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【日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2024年度)】
人的資本編 第2回 指標・実績・目標の動向(前編)
1.はじめに
日本総研では、人的資本開示の開示要請をふまえ、2023年に有価証券報告書における情報開示の状況について調査(以下「前回調査」)を行ったが、新たに「日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2024年度)」(以下「本調査」)として、2回目の調査を実施した。
その背景と概要については第1回で述べたとおりだが、第2回となる本稿では、開示指標に焦点を当て、開示指標の数やカテゴリー別の傾向について解説する。
第1回 | 調査の背景・概要 |
第2回 | 指標・実績・目標の動向(前編)<本稿> |
第3回 | 指標・実績・目標の動向(後編) |
第4回 | 必要な人材像の特定・開示動向 |
第5回 | 開示対象範囲の考え方・人的資本投資の検討状況 |
2.調査の前提
本調査では、2024年8月1日時点でのTOPIX100企業(以下「調査対象企業」)99社(※1)について、2023年7月から2024年6月までに公表された有価証券報告書を対象としている。具体的には、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」欄に記載された人的資本に関する事項(※2)のうち、実績または目標について具体的な数値が記載された事項を「指標」と位置付け、集計を行った。
また、前回調査・本調査いずれの調査対象時点においてもTOPIX100企業に該当し、2回目の開示を行った企業は76社存在するが、この76社については、1回目と2回目の変化について調査した。
上記の前提から、本稿では、以下の順で解説する。
(1)指標数:人的資本に関する指標について、どの程度の個数を開示しているか
➣調査対象企業99社の動向
➣2回目の開示を行った企業76社における2カ年の変化
(2)指標カテゴリー:指標をカテゴリー別にみた場合、どのような傾向があるか
➣調査対象企業99社の動向
➣2回目の開示を行った企業は76社の動向
3.調査結果
(1)指標数:人的資本に関する指標について、どの程度の個数を開示しているか
有価証券報告書における人的資本の指標数について、調査対象企業99社の動向としては、平均値は11.39指標、中央値は8.00指標であり、10指標以内とする企業がおよそ65%を占めている。
次に、2回目の開示を行った企業76社における2カ年の変化としては、1回目の開示(前回調査)では平均値8指標、中央値およそ6指標であったのに対し、2回目の開示(本調査)では平均11指標、中央値8指標と、指標数は増加傾向にある。一方で、21指標以上を開示する企業数は減少している。これらの結果から、基本的には人的資本に関する開示内容を充実化させているものの、「開示指標が多ければ多いほど良い」とする企業はむしろ減少傾向で、開示する指標の精査が進んでいる様子がうかがえる(図表1)。

(2)指標カテゴリー:指標をカテゴリー別にみた場合、どのような傾向があるか
人的資本に関する指標について、2024年現在で公的な定義はないものの、2022年8月に内閣官房非財務情報可視化研究会が公表した「人的資本可視化指針


これらのカテゴリー別に傾向をみると、調査対象企業99社の動向としては、⑧ダイバーシティは309、②育成は152、④エンゲージメントは118で上位3位を占める(図表3)。

次に、2回目の開示を行った企業76社における2カ年の変化としては、1回目も2回目も同様、⑧ダイバーシティ、②育成、⑫身体的健康というカテゴリーの順に多く開示されている。また、1回目に比べて増加傾向が大きいカテゴリーには、①リーダーシップ、②育成、⑥維持(離職率など)が挙げられる(図表4)。

ダイバーシティに関する指標が群を抜いて多い背景には、このカテゴリーに該当する指標の代表格である「女性管理職割合」が、女性活躍推進法や、有価証券報告書の「従業員の状況」欄等での情報開示が要請されていることから、他の指標に先行して定量的な管理が進んでいる状況がうかがえる。
2回目の開示を行った企業76社は、こうした基礎的な指標に加え、リーダーシップや育成、維持(離職率)など、さまざまな指標で定量的な管理が進んだ様子が見受けられる。
一方で、⑨非差別、⑭労働慣行、⑮児童労働、⑱組合との関係に関する指標は、前回調査・本調査いずれも、1社も開示されていない状況にある。もちろん、これらの情報は必要に応じて、有価証券報告書のサステナビリティ全般の項目として、もしくは「事業等のリスク」等の欄において説明がなされる場合も多いため、企業としてまったく開示されていないものではない。少なくとも調査対象企業においては、人的資本については、ダイバーシティ、人材育成、エンゲージメント等の議論が中心であり、非差別、労働慣行、児童労働等については、人的資本とは切り離して検討していることがうかがえる。
4.おわりに
本稿では、指標の数ならびに指標カテゴリー別の傾向について、調査対象企業99社の結果、ならびに2回目の開示を行った企業76社の2カ年の変化について述べた。次回(第3回)は、これらの指標について、実績値や目標値が具体的に設定されている指標の割合について解説する。
(※1)TOPIX100企業のうち1社が2023年12月20日をもって上場廃止となったため、調査対象は99社となっている。
(※2)この「「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載された人的資本に関する事項」の該当範囲は日本総研独自の判断による。
以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク
連載:日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2024年度)
・人的資本編 第1回 調査の背景・概要
・人的資本編 第2回 指標・実績・目標の動向(前編)
・人的資本編 第3回 指標・実績・目標の動向(後編)
・人的資本編 第4回 必要な人材像の特定・開示動向
・人的資本編 第5回 開示対象範囲の考え方・人的資本投資の開示状況