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リサーチ・フォーカス No.2025-028

トランプ関税 vs. グローバリゼーション ― 製造業の付加価値から読み解く米中対立の着地点 ―

2025年08月01日 三浦有史


名目GDP の米中逆転は起きないとする論調が支配的になっていること、また、米国の脱「中国依存」が緩やかながらも着実に進んでいることは、「MAGA」(Make America Great Again)を掲げるトランプ政権にとって好ましいことと言える。

しかし、中国の製造業が生み出す付加価値は2010 年に1.9 兆ドルと、米国の1.8 兆ドルを上回り、世界一となった。その後、両者の差は広がる一方である。中国の製造業の輸出は2005 年に米国を追い抜き、「世界の工場」としての地位を確立した。

経済協力開発機構(OECD)の付加価値貿易統計TiVA(Trade in Value Added)で付加価値ベースの米国の輸入を見ると、米国の脱「中国依存」は進んでいない。この理由としては、中国で生産された付加価値うち第三国を経由して米国に輸出されるものが増えたことが挙げられる。

世界の最終需要に対する中国の製造業の付加価値輸出は、2017 年に米国を追い越し、2020 年に米国の2.7 倍となった。「MAGA」の実現は極めて難しいと言える。

トランプ大統領は、iPhone の組み立てが米国で行われることを「MAGA」を象徴する出来事のひとつと捉えるが、技術者や労働力が不足していること、また、iPhone のサプライチェーンにおける中国のプレゼンスは容易には覆せないことから、米国製iPhone が誕生する可能性はほとんどない。

中国政府は、トランプ政権に冷静かつ毅然とした態度で対峙してきた。こうした振る舞いが可能になった理由として、①輸出規制を「武器化」する、あるいは、相手の「武器化」を防ぐ能力は中国の方が高いこと、②国内の失業者の増加に対する耐性も中国の方が高いこと、③トランプ関税に伴う一連の問題は必ずしも政権の求心力を低下させる圧力にならないことがある。

このように、中国の製造業の強さは対米交渉の有効なカードであるものの、一方で「内巻式」悪性競争による過剰生産によって「悪貨が良貨を駆逐する」現象が起き、市場に対する消費者の信頼が失われ、市場が収縮しかねないという、新しい問題に直面している。


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