ビューポイント No.2025-034
【自律協生社会シリーズ⑧~衆院選後の高市政権に望む】
高市政権に求められるインフレ時代の財政・金融政策の役割転換
2026年02月17日 西岡慎一
今般の衆議院選挙で与党が大勝したことを受けて、石川等[2026]では「強く豊かな経済」の実現に向け、包括的な政策提言を行った。以下では、そのなかでも財政・金融政策に焦点を当て、新政権が直面する課題と求められる政策の方向性を論じる。
1.国内外で進む経済構造の着実な変化
国際秩序が大きく揺らぐなかで、世界経済の構造も確実に変化している。モノ、ヒト、カネの国際移動の経路が変化しつつあり、既存の供給網の効率性や移民労働の流動性が低下している。安全保障の面でも、米国が西半球重視へ軸足を移すなかで地政学的な緊張が高まっており、各国は防衛力の強化と経済的自立の確保を迫られている。こうした環境変化は、供給制約を通じて物価上昇圧力を強めるとともに、拡大する財政負担を意識した金利上昇が生じやすい局面へ移行していることを意味する。
日本でも、労働力の不足や食料・再生エネルギーなどの供給力の弱さがコスト増を招いている。これに産業競争力の低下が重なることで、貿易赤字や円安が誘発され、物価上昇圧力が強まっている。国債市場では日銀の買い入れ縮小を背景に、価格形成が市場主導へ回帰し、需給は従来よりも変動しやくなっている。このような情勢のなかで、政府の取り組みが財政規律を損なうと市場が判断する場合、通貨下落や金利上昇を招き、物価高や景気悪化につながる恐れがある。
2.インフレ下における適切な財政・金融政策
(全体感)
政府と日銀はインフレ下にふさわしい財政・金融政策へと運営を切り替える必要がある。そのためには、「共同声明」をアップデートし、経済情勢に関する認識と政策目標を共有したうえで、互いの役割分担を改めて明確にすることが望まれる。政策課題は「デフレ脱却」から「インフレの構造的な抑制」に転換し、物価高を抑えながら、経済成長と財政再建を両立することを政策運営の中軸に据えるべきである。こうした協調は、市場や国民の信認を高め、経済・財政の目標達成を力強く後押しすると考えられる。
(金融政策)
新政権は中央銀行の独立性を尊重するとともに、日銀は物価安定という本来の使命を改めて徹底することが求められる。そのうえで、日銀には市場との丁寧な対話を重ねつつ、フォワードルッキングな姿勢を一段と強め、金融政策の正常化を遅滞なく進めていくことが期待される。
とりわけ現在のように、長期金利や為替相場が不安定化しやすい局面では、日銀は金融市場の機能や投資家の行動などを十分に見極めたうえで、政策金利の先行きに関する基本的な見方や国債買い入れ方針の枠組みをこれまで以上に明確に示すことが重要となる。その際、国債買い入れは財政資金の調達手段ではなく、市場の安定確保に必要な補完措置に限るとの原則を明確にし、財政運営が金融政策の判断を拘束しない枠組みを整えるべきである。
(財政政策)
新政権は、財政規律の向上に向けた取り組みを強化することで、財政運営の「責任」を明確にし、市場からの信認を確保すべきである。その象徴的な具体策として、政府と与党が連携しながら、独立財政機関を設置する案を提示することが挙げられる。これにより、歳出と歳入の中長期的な見通しを客観的に示し、財政の持続可能性に関する措置を中立的な立場から提言する体制を整えるべきである。
政策の軸足を需要刺激から供給力強化へと移す必要がある。労働力、食料・エネルギー、先端技術などを巡る供給制約の解消に向けて財政資源を集中し、重点 17 分野における成長投資や危機管理投資を優先的に実行する枠組みをつくることが求められる。そのためには、重点分野の官民投資を多年度にわたって管理できるよう予算制度改革を進めるとともに、危機管理投資を推進するためにも多くの規制が存在する官製市場の規制改革を行う必要がある。
消費税減税は、財政規律を損ない、将来世代への負担転嫁にもつながることから、時限措置としての扱いを徹底し、出口をあらかじめ明確にする必要がある。そのうえで、今後創設される国民会議において、社会保障制度の持続可能性を強化する措置と一体で、財源の確保に向けた基本方針と具体策を議論し結論を得るべきである。
参考文献
石川智久・西岡慎一・蜂屋勝弘・瀧口信一郎・山崎新太・佐藤悠太[2026]、「<自律協
生社会シリーズ⑦~衆院選後の高市政権に望む>強く豊かな経済に向けて:外交、経済
財政運営、構造改革の観点から」、日本総合研究所、Viewpoint、No.2025-033.
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