コーディネーターの重要性
前編でエコシステム形成の上では、4つの壁があると述べたが、それらの壁を越えて自律的な循環を生み出すためには何が必要であるか。これらの壁を越えるためには、多様なプレイヤーを巻き込みながら、社会実装につなげていく構想力を持った「コーディネーター」の存在が重要であると筆者は考える。
コーディネーターとは単に資料を作って、会場設営をして、議事録を作成するだけの存在ではなく、企業、大学、金融機関といったさまざまなプレイヤーの言語で対等に対話でき、個別のニーズをヒアリングして理解し、それらを地域全体としての企画(取り組みの目的、体制、スケジュール、マネタイズモデルなど)へと落とし込み、エコシステム全体が自律的に回るようにフットワーク軽く支援できる存在であると考える。
無論、これらの役割を一個人が担うのは限界があるため、チームで分担する方法もあるが、その上でも全体を見渡せる人間が必要ではある。これまで筆者は複数の自治体から産業クラスターや、エコシステム形成の相談を受けてきたが、一番の課題はこのような人材が地域にいない、または不足していることにあると考える。
本来であれば地域のことを考えるのは行政職員ではあるが、数年で異動してしまうため長期的な信頼関係に基づくネットワーク構築が難しい、部署ごとに担当業務が固定されており、指示系統も明確で硬直的な文化が強いため、なかなかフットワーク軽く動けない、特定の自治体が主導すると、その自治体にとって意義が見いだせない事業、例えば広域自治体での連携などでは動きにくいという課題がある。
では、民間が主導する場合はどうであろうか。民間の場合、地元の有力企業が主体となる場合もあるが、営利団体であるがゆえに、その地域の発展に寄与することがその企業の事業戦略に位置付けられ、最終的に何らかの価値がその企業につながるものと考えている企業ではないと、なかなか実際の行動に移すことができないと考える。また、企業も行政同様に人事異動を行うことがあり、エコシステムの中心で活動できる人材が社内に既にいる、あるいは自然に育つとは限らない場合が多い。
コーディネーター創出のための私案
各地域においてエコシステムを形成するためのコーディネーターを自律的に排出することができるのか。筆者としては、「全ての地域が現時点で有力なコーディネーター人材を確保するのは難しい」と考えている。行政が予算をつけて、このような人材を生み出すための事業はよく行われるが、それぞれの言葉を話す多種多様なプレイヤー間を越境でき、その上で、事業を企画し、支援できる人材、そしてそのような人材が地域のエコシステムの発展に貢献する意志を持つというのは、短期的な教育によってはなかなか生まれ得ず、さまざまな変数と偶然の上で生まれるものであると筆者は考える。
それではコーディネーター人材を生み出すことは絶対不可能なことなのか。筆者の一つのアイデアとしては、三大都市圏の企業に勤める、その地域出身者を自分の地元にある一定期間派遣して、エコシステム形成に従事させるモデルを考えている。それを実現するためには、地域の課題解決のために企業の社員を自治体に派遣する「地域活性化起業人」制度(※1)を活用することが有効と考える。
ただ現時点の制度では「企業派遣型」では自治体と企業間で協定締結をする必要があり、「副業型」においても就労している企業の兼業に対する姿勢が大きく影響するため、応募するハードルは高い。筆者はこれまで自分の地元をよくしたいという思いを強く持つ人々に数多く接してきたが、会社勤めを続ける中で行動に移せずにいる人も多く見てきた。
思いを持った個人が会社に勤めながらも応募できるようにするためには、地域活性化起業人制度の中に、「コーディネーター型」とも言える新たなタイプを作ってみても良いのではないかと考える。例えば、就労先の企業が負担している社員の人件費を国が負担するなどして、兼業ではなく会社の業務として位置付ける、その代わりコーディネーター人材として重要な地域に対する土地勘、人的ネットワークの有無を担保するために、自分の出身地から委嘱をもらうことなどを応募要件に加えることも考えられる。また、派遣先を特定の団体に限定すると、先述したように言語の壁によって自由に動けないことも想定されることから、フリーランスも含めて活動形態を自分で選べる制度にすることも重要と考える。

図4:地域活性化起業人制度「コーディネート型」イメージ
筆者自身の話をすると、地域活性化起業人制度の活用はしていないが、以前のオピニオンでも紹介したように十勝の19自治体の一つである北海道上士幌町のアドバイザー(地方における行政DXの進め方~北海道上士幌町の挑戦|日本総研)を務めており、昨年からは自分の出身地である北海道音更町から地域協創推進アドバイザー
