JRIレビュー Vol.5, No.132
パリ協定10年、岐路に立つ気候変動対応 ~“ 現実路線” の国際連携への見直しや 今後数十年の温暖化を直視した適応策が重要に~
2026年05月15日 大嶋秀雄
人類活動に伴う温室効果ガス(GHG)の排出で地球温暖化が進行し、各地で様々な問題を引き起こしている。国際社会は、1992年に国際連携の中核となる「気候変動枠組条約(UNFCCC)」を採択し、その後、97年採択の「京都議定書」では先進国に排出削減の数値目標を課し、2015年採択の「パリ協定」では、気温上昇を産業革命以前に比べて+2℃以下に抑える最終目標を設定するとともに、全締約国に自主的な目標設定を求めた。
パリ協定採択から10年経ち、ルール整備や各国目標引き上げ、適応策の枠組み構築といった進展はあるものの、各国の目標引き上げ幅は不十分で、肝心の排出削減も進まず、具体策の交渉も難航するなどパリ協定の課題も明らかになっている。さらに、米国トランプ政権は環境政策を否定し、世界的に環境政策への逆風も強まる。最新の科学とは異なる「偽情報」や、再生可能エネルギー(再エネ)設備等を巡る通商問題も浮上している。
主要国(米国、EU、中国、わが国)の環境政策を整理する。米国は、世論の分断が進み、環境政策は度々転換され、トランプ政権は気候変動対策を否定している。EUは、世論の後押しもあって環境政策をリードしてきたが、経済環境の悪化等で現実路線への修正を迫られている。中国は、産業政策が奏功して再エネで高い競争力を持つが、高めの経済成長もあって、自国の排出削減は進んでおらず、国際連携からも距離を置いている。わが国は、世論の分断等は限られ、安定的な政策運営が行われており、とくに、トランジション(低炭素化)など現実路線を重視した政策スタンスである。
今後は、米国のリーダーシップや支援が期待できないなか、わが国やEUがリードする形で、中国やインドも巻き込みながら、“現実路線”の連携を模索する必要がある。例えば、パリ協定の実効性向上に向けて、目標設定・実施に対するインセンティブ・ペナルティの導入や、多様なアプローチ・ゴールを設定できる複線的なロードマップの整備、多様な課題を解決するための支援枠組みの構築、公正な通商ルール等の整備などがある。
気候変動に対する正確な理解と具体的な対策を促すため、短中期の気候予測の精度向上や社会・経済影響評価の精緻化といった科学的知見の強化を図るとともに、今後数十年は続くことが想定される地球温暖化を直視し、各地域の特徴を踏まえた実効的な適応策が導入できるよう、先進国が積極的に関与した適応支援の枠組みの構築も重要である。
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