ビューポイント No.2025-037
「海洋産業コンプレックス」を危機管理投資と成長投資の一体推進のエンジンに
2026年03月10日 瀧口信一郎
今般の衆議院選挙で与党が大勝したことを受けて、石川等[2026]では「強く豊かな経済」の実現に向けた包括的な政策提言を行った。ここでは危機管理投資と成長投資を一体推進する「海洋産業コンプレックス」プロジェクトを立ち上げることを具体的に提案したい。
1.「海洋産業コンプレックス」とは
「海洋産業コンプレックス」とは、日本が持つ最大のポテンシャルである海洋及び海洋資源を活用し、経済安全保障を高め、産業競争力を高めるための「新産業コンソーシアム」の形成である。具体的には、①日本が海洋・地震研究を通じて培ってきた「海洋探査」の技術や実装を強化、②日本が強みを持つ建築・造船技術を生かして、海盆のマンガン団塊や海山のコバルトリッチクラスト、海底熱水鉱床の金属など海洋資源を効率的に回収したり、エネルギー施設を建設する「洋上プラットフォーム」の構築、③洋上風力・波力・潮力発電により離島・沿岸・沖合などの海洋産業コンプレックスにエネルギーを供給する「海洋エネルギーインフラ」の整備、④海洋資源を製品化する「海洋リソース転換産業」の組成を行い、併せて⑤広い海洋を対象にするため、離島・沿岸・沖合を結ぶ海上交通、海中探査、資源の揚収の海中潜航などで「海洋自動走行」システムを形成し、一体的に産業システムとして整備するものである。
また、海底空間情報を提供するために、宇宙からの位置情報と海中の音波情報を連携させる点、宇宙太陽光の電力を海上で受電するという点で、宇宙産業との連携も不可欠である。
2.「海洋産業コンプレックス」の目指すもの
(1)関連産業の統合・集積で海洋産業を成長産業の柱にする
「海洋産業コンプレックス」というプロジェクトを組成することで、各々検討が進む17の戦略分野の中で、「海洋」、「造船」、「港湾ロジスティックス」、「マテリアル(重要鉱物・部素材)」、「フュージョンエネルギー(核融合)」「航空・宇宙」の6分野の取組みを有機的に連携し、コストやリスクが大きく民間が参入しにくい危機管理投資の強化と、海洋産業の発展に向けた新たな成長投資を連携し、新たな成長産業を生み出す。
(2)危機管理投資を成長につなげる次世代の技術と産業の集積の場を構築する
有人深海潜水艇や無人潜水艇技術で中国が急速に力を伸ばす中、海洋データ収集能力を高めて海洋空間情報を整備することで、次世代産業用素材(レアメタル・レアアースなど)の採掘・製品化や海中自動走行等を進めるほか、海中CO2分離回収利用、海藻養殖、藻場造成などブルーカーボン技術等よる海洋リソース転換産業の促進、さらには、技術進化で超低コストの可能性を秘める次世代海洋エネルギー(核融合、宇宙太陽光、浮体式洋上風力、波力・潮力)への先行投資を行うことで、次世代の技術と産業の集積の場を構築する。
(3)地政学リスクに備えて小資源国家日本から海洋国家への転換を図る
世界第6位の排他的経済水域、日本が強みを持つ建築・造船技術、海洋資源・エネルギーを活用した産業複合体を構築する。
海洋・地震研究の実績を生かした日本の生活・経済基盤の強靭化、レアアースや次世代海洋エネルギーによる資源・エネルギー基盤の強化で地政学リスクの高まりに対応する。
3.政策パッケージの提案
(1)国家戦略特別区域法を活用した海洋コンプレックス拠点の形成
国家戦略特別区域法(国家戦略特区制度)を活用し、全国で数か所の拠点整備と産業化の壁となる規制改革を、安心確保前提で同時に推進する。
(参考)関連する規制:公有水面埋立法、港湾法、海岸法、鉱業法、海上交通安全法、海洋汚染防止法
(2)海洋産業ファンドの設立
官民による多年度投資の促進のための海洋産業ファンドを形成し、国家戦略特区制度の指定区域・認定事業に対して、優先的に資金支援を行う。
(3)日米共同開発、日米共同利用
レアアース等海洋資源の開発は、今後、日米にとって、有望な協力事業となりえるほか、世界一の排他的経済水域を有する米国にとっても、将来にわたるメリットは大きいと考えられる。したがって、「日米共同開発」など他国との共同開発や海外輸出も視野に入れる。
(4)地方創生と産業政策を一体的に推進
「地域未来戦略」などの地域戦略にも落とし込み、海洋産業拠点への企業集積、スタートアップ支援、デュアルユース促進、地域中小企業の内発的な成長を実現
(5)科学技術・イノベーション政策とのタイ・アップによるR&D促進
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、 ムーンショット(破壊的イノベーションの創出)型研究開発制度、経済安全保障重要技術育成プログラム(Kプログラム)を活用し、関連する研究開発を募り、産官学一体で推進
(参考)関連する技術例としては、造船、深海探査、精錬、CO2分離回収利用、バイオ素材製造技術等
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