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JRI Future Signal#12 ライフスタイル振興型の街づくり

(背景)ライフスタイルに注目する企業・自治体
 近年、企業や自治体の間で、人々のライフスタイルに注目した事業展開・ブランディングが盛んだ。例えば、昨年オープンした無印良品東京有明店では通常の生活雑貨や食品などに加えて、リノベーションやDIY、お片付けサポートから古着や食品の引き取りによるリサイクル事業までのサービスを提供している(参考:MUJIはコミュニティセンターへ)。同様の発想は、自治体のブランディングにも取り込まれつつある。例えば、千葉県流山市では転入超過率や合計特殊出生率が高いという特徴を生かして、新時代の勤怠連絡「#家族が恋しいのでお休みします これからの勤怠連絡」を発表している(参考:ソフトな特徴で自治体をブランディング)。流山市に住めば、家族にやさしいライフスタイルを送れるというPRを行うことで、これに共感した人の転入を促している。このように、自治体は新たに、その自治体ならではのライフスタイルをアピールすることに活路を見いだしつつある。

(変化の概要)産業振興からライフスタイル振興へ
 従来の自治体は、特色のある名所・名産品や伝統産業をPRする街づくりを行ってきた。例えば、温泉のある自治体では、温泉を起点とした飲食・宿泊等の一体型サービスを提供するなどした。もちろんそれによって成功を収めた自治体も多く存在するものの、限定的だと言わざるを得ない。多くの自治体が産業化できるほどの観光資源を有していないのも実情だ。これがいわゆる地場産業型の街づくりだ。
 しかし、これからの自治体の街づくりは、地場産業型からライフスタイル振興型へと変化するのではないか。
 ライフスタイル振興型の街づくりでは、そこに住む人々のライフスタイルを起点に、街の様々なインフラ/サービスが形成されていく。例えば、「海と生きる」ライフスタイルを志向する人々をイメージしよう。彼/彼女らが、サーフィンに代表される海のアクティビティを楽しむ姿は想像にたやすい。「衣」に注目すると、彼/彼女らは、仕事とプライベートで着る服を変えたがらない。アクティビティで着る服と仕事で着る服は、同一の方が着替えの手間は省けるからだ。そこで、Quicksilver社が開発したサーフィンが出来るスーツのように、仕事をしながら海にそのまま入れる服装を好むだろう。「食」に目を向ければ、海を大切にしたいという意識から、「海のエコラベル」(持続可能な漁業で獲られた水産物を認証する取り組み)が認定された飲食店あるいは食材を好むのではないか。加えて「住」環境の観点でいうと、彼/彼女らは、海の近くに住居を構えるだろう。テレワークで仕事するスタイルを当たり前のものとし、朝方のアクティビティ次第では11時頃から仕事を始めるだろう。
 もう一つ、「本と暮らす」ライフスタイルを好む人々と街を考えたい。本と暮らす人々はゆったりとしていて読書に集中出来る環境を好むはずだ。例えば、佐賀県武雄市図書館のような、山に囲まれた静かな環境の中での、カフェ等の設備が充実したおしゃれな空間が好まれるだろう。そして、図書館のような誰しもが本にアクセスできる空間を立地的な中心地として、周辺に落ち着いた住環境が求められる。ここでは読書好きが集まる団地のようなコミュニティが形成され、定期的に好きな本の話題で盛り上がる交流会が開催されているかもしれない。また、街中どこでも長時間くつろいで読書ができるように、軽食を運んでくる運搬ロボットがあちこちを動きまわっている。まさに、読書好きファーストな空間が、街全体で形成されている。
 こうした支援はハード面に留まらず、ソフト面にも波及する。その自治体に住むことによる「ベーシックインカム」、すなわちある種の特典を住民に提供する。例えば、「海と生きる」ライフスタイルでは、アメリカにおけるLittoral Rights(沿岸所有者特権)のように、沿岸にすむ人々に海の利用権を付与するといった可能性もある(もちろん現行の漁業法と矛盾する可能性も高い)。
 こうしたソフト/ハード両面の支援が自治体の主な役割だ。こうした活動を通じてライフスタイル振興を推進することになる。


