RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.26,No.99 習近平政権が掲げる「製造強国」の裏側 ― 広がる「内巻式」競争の影響をどう読むか ― 2026年05月11日 三浦有史中国は「製造大国」への階段を駆け上がり、製造業の付加価値額と輸出額はともに世界最大となった。習近平政権は、規模が大きい「製造大国」だけでは不十分として、「製造強国」を目指す。中国の製造業は、2035年に目標とする世界の製造強国の中位レベルに到達すると見込まれる。「中国製造2025」で推進した技術力の向上に対する内外の評価は高い。2025年10月の四中全会で採決された「第15次五カ年計画」(2026 ~2030年)の建議では、「新質生産力」、「自主可控水平」、「自立自強」を「製造強国」を構成する3大要素とした。「製造強国」は、新興産業の育成・強化を巡る地方政府間競争によって実現した。「製造強国」に対する取り組みは、地方政府が政府引導基金によって新興産業の育成・強化を進めていくとみられること、また、不動産およびインフラ投資の減退を補うため、製造業に対する投資を増やすとみられることから、一段と加速することとなろう。「製造強国」は、「内巻式」競争と称される採算を度外視した値下げ競争を引き起こすとともに、過剰生産能力の問題を深刻化させている。「内巻式」競争が激しい産業では、下請けの経営が圧迫されるなど、産業全体に疲弊感が広がっている。製造業全体でみても、収益悪化が顕著であり、私営製造業では平均賃金が減少に転じた。習近平政権にとって、「製造強国」は中国経済の先行きを照らす光である。しかし、それは、①利益を生まない資産が増える結果、製造業の総資産利益率(ROA)が著しく低下する、②製造業の賃金をも低下させる可能性が高く、消費主導経済への移行を遠ざける、③製造業の比率を維持しようとすれば、資源配分のゆがみが増幅される、という矛盾を内包した政策といえる。「製造強国」と「内巻式」競争は同じコインの裏表の関係にある。国際通貨基金(IMF)は、中国に不当な産業政策と非効率な投資の縮小を求めているが、習近平政権は「製造強国」を加速させるため、それに伴い「内巻式」競争がさらに深刻化するとみられる。「内巻式」競争を止めることができるかは、「製造強国」の行方、そして、中国経済の持続可能性を左右する重要なポイントとなる。しかし、①「反内巻」は投資の減退を招来しかねないこと、②地方政府は中央政府の曖昧な態度を見透かし、引き続き新興産業の育成・強化に向けた政策を打ち出すとみられること、③「底辺の競争」につながらない適正な価格を政府が決められるわけではないことから、その可能性は低いといえそうである。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)