オピニオン
OTC類似薬の保険給付見直しに関する議論の経緯と論点~社会保障審議会医療保険部会を対象とした事例研究~
レポート

本研究の背景と目的
2026年5月29日、市販薬に類似する成分・効能を持つ医療用医薬品(OTC類似薬)について患者に追加負担を求める仕組みを盛り込んだ改正健康保険法が成立した。この改正では、日本維新の会が三党協議において主張した「保険適用からの完全除外」による1兆円規模の財政削減効果(※1)に対し、最終的に成立した制度による削減効果は約900億円規模にとどまる可能性が指摘されている(※2)。政策目的(医療保険財政の持続可能性確保)と最終的な制度設計との関係が、どの段階で、どのように検討・変更されたのかは、政策形成のあり方を考えるうえで示唆に富む論点である。
我々は、この検討の中心となった社会保障審議会医療保険部会(以下「本部会」)の議論プロセスの解明が政策形成のあり方を理解するために適切ではないかとの仮説のもと、本部会における議論を分析し、それをレポート「OTC類似薬の保険給付見直しに関する議論の経緯と論点」として取りまとめた。
議論プロセスに見られた3つの観点の特徴
分析の結果、本部会の議論プロセスからは、①委員構成、②論点設定、③委員発言、の3つの観点で特徴が確認された。
第1に、委員構成である。本部会の委員21名のうち、特定の経済的利害を直接有する委員が8割(17名)を占めていた。支払側12名、診療側5名であり、両者の利害は「保険料負担軽減」と「診療報酬等の収入維持」で対立している。これに対し、いずれの利害にも与しない公益委員は4名にとどまる。加えて、社会保険料負担が相対的に重い若年低所得層・就職氷河期世代等、制度変更により直接影響を受けうる当事者層の代表は不在であった。実際、第206回部会において公益委員からこの点について指摘がなされている。さらに、第204回部会で実施された唯一の外部団体ヒアリングも、対象4団体はいずれも保険適用除外に懸念を示す立場に偏っていた。
第2に、論点設定である。論点設定と資料準備は事務局(厚生労働省)に集中している。本件でも、当初は「保険給付の在り方をどのように考えるか」というオープンな問いが設定されたが、第204回部会でのヒアリングを経て、「保険給付の対象から外さない」ことが前提となり、それ以降の議論は「保険給付を維持したうえで、いかなる形で別途負担を求めるか」に収斂した。もとより、選択肢を絞り込み一定の結論に導くことは、本部会に期待される本来の機能である。問題は、絞り込みの過程で、当初の政策目的である医療保険財政の持続可能性確保との関係が明示的に検証されないまま議論が進んだ点にある。
第3に、委員発言におけるエビデンス活用である。委員発言には、客観的根拠を伴わない主張や個別事例の過度な一般化に依拠するものが散見された。「そういった事例、エビデンスがどうなのか」と委員自身がエビデンス提示を求める発言もなされており(※3)、議論がエビデンスベースで十分に進んでいない実態がうかがえる。
「公正かつ均衡のとれた構成」と「多様な意見」の確保に向けて
これらの特徴は、「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」(平成11年4月27日閣議決定)が求める「公正かつ均衡のとれた構成」および「多様な意見が反映された審議」の確保という観点から、本部会がその機能をより効果的に発揮するうえで、改善を要する点である。本レポートでは、これに対応する解決策の方向性として以下を提示している。
1.委員構成の多様性の確保(職能団体代表に加え、経済的利害に対し中立的な立場でかつ専門分野が多様な有識者の登用)
2.制度変更の影響を受ける層の参加機会の確保(世代・所得階層・就業形態等の多様性を意識した参加機会の設計)
3.ヒアリング対象選定における多様性の確保(主要な立場が偏りなく代表される選定)
4.論点設定段階での選択肢の確保と透明性の向上(事務局論点の背景の明示および委員からのフィードバック機会の確保)
5.エビデンスに基づく議論プロセスの確立(事前のデータ・先行研究の整理共有およびAI等を活用したエビデンスチェックの導入)
おわりに
本稿で取り上げた特徴は、医療分野に限らず、他の多くの審議会においても共通して見られる可能性がある。政策形成プロセスへの信頼を維持し、政策目的に照らして納得感のある結論を導くためには、個別の審議会運営の改善に加え、政府全体としての制度的な検証も期待したい。
(※1) 日本維新の会・猪瀬直樹参議院議員NOTE
(2025年4月17日)で、「今回のテーマであるOTC類似薬について。市場規模は青丸で囲ったが全部約1兆円もある」と記載。(※2) ミクスOnline(2025年12月19日)「OTC類似薬の保険給付見直し 77成分1100品目 4分の1負担で合意 約900億円削減 自維政調会長会談」

(※3) 第199回社会保障審議会医療保険部会
における支払側委員の発言(2026年 2月確認)※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

