リサーチ・アイ No.2025-110 パリ協定のラチェットアップ(目標引き上げ)・メカニズムは機能したか ― 各国の目標提出は大幅に遅れ、引き上げも小幅 ― 2025年11月07日 大嶋秀雄パリ協定は締約国に5年毎の気候関連目標(NDC)の策定・更新を義務づけ。ただし、NDCは自主的な目標で、パリ協定の目標と整合するとは限らず、パリ協定は、各国目標・対策等を踏まえて、世界全体の取組状況を検証する「グローバル・ストックテイク(GST)」を行い、その結果を踏まえて各国に目標引き上げを促すラチェットアップ・メカニズムを導入。2023年の締約国会議(COP28)で初のGSTの結果が示され、本年はNDCの更新の年。NDCの提出期限は本年2月であったが、ほとんどの国が未提出。その後、期限は9月に延期されたものの、3割(64カ国)しか間に合わず。各国・地域の提出遅延の要因は様々ながら、経済環境の悪化等による気候変動対策の優先度の低下や、国際的な機運の低下が懸念。NDCにおける目標引き上げも不調。11月4日に国連環境計画(UNEP)が公表した報告書によれば、新たなNDCを踏まえても、パリ協定の1.5℃目標との乖離はほとんど縮小せず。GSTで要請された具体策についても、再生可能エネルギー(再エネ)関連の目標設定は多いものの、石炭火力発電や燃料補助金などの廃止に向けた目標設定は少ない。現状、パリ協定のラチェットアップ・メカニズムは十分機能しているとはいえず。今後は、パリ協定の実効性を高めるため、国連やCOP等において、各国の新たな目標や対策等を検証し、GSTの結果等を各国施策に反映させる仕組み作りなどを進める必要。COP30でも具体的な議論を期待。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)