RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.26,No.98 中国上場企業の労働分配率の上昇要因 2026年01月23日 関辰一中国の2010年代以降の労働分配率の上昇要因として、農村部の余剰労働力の枯渇による都市部の工業部門の賃金上昇が、一般的な説明として存在する。しかし、中国経済は近年、新興産業の急成長や不動産不況の長期化など、産業構造にも影響を与える大きな変化を経験してきた。これらの変化の影響は、マクロ統計だけからでは把握しにくく、産業別の動向を踏まえた分析が不可欠である。そこで、中国の上場企業について、産業別・企業別のデータを用いて、労働分配率の変化をもたらした要因を、製造業や建設業といった産業内の分配率の変化(分配率要因)と産業構造の変化(産業シェア要因)に分けて検討した。その結果、一般的に先進国の労働分配率の変化は前者の要因が中心であるのに対し、中国の上場企業は後者の要因が大きいことが判明した。具体的には、産業ビジョン「中国製造2025」の重点分野を多く含む情報通信機器・電子部品・デバイス製造業、はん用・生産用・業務用製造業、情報通信業などは労働分配率が高く、高成長とともに産業シェアが拡大した。一方で、労働分配率の低い不動産業などの成長は停滞し、産業シェアが縮小した。さらに業種を細分化すると、多様な政府支援策を受けてきた「中国製造2025」の重点分野の労働分配率は高いことが確認できる。その理由として、①R&D重視による高度人材の集積、②れい明期産業の低収益構造、③政府支援策による雇用促進、の三つが挙げられる。R&D集約度と労働分配率には明確な正の相関があり、加速償却措置などの産業政策が雇用の促進を通じて分配率を押し上げてきたと推測される。重点分野の産業シェア要因で、2013年から2023年における上場企業の労働分配率の上昇要因の約3割を説明することができる。この結果は、中国政府が明確な産業育成方針を打ち出し、それが産業構造転換を通じて上場企業の労働分配率を改善させたことを示唆する。他方、成長産業では人手不足が続き、当該分野の就業者は賃金上昇を享受できるものの、停滞産業では過剰雇用の調整が長期化し、雇用・所得環境が厳しいまま推移するリスクに留意が必要である。中国政府が停滞産業の改革で十分な成果を上げられなければ、成長産業と停滞産業の二極化が一段と進む恐れがある。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)