JRIレビュー Vol.3, No.130
頼れる親族の有無にかかわらず 高齢者が介護施設等を選択できるための基盤整備 - 特別養護老人ホームと有料老人ホーム等による 「クリーム・スキミング」解消に向けて -
2026年04月02日 岡元真希子
特別養護老人ホーム(以下、特養)に入所できるのは、身元保証人を引き受けてくれるような親族がいる高齢者に限られ、頼れる親族がいなければ、有料老人ホームなど利用者負担額が高い入居先を選ばざるを得ないことが多い。国は2018年に、身元保証人がいないことのみを理由に介護保険施設が入所を断ってはならない旨を通知しているが、依然として、99%以上の特養が身元保証人等を求めている。入所に関する相談に応じる地域包括支援センターや居宅介護支援事業所は、頼れる親族がいない高齢者に対して、入所できる可能性が低い特養を最初から提案しない傾向にある。
特養と介護付き有料老人ホームはいずれも、住まいと介護を一体的に提供するサービスであり、多くの人が看取りまで過ごす「終の棲家」として機能しているが、介護の内容や提供方法には違いがある。特養は介護保険給付として提供するサービスが大部分を占め、保険外のサービスは少ない。介護付き有料老人ホームでは、保険給付としての介護に加え、保険外サービスとして、基準を上回る職員を配置して手厚い介護を提供したり、個別の要望を受けて外出付添いなどの多様なサービスも提供することが多い。
介護保険で給付される「日常生活上の世話」の範囲は、明確には示されていない。通院付添いや日用品の買い物などを担う親族がいなければ、特養では無償で職員が行うことが多い。特養待機者の入所の優先順位は必要性をもとに判定する仕組みがあるものの、親族支援者がいない人は業務負担が大きいため避けられる傾向にある。一方、介護付き有料老人ホームでは、頼れる親族がいないことにより必要となる追加的支援を有償で提供することが多いため、親族支援者のいない人は収益機会が多い顧客となる。特養と介護付き有料老人ホームのそれぞれにおいて、事業者側がサービス内容に合致する利用者を選ぶ「クリーム・スキミング」が生じているとみることもできる。頼れる親族がおらず、有料老人ホーム等に入居するための費用負担も難しい人は、劣悪な施設への入居・宿泊を余儀なくされる場合もある。
親族の有無にかかわらず、利用者が望む入所・入居サービスを利用できるよう、以下3点の対応をすべきである。まず、「親族支援者がいたら親族に依頼するかどうか」を判断基準として、頼れる親族がいない人に対する追加的な支援を量的に把握し、介護付き有料老人ホームで保険外サービスを提供するのと同様に、特養においても提供体制を整備することである。と同時に、追加的支援に対して対価の徴収を認めることである。さらに、地域包括支援センターが入所・入居後も相談に応じたり、意思決定支援のプロセスを標準化するなどにより、頼れる親族がいない高齢者を受け入れる際のサービス事業者側のリスクを軽減することである。
特養は多くを社会福祉法人が経営し、建設時に公費が投入されるなど、公益性が高く、社会的弱者を受け入れる使命があると考えられる。しかし、現状の報酬体系と人員体制のままで、支援負担の大きい高齢者を数多く受け入れれば、職員に過剰な負担をかけたり、事故等のリスクが増すような事態につながりかねない。相応の対価を徴収してニーズの高い追加的支援を提供する仕組みを実現することは、事業者が施設に合う利用者を選ぶのではなく、利用者が入所・入居先を選ぶことにつながると考えられる。さらに、有料老人ホーム等における保険外サービスの適正化の手がかりともなることが期待できる。
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