ビューポイント No.2026-017 死亡数の上振れから読み解く多死社会の構造的課題 2026年08月05日 藤波匠2022~25 年のわが国の死亡数実績は、2023 年公表の将来人口推計の中位推計を5.3%上回り、高位推計に近い水準となった。この上振れが一時的なものか、長期的・構造的な変化なのかを見極める必要がある。 新型コロナ(以下、コロナ)禍前までは男女とも死亡率低下・長寿化の傾向が続いていたが、コロナ禍後は70歳以上の男性で前世代より死亡率が高まっている。一方、女性では85歳以上で一部同様の動きがみられるものの、男性ほど顕著ではなく、平均寿命の男女差だけでは説明できない。 コロナウイルスの感染拡大を契機に、直接的な感染死だけでなく、医療提供体制のひっ迫、高齢者の体力低下、生活・社会環境の変化、終末期医療への考え方の変化などが、複合的に死亡数増加に影響した可能性がある。経済的見地からは、とりわけ単身高齢者や低所得高齢者の増加など、生活・社会環境の変化の影響が注目され、検証が待たれる。 2022~25年の死亡数は、コロナ禍前と比べて冬季と夏季に増加している。この点から、近年みられる夏季の異常な高温による高齢者の体力低下や、コロナが冬だけでなく夏にも流行したことが影響した可能性がある。そのほか、感染拡大期には、救急搬送の長時間化や医療機関の受け入れ調整の遅れも、死亡数を押し上げた一因であった可能性がある。 一方で近年、過度な延命治療を避け、終末期における本人の尊厳や生活の質を重視する考え方が広がっている。在宅医療を選ぶケースも増えており、これらが終末期患者の死亡時期に一定の影響を与えている可能性がある。もっとも、延命治療は多くの場合、数日~数カ月程度と決して長いものではなく、死亡数の増加に大きく影響を及ぼす要因になるとは考えにくい。 死亡数増加を単なるコロナ禍の一時的影響として見過ごすことなく、高齢者の健康状態、医療提供体制、社会的孤立、終末期医療の変化などを含めて背景を探り、一過性ではない問題は「多死社会」の構造的課題と捉え、継続的なフォローアップと政策対応を行う必要がある。 加えて、2027 年公表予定の新たな将来人口推計に死亡数の上振れを経常的なものとして織り込むのであれば、医療費、医療・介護需要、地域ごとの提供体制等についても、従来の前提を再点検し、予期される状況に応じた備えを政策課題として取り組んでいく必要がある。 (全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)