(変化後の社会)ライフスタイル区画によって整理される日本地図
 旧来の行政区画は、政治的・社会的要因によって定義されてきた。例えば、平成の大合併では、少子高齢化や行政の効率化を目的に、全国の市区町村の半数近くが吸収合併され、行政区画の再編が進んだ。こうした再編は経済合理性に基づいており、少子高齢化によって経済規模が縮小することが見込まれているため、地方を中心としたコンパクトシティ化は進んでいく。
 ここでライフスタイル振興を掲げた自治体は、ライフスタイル区画という新たな行政区画の概念を用い始めるだろう。理由はシンプルで、隣接する市町村同士が同じライフスタイルを掲げて、コミュニティ規模を極大化出来れば、より多くの人々を誘致することが可能となるからだ。隣接する市町村同士なら、地理的・文化的環境が似通っているが故に、近接したライフスタイル振興を掲げることが可能となる。例えば東京湾を取り囲む自治体は、東京都品川区/江東区、千葉県木更津市/館山市、神奈川県横須賀市など広域にわたる。これら自治体が面する海(東京湾)の特徴は様々ではあるものの、いずれの自治体も海(東京湾)と何らかの形でかかわりのある生活を送ることは可能ではないか。
 また、ライフスタイル区画内の複数の自治体は、広域で連携しあい、そのライフスタイルを支援する。例えば、同じライフスタイル区画内同士の移動にはお金がかからない(交通費、引っ越し代を負担するなど)、ライフスタイル区画内住民同士のCtoC取引プラットフォームが整備されるなど、そのコミュニティ内の生活を支援する試みが自治体主導で展開されていく。同じライフスタイルでつながった者同士では、お互いの好きなもの/嫌いなものを分かり合った人々の交流を生み出しやすいので、これまでのような資本の適正化を超えた、幅広な人材交流やイノベーションを創発するような広域連携の可能性が高まると言えるだろう。


背景となる未来の兆し
MUJIはコミュニティセンターへ
昨年12月にオープンした無印良品 東京有明店は「感じ良いくらし」を実現するために、リノベーションやDIY、お片付けサポートから古着や食品の引き取りによるリサイクル事業までのサービスを、江東区と連携して実現している。これからの街づくりには、ライフスタイルや価値観そのものを支援するコミュニティセンターが欠かせないかもしれない。
[出所]https://forbesjapan.com/articles/detail/38818/1/1/1?fbclid=IwAR1aM-SBDKi1cEMQrA_vTCs1CKAlBLNmsUQgZ3AQdL8_m6dRWDAE4iUiih0


ライフスタイルを売るリアル店舗
IKEAが原宿に続き渋谷に出店。以前からの流れではあるが、家電量販店や家具店は、モノ売りからライフスタイル販売に転換している。その中でIKEAは都心の単身世帯の若者向けへの販売を強化しており、家具のみならず飲食物や小物なども展示し、総合的なライフスタイル提案を行っている。店舗はモノ売りの役割を終えつつある。
[出所]https://news.nifty.com/article/item/neta/12134-877513/?fbclid=IwAR0YfY074E5wmhzC06kWs6K8tqtoyTiuJj-nzdc6MV1TSQ1CR_sj14RDGH0


ソフトな特徴で自治体をブランディング
㈱カヤックは「#家族が恋しいのでお休みします これからの勤怠連絡」を、千葉県流山市で企画・制作。転入超過率と合計特殊出生率が高い流山市の特徴に合わせ、「家族の時間を大切にするまち」というイメージを広めたい狙い。多くの自治体でハード面の撤退戦が行われる中、まちの独自性はこうしたソフトな特徴を発信していくしかないのかもしれない。
[出所]https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000352.000014685.html?fbclid=IwAR0YfY074E5wmhzC06kWs6K8tqtoyTiuJj-nzdc6MV1TSQ1CR_sj14RDGH0



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