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ビューポイント No.2025-010

国際基軸通貨について考える~米ドルに代わるものはあるのか~

2025年06月02日 石川智久


トランプ政権は関税政策で世界に衝撃を与えているが、その目的の 1 つは製造業を自国内に戻そうとするものである。政策幹部の中には、その観点からドル安政策を志向している者も多い。一方でトランプ政権はドル基軸通貨体制を手放そうとはしていない。しかしながら、市場関係者や経済学者の中には、米国第一主義とそれに起因するドル安が強まれば、ドルの地位が揺らぐ可能性を指摘する声がある。

国際基軸通貨のメリットとしては、世界中の国々の円滑な貿易と国際金融の安定をもたらすことが指摘可能。また、基軸通貨の発行国は、その地位を利用して、①経常収支赤字ファイナンスの容易化、②為替リスクの軽減、③通貨発行益を利用した海外投資等のメリットを享受しうる。

一方、注意すべき点として、「トリフィンの流動性ジレンマ」が指摘できる。これは、基軸通貨の世界への流動性供給機能と信認維持が両立しないことを意味する。つまり、各国は基軸通貨を得たいために、基軸通貨国向けに輸出を拡大し、その結果、基軸通貨国は貿易・経常収支赤字が拡大し、通貨への信認低下圧力が高まる。

歴史を振り返ると、ペソ・銀本位制、ポンド・金本位制、大恐慌前後の混乱期、ドル・金本位制(ブレトンウッズ体制)、現在の変動相場制へと変化しており、基軸通貨はその時代ごとの情勢によって変化するものといえる。

現在のドルの立ち位置をみると、各国の外貨準備や貿易決済に活用される通貨のなかでシェアが半分を超えるほか、株式市場の時価総額や債券市場の発行残高の4~5割が米国であるなど、非常に大きな存在感がある。もっとも、外貨準備におけるドルの割合は足元で低下傾向にあるなど、変化の兆しもある。

ここで、ドルに代わる通貨があるのかを考えると、代替候補はすべて問題を抱えている。①各国通貨をみると、人民元は中国の保護主義、経済的威圧姿勢、金融インフラの未整備等が問題で、ユーロや円は高度な金融システム等があるものの、経済規模的に力不足、②金は近年相場が上昇するなど関心が高まっているが、過去の歴史をみるとブレトンウッズ体制崩壊にみられるように持続性がない、③暗号通貨への期待もあるものの、中央銀行のような元締めが存在しないという制度的問題のほか、技術的にもまだ未成熟であるなど、解決すべき課題あり。以上より、米ドルの基軸通貨体制は、少なくとも短期的には崩れない公算大と言える。

一方で、トランプ政権は、輸出拡大に資するドル安を志向しつつ、関税をはじめとする様々な負担を諸外国に押し付けることで、基軸通貨国としての地位を維持したい考えとみられ、各国の反発は強まる見込み。また、米国は安全保障の傘も縮小しようとしており、こうした姿勢の米国から距離を置く国も増えていく可能性がある。そうした傾向が続けば、基軸通貨としてのドルの地位も時間の経過とともに揺らぐリスクが高まることが避けられない。実際、海外のシンクタンク等では「米国なしの秩序」が議論され始めている。

こうした不安定な状況の出口が見えないようであれば、セカンドベストとして軟着陸策が必要となる。考えられる方法としては、ドルの基軸通貨としての地位を維持しつつも中長期的にはウエイトを低下させる一方、ユーロや円も準備通貨としての比重を高め、複数の基軸通貨が併存する「緩やかな多極化」を進めていくというものである。その成否にかかわらず、日本円については、地理的な面ではアジア、経済連携協定の面では TPP 加盟国間において存在感を高めていく取り組みが重要となろう。


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