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日本総研・石狩市共催フォーラム
地域発で進めるGXの可能性と課題(前編)

2025年11月11日 若松寿明、大島裕司青山光彦作田典章、川本宙、中村浩俊、山田祐磨


 本オピニオンでは、2025年2月に実施した「日本総研、石狩共催フォーラム 地域発で進めるGXの可能性と課題」について、前編と後編の2回に分けて報告します。前編にあたる本稿では、本フォーラム開催の目的および基調講演要旨を記します。

1.フォーラム開催の目的
 近年、地方都市を中心にAIの拡大に対応するデータセンターや次世代半導体製造工場等の建設計画が次々と進んでおり、推進する企業としては、これらの設備が大量に消費する電力の脱炭素化は経営上の大きな課題となっている。
 一方、これらの企業、施設の誘致を図りたい自治体側としては、上記、脱炭素の課題解決が可能な「再エネを潤沢に供給できる環境を整えること」が誘致の際の要件となりつつある。  
 この考えは、現在、経済産業省や総務省等を中心に、国が推進する「ワット・ビット連携(※1)」に通ずる考え方と言える。
 このような状況を踏まえ、日本総研ではGX(グリーントランスフォーメーション)を通じて、持続可能な脱炭素地域づくりに取り組む産官学金のプレーヤーとともに、それぞれに期待される役割や課題、目指すべき姿について、具体的な事例を踏まえて議論するフォーラムを開催した。

2.基調講演要旨

・基調講演①:「自立型石狩市」の実現に向けて(石狩市 加藤市長)
 少子高齢化、地域公共交通の衰退や自然災害の頻発、自治体運営を取り巻く課題が深刻化の一途をたどる中で、地域づくりにおいて経済的な自立が必要と認識している。その中での石狩市の現状、自立的な地域づくりの手法およびその根底にある考え方について講演する。
 石狩市は、札幌中心地から約15km北上した場所に位置し、漁業により発展してきたが、現在は石狩湾新港地域により発展している。石狩湾新港地域とは、札幌圏の物流を担う流通業やリサイクル関連企業、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー電源が集積しているエリアである。



 現在、石狩市の人口減少が進み地域の活力が失われる可能性がある中で、30年後のまちの持続をミッションに掲げている。そのミッション達成のために「脱炭素で地域をリデザイン」というスローガンに沿って、再エネの「地産地活」を念頭に取り組みを進めている。「地産地活」とは、「地域が持つ再エネポテンシャルを地域の経済発展につなげる」という考え方である。再エネを都市部に供給するだけではなく、再エネ電源が地域に立地するメリットを最大化するために、供給先企業の産業施設を石狩市内に誘致し再エネを地域で活用するということが地産地活の考え方である。この考え方が、「自立型石狩市」の実現に必要と考えている。
 これらの取り組みにより、企業誘致のみではなく、石狩湾新港地域を対象とした地域学生への脱炭素型地域教育や石狩市の取り組みに興味を持つ自治体や企業、学術団体からの視察者増加による交流人口の増加につながっている。
 「地産地活」の取り組みはまだ道半ばであり、現在は、交流人口増加を目的とした交流拠点の整備や軌道系交通機関の代替となるロープウエーの検討、エリアを超えた秋田市との地域連携等を検討している。



・基調講演②:地域共生型の洋上風力発電事業の実現に向けて(東邦大学 竹内准教授)
 地域共生型の洋上風力発電事業の実現に向けては、地域の利害関係者との合意形成が必要である。合意形成の実施には、利害関係者と合意形成を行うための制度と運用が必要となる。地域での洋上風力発電事業実現に向けて必要となる取り組みや、石狩市における合意形成に資する取り組みついて、参加・協働の専門家の視点から講演する。
 地域と共生する再エネの推進にあたって、利害関係者に求められる合意形成の参加方法は段階ごとに異なる。最初の段階は「情報参加」であり、説明会や勉強会の参加を通じて事業計画に関する情報を得る参加方法である。次の段階は「協議」であり、協議会への参加を通じて、関係自治体や事業者との話し合いに参加する参加方法である。次の段階は、「協働」であり、自治体や関係事業者との共同調査や漁業振興を通じて、課題解決や地域振興に取り組む参加方法である。そして、これらの実施には自治体職員や地域のNPO団体関係者など、キーパーソンの存在が不可欠である。キーパーソンによる、段階ごとに情報の提供や利害関係者間の関係性構築を通じて、全ての利害関係者の利益を最大化するような機会を形成することが重要となる。
 石狩市では、2008年に石狩市自治基本条例が制定され、それに伴い石狩市総合計画が策定された。本条例の前文では、「まちづくりは、そこに暮らす人々がまちのあり方を選択し、実践する中で、自主的かつ自律的に進めなければなりません。」とあり、地域住民の自主的・自律的な「情報参加」や「協議」が必要であるとされている。これに資する具体的な取り組みとして、説明会やワークショップが挙げられる。2024年12月23日(月)に開催されたワークショップでは「2050年持続可能な未来に向けて残したい石狩」と題して、地域住民間で未来の石狩に残したいものやまちづくりの方向性について議論がされた。さらに、本ワークショップでの議論や2024年12月のこどもの権利条例施行を基に、2025年2月4日~2025年2月14日には「いしかり再エネ地産地活博」が開催され、市内の子供たちに向けた再エネや地域GXについて考える場が提供された。
 地域共生型の洋上風力発電事業の実現に向けて、石狩市には外部から多くの人や事業者が集まってきており、さまざまな協議の場がある。また、石狩市内には豊かな自然文化や既存産業、既存の条例や計画、それらを踏まえた活動の「場」がある。これらの既存の資源や活動の「場」を組み合わせ、つなげていくためのキーパーソンが、そして、作られた議論の場に地域住民含めた「情報参加」や「協議」が必要ではないか。