に委嘱されて活動をしている。これらは単にそれぞれの自治体の特定の業務を支援するものではなく、地元リレーションを持ちながら、東京在住という外部との接点も有する一出身者として、高い自由度の中でそれぞれの町全体、ひいては十勝全体のための活動を行える点がポイントである。その中の一つの取り組みとして、十勝から「地方の新たな未来を創るプロジェクト」project tokachi
がある。この取り組みは、十勝で先進的な活動をしている30の団体、プロジェクトと連携をしながら、①それらの活動を一元的に紹介することによる、十勝全体としての魅力の発信、②十勝内、十勝外のプレイヤー同士が出会い、マッチングするための場の設定、③プレイヤー同士による協創を生み出すための事業化支援を行うことを目的として、2022年に設立をした(※2)。
これまでは主に、①の情報発信と、②のマッチングが中心であったが、今年2026年8月からはさらに踏み込んだ形で③事業化支援に力を入れていくことになった。事業化支援では、その趣旨に賛同いただいた地元の方々にご協力いただくこととなっている。例えば、若手の経営者、スタートアップの経営陣、IT企業の新規事業担当者、大手企業、官公庁に勤めてUターンをしてきた農業生産者、支援家を中心として、まずは小規模な塊として活動を進めていく予定である。
今回の事業化支援のメンバー構成に関しては、先述した4つの壁を乗り越えるための工夫もしている。距離の壁に関しては、メンバーそれぞれが十勝と都市圏の両方の関係を既に有していること、言語の壁に関しては、メンバーそれぞれが複数の異なる立場に所属して活動していること、行政の壁に関しては、行政主導ではなく民間主導で立ち上げている点である。行政が主導していないことにより、活動の正統性をアピールしにくい、予算がないという課題はありながらも、それらと引き換えに、強い思いを持ったメンバーが集まった、そのメンバーで自由な活動ができるというメリットもある。最後に資金の壁であるが、筆者以外はメンバー全員が事業を営んでおり、その意思決定に関わることができることにより、事業化の目途が立てば実際に動き出すことが可能な体制となっている。
本プロジェクトの事業化支援の取り組みはこれから走りだすものであり将来は未知数ではあるが、小さな実績を地道に積み上げながら、将来的には十勝全体のエコシステム形成の核となるような存在にしていきたいと考えている。

図5:project tokachiの成長イメージ
自分の現在行っている活動が産業クラスターのエコシステム形成に本当に貢献できるか、またそのコーディネーターの一人として自身が機能しているかは正直自信のないところではあるが、行動を起こさないことには何も生まれないという思いを持ちながら、日々考え、メンバーと相談し、悩みながら行動をしているのが現状である。
さいごに
高市政権の目指す「経済成長によって地方から稼ぐ」という地域未来戦略は、「稼いだ額」という目に見える数字が指標とされていることにより、今後、各地域間の競争はこれまで以上に熾烈なものになるであろう。その中で、その地域が勝ち抜いていくためには、新たな価値を内発的、持続的に生み出していくエコシステム形成が重要であり、その形成のためにはコーディネーター人材が必要であり、そのような人材は希少であることをこれまで述べてきた。
今後、各地域に求められるのは、立派な肩書を持った権威の集まりや、きれいな計画ではなく実際に物事を動かす具体的な行動である。さまざまな壁を打ち破って行動を起こせる人材は少ないが、そのような気概を持った人材を、その地域に引きつけることができるかどうかが、今後の地方の生命線と考える。時には内部の論理を無視して行動してしまう「無礼な突破者」が今、求められているのではないか。
世界的な文豪である三島由紀夫は、言葉に頼る「芸術家」のあり方を否定し、肉体による「行動家」の優位性を自決の2年前に書かれた『太陽と鉄』にて提唱している。
「行動は、いかにそれが華々しく見えようとも、その本質においては、常に、言葉による存在の保障を拒絶したところに生れる。」 (※3)
この言葉を筆者なりに再解釈すると、自分が傷つかない安全な場所から眺めて、「言葉」による批判をする人々に対して、行動家は、言葉による言い訳を一切捨て、言葉ではなく自身の能力に基づく肉体(=行動)で証明する人間であると考える。三島由紀夫の「行動の理論」こそ、これまで述べてきたコーディネーターが持つべき資質、覚悟ではなかろうか。いささかオーバーな話を取り上げたが、衰退していっている地域が、新たな価値を創出できる余力があるか、残された時間はそこまで多くない。「行動家」が求められるのはまさに今である。
(※1)総務省. 「地域活性化企業人
」, 2026年7月16日参照(※2)チャレンジフィールド北海道, 【対談#7】
project tokachi ×チャレンジフィールド北海道「北海道を変えていく方法
」(※3)『太陽と鉄』, 三島由紀夫, 講談社. 1968年
以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

