RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.26,No.98 戦略的開放が着実に進む中国金融市場 ― 現状と通貨覇権争いへの含意 ― 2026年01月23日 野木森稔世界から中国への対内投資の増加は続いており、とくに証券投資の伸びが顕著である。その背景には、中国政府が進めてきた戦略的な資本市場の開放と、足元でみられる米中対立の緊張緩和という二つの要因がある。後者は短期的な要因であるのに対し、前者はより中長期的な構造要因である。具体的には、中国本土の株式や債券が国際的な運用ベンチマーク指数に組み入れられたことが挙げられる。こうした指数採用は、中国の資本市場改革が評価されたというよりも、中国政府が香港経由の金融仲介機能の強化などを通じて積極的に働きかけてきた「戦略的」政策の成果と考えられる。こうした資本移動の自由化が進めば、人民元を用いた国際取引の量が増えるのは自然な流れである。これまで中国政府は、人民元相場の過度な変動が引き起こす金融不安を強く警戒してきた。しかし近年は、人民元の国際化を積極的に進める姿勢も示し、為替取引量の増加に伴う一定の為替変動リスクについても、受け入れる方向に動いていると考えられる。国際金融の分析では、「資本移動の自由化」「為替の安定」「独立した金融政策」の三つを同時には達成できないとする「国際金融のトリレンマ」の命題がある。こうした制約の中で、中国当局は金融政策の独立性を高める方針も示しており、資本移動の自由化と金融政策の独立を優先し、その代わりに為替レートの安定をある程度犠牲にする方向へ政策の重点を移しつつある。これは、日本やアメリカが採用してきた国際金融政策と同じ組み合わせに近づくものであり、中国もそうした体制を志向し始めていると解釈できる。もっとも、現在の中国の資本開放は、あくまでも「戦略的」な開放である。そうした意味では、限定的な自由化でしかなく、この中で人民元の国際化が進んだとしても、米ドルと覇権を争うような水準には本来であれば達しなかったと考えられる。しかし、第2次トランプ政権の成立によってもたらされたアメリカ政治の不安定化は、こうした限定的な自由化であっても、人民元の国際的な利用を拡大させる追い風となっている可能性がある。2025年時点において、米ドルは依然として世界の外国為替取引の約半分を占め、その支配的地位は容易に揺るがない。しかし、今のアメリカ政府の政策が米ドルの信認を低下させ、それが各国の“脱ドル” 志向を後押しすることになれば、そうとは言えなくなる。中国は人民元を利用した経済圏を着実に広げており、さらに、デジタル通貨の分野でも主導権確保を目指して動いている。各国で米ドル以外の通貨選択が徐々に意識されるなか、中国はこれを好機と捉え、人民元国際化のさらなる加速を狙っていると言える。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)