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リサーチ・レポート No.2026-008

財政危機と中央銀行

2026年09月10日 河村小百合


昨今のわが国では、金利上昇基調と円安基調が根強い。その要因の一つが、わが国の財政運営の持続可能性に対する懸念である。財政運営が危うさを増す局面では、中央銀行の対応いかんが問われる。本稿では、財政危機時国家と中央銀行の関係、金融政策運営について、近年の主要国における経験をつぶさに振り返り、それを受け主要先進国で醸成されている共通認識を踏まえつつ、わが国の課題を考えたい。

2009年秋以降の欧州債務危機の初期段階では、欧州中央銀行(ECB)は事実上重債務国の国債を対象とする買い入れを限定的に行ったものの、重債務国の財政運営姿勢の弛緩を招き、危機をさらに拡大させる形で再燃させる結果に至った。

この教訓等を踏まえ、ECBではドラギ総裁就任の2011年11月を境に国債買い入れを停止するとともに、大規模な長期の資金供給オペによって民間銀行による国債保有を間接的に下支えする方向に政策を転換し、危機は収束に向かった。

その後のギリシャの財政破綻をはさんで導入された短・中期国債の買い切りオペの枠組みでは、オペ申請国に先に財政再建の断行を求める枠組みとした。その考え方はコロナ危機後に導入された国債買い入れの枠組みにも踏襲されており、いずれも今日に至るまで利用実績はないが、加盟国に平時から本来必要な財政健全化を促し市場の安定につなげるうえで一定の効果を有しているとみられている。

イギリスでは2022年9月の“トラス・ショック”の際、イングランド銀行(BOE)は基本的に、市場金利急騰を“健全な価格再評価”と受け止めて静観し、当時加速していた資産縮小策(QT)も、1カ月遅れながら遂行した。9月末から2週間半限定で国債の買い入れは行ったものの、あくまで通常の金融政策とは別の金融システムの安定確保目的で、国債価格急落に伴う年金基金等のポジション調整の相手方となる目的で実施され、3か月後の2023年初にはその全額が市場に売り戻された。

主要先進国においては、財政危機は、中央銀行の安易な国債買い入れや国債の直接引き受けによっては決して解決できないと考えられている。中央銀行の独立性に関しても、単に政策金利の上げ下げに政府が口を挟まないのみならず、財政運営の支援目的での金融政策運営は決して行わない、という共通認識が確立されている。

しかるにわが国では、日銀の独立性の設計はもとよりやや見劣りする。現状のままでは、日銀の国債買い入れ額の増加や、財政法に規定されている国債の直接引き受けに追い込まれ、国としての信用失墜に至ることが懸念される。政府の側は日銀に頼らずに本腰を入れた財政再建、日銀は正常化の加速に取り組み、市場機能をしっかりと回復させつつ財政の持続可能性を確保していくことが求められている。

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