・基調講演③:脱炭素と産業振興が両立する地域の実現に向けて

テーマⅠ:脱炭素社会への移行における「地域起点」の取り組みの重要性(株式会社日本総合研究所 大嶋)
 2024年12月に我が国は「脱炭素成長型経済構造以降推進戦略(GX推進戦略)」を改定した「GX2040ビジョン(以降、本稿)」(出所:経済産業省「「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造以降推進戦略 改定」が閣議決定されました)を策定・公表した。本稿では、GXに関する施策の具体化に加えて「GX産業立地」や「公正な移行」を独立した章として記載している点が特徴である。
 脱炭素社会への移行が進む中では、各産業のエネルギー供給体制やサプライチェーンに変化が生じ、地域レベルでは産業構造の転換が迫られる可能性がある。地域の産業構造の転換は、行政、企業、住民の生活・活動に大きな影響を与えることから、転換に伴う正の影響を増加させ、負の影響を低減する取り組みが必要である。しかし、再生可能エネルギー(以下、再エネ)のポテンシャルや産業構造は地域ごとに異なるため、脱炭素社会に向けて必要な取り組み(地域課題)には地域差が生じる。よって、全国レベルの画一的な支援策では最適な支援ができない可能性があり、地域起点で脱炭素を考えることが重要となる。
 なお、脱炭素社会に向けた産業構造の転換により、新たなビジネスが創出される一方で、使われなくなる製品やサービス、失われる仕事が生じうる。そのため、脱炭素社会への移行を議論する上では、企業や労働者が産業構造の変化に取り残されることを回避する「公正な移行」の視点が重要である。他には、GXは長期の時間軸での取り組みであることから、人口動態の変化(少子・高齢化)も重要な視点である。
 以上のように、脱炭素社会への移行は、地域起点でさまざまな視点(公正な移行、少子高齢化など)を持って考えていく必要がある。各地域のステークホルダー(産業界、行政機関、教育・研究、金融機関、労働団体)が連携し、地域に適したロードマップの具体化や支援体制の構築を進めていく必要がある。さらに、地域起点で脱炭素を考えることで、脱炭素だけでなく、その地域が抱えるその他の課題(安心安全・健康な暮らしの実現、地域振興、快適な移動の実現等)を解決するコベネフィット(共便益)の創出にもつながると考えている。

テーマⅡ:脱炭素地域づくりの実態と課題解決の方向性(株式会社日本総合研究所 青山)
 本パートでは、2024年に実施した、「脱炭素地域づくりの実態に関する自治体向けのアンケート(以降、本調査)」の結果を紹介し、脱炭素地域づくりの実態と課題解決の方向性について考察する。
 本調査は、脱炭素地域づくりに関する政策課題を把握・分析し、今後求められる新たな脱炭素地域づくりのための政策提言を行うことを狙いとしている。本調査は全国の都道府県および基礎自治体(1,788団体)を対象とし、661団体から回答を得た。調査項目としては、「①脱炭素まちづくりの実態把握、②脱炭素まちづくりの進捗と課題、③今後の関心領域」に関する設問を設定した。
 「自治体の脱炭素地域づくりの実態」に関する調査結果:全体で約36.7%の自治体が“すでに脱炭素地域づくりに取り組んでいる”と回答した。脱炭素地域づくりの主担当部署は「温暖化対策担当」が最も多く(n=381)、脱炭素地域づくりの取り組みをより進めている(約43.0%が”すでに取り組んでいる”と回答)。また、主担当部署が「産業振興・企業誘致担当(n=13)」の場合に、「脱炭素地域づくりにすでに取り組んでいる」と回答した自治体の割合が最も多い結果(約76.9%)となった。これは、脱炭素のみを過度に目的化せず、その他の地域課題解決と組み合わせた共便益(コベネフィット)の実現を見据えた取り組みを行ったことで、脱炭素地域づくりが優位に進んだのではないかと考察できる。
 「脱炭素地域づくりの課題」として最も多く挙げられたのは「実施体制・事業スキームに関する課題(例:庁内での専門的知見・ノウハウ蓄積)」だった。次いで、「コストに関する課題(例:事業採算性確保)」、「目的に関する課題(例:地域共生・地域裨益型取組の仕組みづくり)」が続いた。以上より、脱炭素地域づくりにおいては、さまざまな分野の課題が複合的に存在しており、各課題の解決の糸口を持つプレーヤーとの連携が鍵と言える。
 「脱炭素先行地域づくりの課題」では、「交付金制度に関する課題」が最も多く挙げられ、次いで「再エネ設置場所に係る合意形成」が多く挙げられた。他には、「ヒトに関する課題(官民連携組織・チームの運営に係る人的リソース確保、専門人材やノウハウ確保等)」も上位に挙げられており、解決に向けては、自治体と産官学金のステークホルダーとの連携が欠かせないと言える。

(※1) 今後のデータセンターの整備を見据え、効率的な電力・通信インフラの整備を通した電力と通信の効果的な連携を推進しようという考え方

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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