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JRI Future Signal#6 歴史を体感できる教育の登場


(背景)過去の出来事を現代のメディア(SNS等)に移植する
この夏、話題になったSNS上の取り組みがある。NHK広島放送局による「ひろしまタイムライン」だ(参考:戦時下の日記をツイッターで追体験)。

1945年の原爆投下前後に、「もしツイッターが存在していたら、当時の人はどんなことをつぶやいたのか?」という反実仮想をもとに、当時の3人の市民の日記を手掛かりにしてつぶやくこの企画は、「日記」という当時のツールを「ツイッター」という現代のツールに置き換え、また、当時の時間の流れを現代の時間の中で再現したことにより、臨場感を持って当時の生活・体験を体感できる仕掛けとなっており、大きな反響を呼んだ(※ただし、後述するように、一部投稿が批判を受けることにもつながった)。


その他の動向として、ビジュアル面でもよりリアリティを追求する技術も、数多く登場してきている。例えば、スマホのカメラを城跡にかざすことで、当時の様子を見ることができるARアプリ等、XR技術を活用した歴史展示なども見られるようになってきた。他にも、白黒で撮影された昔の写真・動画を、AI技術を用いてカラーで再現する技術なども使われるようになってきている。


(変化の内容)歴史を体感できる教育
現在の歴史教育の手段は、文章・絵によって解説する教科書、あるいは、陳列された過去の物品を観察する博物館・資料館が一般的だ。


しかし、SNS等のリアルタイム性の高いツールを用いたり、ビジュアル面でVR等を活用したりするようになれば、歴史に関する断面的な「情報の取得」にとどまらず、時間および空間的な広がりのある「歴史を体感できる」教育が実現するだろう。


過去を体感できるような教育が可能になれば、教科書に登場する歴史上の人物だけではなく、当時の一般の人々の目線からその歴史を体験できるようになると考えられる。当時の生活の状況や人々の考え方を学ぶことで、表層的な歴史の事象だけではなく、その背景にあった社会状況や人々の心理状況を学べるのではないか。


このような教育によって、断片的な知識を超えた「経験」として、自らの人生に活かしていけるような学びが期待できる。


また、同じ手法を用いることで、戦争や独立などの社会としての記憶の継承方法も変化するのではないか。今までは、何らかの記念日を設定し、その日に式典を行うことで記憶の伝承を図ってきた。しかし、これでは「式典を行う」ことが目的化し、実際の出来事についての記憶は風化しかねない。より実際の出来事を「追体験」することが可能になれば、過去の出来事をその時代に合わせた形で再現し、新たな世代に対して教訓を伝承していけるのではないだろうか。


(変化後の社会)「臨場感を持った他者体験」の応用可能性・リアルすぎることによるリスク
この「歴史を体感できる教育」は、「臨場感を持った他者体験」の手法として一般化することもできるかもしれない。そのように考えれば、過去に関する教育以外にも応用できる可能性がある。まず思いつくのはゲームだが、ここではゲーム以外の応用を考えてみる。


例えば、イジメた生徒にイジメられた側の体験をさせたり、加害者側に被害者側の体験をさせたりすることで、学校教育における人格形成や、犯罪者に対する罰則・更生の手法としても用いることができるかもしれない。


また、マイノリティや異文化の立場の体験や、発展途上国の生活の体験などに応用することによって、多様性への理解を深めたり、社会課題への取り組みの促進につなげたりすることもできるかもしれない。


一方で、このような「歴史を体感できる教育」は、リアルすぎることによるリスクも考えられる。現在の人がリアルに感じることができてはいるが、それはあくまでも編集する過程を経て形にされたもので、製作者の「解釈・演出」が入り込んでいるものだ。しかし、あまりにリアルなために、その「解釈・演出が入っているということ」を感じづらくなるのではないか。歴史教育は政治的な要素も強いため、過去の再現を利用したある種のプロバガンダが行われるといった事態につながる可能性もある。


実際に、今回のNHK広島放送局の取り組みでは、一部の投稿が人種差別的ではないかとして批判を呼び、NHK側が謝罪した。われわれは、この新たな教育・学習の形に対して、注意しながら向き合っていく必要があるのではないだろうか。


背景となる未来の兆し
戦時下の日記をツイッターで追体験
終戦から75年の今年、NHK広島放送局が、原爆投下・終戦前後に合わせ、当時の人々の日記をツイッターで投稿し、戦時下を追体験できる試みを行っている。歴史を過去として博物館や歴史資料館に展示するのではなく、「ツイッター」という共時性に価値が置かれる空間に展開することで、過去の歴史をまるで現在のように感じられるようになっている。
[出所]https://www.nhk.or.jp/hiroshima/hibaku75/timeline/index.html



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