RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.25,No.96 ASEAN 決済最前線 ―Fast Payment System の導入とクロスボーダー相互接続― 2025年05月13日 岩崎薫里ASEAN地域では2010年代半ば以降、小口のリテール送金を対象とする即時送金システム、「Fast Payment System」(FPS)が政府主導で相次いで導入された。導入に際してQRコード決済機能を取り入れ、送金だけでなく店舗での支払いにも利用できるようにし、併せて国内のQRコード決済規格を統一した。これらを実施した目的として各国に共通するのは、消費者の利便性向上や企業の業務効率の向上、ひいては国全体の経済的豊かさの実現である。ASEAN各国が導入したFPSの利用状況をみると、最も活発に利用されているタイのPromptPayから、現時点ではいまだ低調なフィリピンのInstaPayまで、国による差が大きい。これは、①FPSの導入時期、②FPSの導入以前におけるリテール決済サービスの普及度合い、③銀行の参加状況、④政府による活用状況、の違いによる。FPS導入後の次のステップとしてASEAN各国政府が進め始めているのが、国境を越えたFPS同士の接続である。それによって便利で安価な海外送金、および海外渡航時のQRコード決済を実現し、海外送金を巡る課題の軽減と域内金融統合の推進を図ろうとしている。ASEANが目指しているのは、域内各国のFPS、さらには域外のFPSとつながることである。そのために多国間でFPSのネットワークを築く必要があるが、現行の二国間接続を繰り返すのでは効率が悪い。そこで、FPSの多国間接続を円滑に行うために、現在進められているのが「プロジェクトNexus」である。BISイノベーションハブ・シンガポールセンターが中心となり、ASEAN主要国が参加して実施され、標準化された方法でFPSのネットワークに接続できる仕組みづくりを目指している。2024年にフェーズ3を終え、最終となるフェーズ4では2026年央の実装を目標にスキームの一層のブラッシュアップが図られる。このフェーズにはインド中銀が新たに加わり、欧州中銀(ECB)も参加の意向を表明しており、FPSのネットワークをASEAN地域にとどまらず世界に広げるという当初からの目標に近づくこととなった。FPSのクロスボーダー相互接続が定着すると、そこで蓄積された技術・ノウハウを応用してユースケースが拡大していくと予想される。海外送金額全体に占めるリテール送金額の割合は小さく、世界のマネーフローや国際金融秩序に与える影響は限られるであろうが、恩恵を受ける個人や企業が確実に広がっていくことが期待される。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)