会起点の政策提案が多い状況とはいえない。そこで、民間事業者を主体とする「政治人材バンク」を通じて、新しい政治人材が地方政治の場で活躍するため、講座の提供にはとどまらない独自の教育サポート機能を構築することを提唱する。
②実現可能性のある政策立案能力を身につけるためは、政治人材候補自らの課題意識に沿って、国内外の情報収集および政策発信をし、その反応を分析する経験を積むことが必要である。そのため、シンクタンクのように政治的中立性を保ちながら政策提言・情報発信を推進し、政界に対しても発信力をもつ民間事業者が、政治人材候補に対して自ら政策提言・情報発信をする場を「政治人材バンク」を通じて提供することで、②実現可能性のある政策立案能力の習得に寄与する可能性がある。
また②実現可能性のある政策立案能力、③行政を含むステークホルダーの意見の傾聴・巻き込み力の習得については、実践の場の提供も必要である。そのため、例えば強い変革意識を持つ首長を擁する自治体と「政治人材バンク」が協業し、政治人材候補に特定自治体でのフィールドワークの機会を提供することが考えられる。自治体に対する独自の政策提言およびその実現に向けた調整を進める教育機会を通して、リアルな政策実現に向けた企画立案力と推進力を身に着けることが期待できる。
このように、民間事業者が「政治人材バンク」を通じて政治人材候補に独自の教育サポート機能を提供することで、これまで政治に関わってこなかった人材であっても早期に地方政治の場で活躍するための実践的なスキルの習得をサポートできる可能性がある。
「政治人材バンク」での新しい「政治人材候補」の掘り起こし
「政治人材バンク」構想において掘り起こしたい人材は、現時点で必ずしも政治家を志している層ではない。むしろ、社会起業家やNPO、民間企業などで社会課題の解決に向き合い、強い意志と行動力を持って実践を重ねている人材である。こうした人材の多くは、すでに制度提言やロビー活動といった形で政策領域に関わりを持ちながらも、自らが政治の担い手となることまでは想定していない場合が多い。しかし、現場で培った課題認識や実効性のある解決策を有する彼らこそ、地方政治に新たな視点と推進力をもたらす可能性があると考えている。こうした潜在的な「政治人材候補」に対し、政治という選択肢を提示することが重要である。もっとも、社会課題解決に向けて強い意志と行動力だけではなく、他者の意見に耳を傾ける姿勢や、複雑な利害関係を俯瞰的に捉える能力は、地方政治の場で活躍するためには不可欠である。さらに、理想を掲げるだけではなく、現実の制度や制約の中で物事を前に進めるための巻き込み力も求められる。これらは政治の場に限らず、民間においても事業を推進するうえで重要とされる基礎的な素養である。こうした資質を備えた人材こそが、地方政治の現場において持続的に価値を発揮できる人材となる。
「政治人材バンク」を通じた地方政治の活性化に向けて
地方政治は本来、地域社会の未来を形づくる最も身近な意思決定の場である。しかし、現実にはその担い手は限られ、新しい人材の参入は容易ではない。地方政治を、特定の人や組織だけのものではなく、多様な人材が関わる場としていくためには、新しい枠組みでの政治人材の育成と輩出が必要とされている。民間事業者が主体となって新しい政治人材の掘り起こしと教育サポート機能を提供する「政治人材バンク」は、新しい枠組みの構築に向けた可能性の一つとなると考える。
| (※1) | 総務省「第20回統一地方選挙 発表資料」 |
| (※2) | 内閣府「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況(令和7年度)(参考2)市(区)町村議会における女性議員の状況」 |
| (※3) | 全国町村議会議長会 【第69回】 町村議会実態調査結果の概要 (令和5年7月1日現在) |
| (※4) | 町村議会議員のなり手不足対策検討会「町村議会議員のなり手不足に潜む3つの危機 ~議会の取組と幅広い協働により地方自治の未来を創ろう~」(令和6年3月) |
| (※5) | 総務省「第20回統一地方選挙 発表資料 |
| (※6) | 神戸新聞NEXT 「全国最年少市長へ高島氏、灘高時代は「ノートの神様」 SNS駆使、TikTokは再生100万回超 芦屋市長選」 |
| (※7) | 日本経済新聞 「脱「どぶ板選挙」私に続けつくば市議会議員・弁護士 川久保皆実」 |
| (※8) | 日本総合研究所 【都議会議員選挙・参議院選挙2025】有権者アンケート―調査結果①有権者の投票行動の実態―(2025年08月19日時点) |
| (※9) | 日本総合研究所「未来社会価値研究所報 Annual Report 2024-2025 |
| (※10) | 総務省「地方議会の運営の実態」 |
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

