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リサーチ・フォーカス No.2026-020

債務比率低下の中身を問う ― PBで確かめる財政規律、見落とせない負担の所在 ―

2026年06月17日 井上肇


政府債務残高対GDP 比を安定的に下げる財政運営へ移る場合でも、PB(基礎的財政収支)はフローの財政規律を確認する指標として使い続ける必要がある。今年の骨太方針策定に向けて、単年度のPB 黒字化期限に過度に拘束される運営から、債務比率の安定的な低下を重視する運営へ軸足を移す方向で議論が進んでいる。危機管理投資や成長投資を柔軟に扱いやすくなるものの、債務比率を政策目標の中核指標に置くこと自体は、無条件に使える財政余地を生むものではない。

債務比率を引き下げるためのPB の水準は、名目成長率、実効金利、現在の債務比率の組み合わせで変わる。 名目成長率が実効金利を上回る局面では、一定範囲のPB 赤字でも債務比率の低下と整合し得る。足元では低い実効金利と高めの名目成長率が債務比率を押し下げているものの、長期金利の上昇は借換えを通じて実効金利に遅れて反映されるため、成長率の下振れや金利の上昇が続けば、債務比率の低下と両立するPBの範囲は狭まる。追加歳出や減税を行う場合には、その後のPB が、先行きの金利・成長率の変化を踏まえても債務比率の低下と両立するかを確認する必要がある。

債務比率が下がっていても、その背後にいる負担者を見落としてはならない。 物価上昇で名目GDP が膨らみ、既発債務の実質的な価値が下がる場合、政府の債務負担は軽く見えやすいものの、その裏側で現預金や国債など固定利付債権を持つ国民の資産が実質的に目減りし、名目所得の伸びが物価に遅れる場合には家計の購買力も低下することが起こりうる。債務比率の低下が、インフレ税や、債権者・預金者である国民から債務者である政府への所得移転を伴っていないかも確認しなければならない。

高市政権の「責任ある積極財政」には、事前試算、成果指標、事後検証を予算編成に結び付ける運用が欠かせない。 危機管理投資や成長投資を進めるなら、実施前には債務比率の低下との整合性を試算し、実施後には政策目的に照らして効果を検証し、成果が確認できなければ規模、手法、継続の可否を見直す必要がある。危機管理投資と成長投資では成果指標を分けつつ、事前試算と事後検証を伴わせてこそ、「責任ある積極財政」と呼ぶに値する。


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