JRIレビュー Vol.6, No.133 こども政策における就業に向けた準備の在り方 2026年04月28日 池本美香こども基本法施行を踏まえ、2023年12月策定の「こども大綱」では、今だけでなく将来にわたるこどもの最善の利益を考慮したこども政策に取り組む方向が示された。本稿では、わが国の経済活動や個人の人生への影響がとくに大きい、就業に向けた準備の在り方に焦点をあて、諸外国の動向を参照しつつ、今後取り組むべき課題を整理した。海外では新卒、中途にかかわらず、必要に応じて採用する「通年採用」が一般的だが、わが国では就職活動の学業への影響を最小限にしつつ高い就職率を目指し、時期を決めて選考する「新卒一括採用」が主流で、高校生には応募を一社に限定する「一人一社制」がある。こうした特有の採用慣行や労働力不足を背景に、現状、若者の失業率は低く、就業準備の在り方は問題視されていない。しかし、就業に関する十分な情報提供を通じてこどもの自己選択・自己決定・自己実現を後押しし、可能性を広げる取り組みが諸外国と比べて弱い。就業に関する情報提供や職場体験が十分でないなか、こどもは自分の興味や適性を考えず、狭い選択肢のなかから親の意向や家庭の経済状況などの影響も受けて、職業や進路を選択することになる。例えば、海外と比べてわが国は女子の大学進学率、とりわけ理系の大学進学率が低く、性別によって進路が狭められている。こうした状況では、スキル開発が進まず、若年人口が減少するなか、必要とする人材確保が一層困難になり、企業活動の制約となる。メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へのシフトを進めるうえでも、こどもに受け身でなく主体的に自己選択・自己決定・自己実現できるような準備が期待される。今後は以下の諸外国の取り組みを参照し、就業準備の在り方の見直しが待たれる。・ 学校の役割として、高い就職率の追求から、こどもに幅広い選択肢を伝え、適切な選択を促し、将来の可能性を最大限に高めることへと重点を移す。体験先をこどもが探す職場体験の義務化、アルバイト経験の奨励、就業体験や進路選択をサポートする専門職の配置、ロールモデルとなるボランティアの学校への派遣など。・ 職業やそのための教育に関する情報をワンストップで提供する公的なウェブサイトの設置。環境関連のグリーンジョブに関する情報提供などでこどもの選択肢を広げる。・ 不利な状況にあるこどもへの手厚い支援。働きながら費用負担なく資格が取得できるアプレンティスシップの提供、障害のあるこどもの自己選択を支える仕組み、性別によらない職業選択の促進、家庭の経済力による情報格差を埋める取り組みなど。こどもの意思を尊重し、自己決定を支え、仕事や学びへの内発的動機付けを目指し、自己実現を後押しする方向は、こども基本法施行に伴い要請されているのみならず、少子化により労働力不足の深刻化が懸念される企業にとっても、限られた人的資本を活性化するうえで喫緊の課題である。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)