ビューポイント No.2026-012 無痛分娩の普及度合いにみる出産インフラの地域格差 ~分娩施設経営の効率化と産科麻酔医の育成を急げ~ 2026年06月25日 藤波匠近年、硬膜外鎮痛分娩など、無痛分娩により出産する妊婦が増えている。日本産婦人科医会のまとめた 2025 年のデータによれば、無痛分娩比率は、東京都が 35.8%と突出して高く、次いで熊本県、神奈川県、千葉県が 25%を超えた。一方で、岩手県と高知県では実績がなく、そのほかにも 11 の県で 5%を下回っており、地域格差が大きく、今後も格差は拡大する可能性が高い。 分娩施設において無痛分娩の実施を担保していくためには、全国的に不足している産科麻酔に知見のある麻酔医を増やしていくことが望ましい。特に出生数の少ない地方の分娩施設では、経営上の問題から、無痛分娩の実施体制を築くことが難しい場合も少なくないとみられる。 産科麻酔医育成の観点からは、国・都道府県が、各大学の医学部に、産科麻酔の講座を立ち上げるよう促していくことが必要である。ただ、そこから専門医が育つまでには一定の時間を要することから、産科医が硬膜外麻酔などの専門的知見を得らえるような研修プログラムの提供体制を整備していくことも不可欠である。 分娩施設の経営の視点からは、熊本県の事例が参考になる。年間出生数が 1 万人程度と決して多くはない熊本県は、無痛分娩比率が全国2位と高く、全国的に見て先進地域となっている。熊本県では、分娩施設の集約等により、分娩施設当たり、あるいは医師一人当たりの出生数が、神奈川県や千葉県と同等の高い水準にあり、それが無痛分娩の導入余力を生んでいるとみられる。 少子化が進むなか、地方においても無痛分娩のような新しい施術の導入を進めていくには、分娩施設の経営健全化に向けた施設の集約が不可欠である。一方で、「身近な地域で出産できる環境の維持」も重視されており、適正配置の視点も欠かすことができない。そのため、推進するには行政の介入が不可欠と考えられる。 地方自治体は、少子化対策として、現金給付や種々の無償化政策の多寡を競うのではなく、「身近な地域で安心して出産できる環境の構築」に資する出産インフラの整備にこそ、目配りしていくことが必要であろう。分娩施設自らの経営強靭化と並行して、自治体の介在による施設の地理的な適正配置や経営支援が望まれる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)