RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年2月No.48
国際金融センターとしての地位向上に取り組む香港、シンガポール
2000年02月01日 さくら総合研究所 副主任研究員 孟芳、さくら総合研究所 副主任研究員 福井綾子
要約
香港とシンガポールは、中継貿易拠点として、中国とアセアン諸国をそれぞれ後背地に持ち、国際金融センターとしての地位を築いてきた。しかし、1997年のアジア通貨危機(以下、通貨危機)の発生によって、金融機能の低下を余儀なくされたため、金融部門の競争力強化が急務となり、銀行業務の規制緩和や資本市場の統合・整備などの金融改革を進めている。
香港では、70年代に、為替管理制度の廃止など一連の金融改革が実施された結果、東南アジアの華僑資金を中心に、外国からの資金が大量に流入し、金融資産は飛躍的に拡大した。さらに、80年代には、アジア諸国の急速な経済成長に加え、中国経済の本格的な改革・開放で、諸外国からの対中投資や対中貿易が拡大し、資金需要が増加したことから、金融規制が少ない香港は国際的な資金調達・運用の場として大きな役割を果たし、国際金融センターとして発展した。しかし、通貨危機発生後、特に割高となった人件費や不動産価格などのビジネス・コストをどのように是正していくか、また香港ドルの米ドルとのペッグ制を維持していくべきかどうかなどが大きな課題となったほか、中国経済の行方など香港の将来を左右する不安材料も抱えている。しかし、香港金融管理局は、透明性の高い金融市場を目指して、金利の自由化、外国銀行の出店規制の緩和、株式市場や債券市場の再編・育成、金融インフラ整備など、国際金融センターとしての機能を向上させるために、積極的な金融改革を行っている。
シンガポールでは、金融当局の監督機能が緩和されつつあるほか、特に銀行部門の自由化、地場銀行の再編、株式・債券市場の整備・育成が急ピッチで進められている。しかし、自国通貨建ての金融商品が少なく、株式市場規模(時価総額ベース)も小さい上に、金融機関数も少ない。今後は、より付加価値の高い金融サービスの提供を目指すため、自国通貨の国際化を含め、規制をさらに緩和していくことが求められる。
香港、シンガポール双方では、金融改革を進める一方で、東京やシドニー市場も含めた債券・先物取引など、資本市場における地域間の協力を模索する動きもみられつつある。今後は、金融のグローバル化が加速されるなか、双方がより一層の金融規制緩和を行っていく過程で、競争よりも、むしろ提携や協力などを通じて、より協調的な関係を樹立していくことが求められる。アジア地域全体で金融ネットワークが拡大し、国際的な資金調達・運用の場としての役割が一層高まることが期待される。