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JRIレビュー Vol.10, No.128

脱炭素社会への「公正な移行(Just Transition)」をいかに実現するか ~ 人手不足が深刻化するわが国に不可欠なアプローチ ~

2025年11月11日 大嶋秀雄


「公正な移行(Just Transition)」とは、社会・経済構造の変化に誰一人取り残さないことを目指す概念である。脱炭素社会への移行では、社会・経済構造の変化によって使われなくなる技術や製品・サービス、失われる仕事も少なくなく、変化に取り残される企業や労働者が増える可能性があり、国際的に、公正な移行が重要であると認識されている。

わが国では、政府が推進するグリーントランスフォーメーション(GX)戦略は競争力の強化を重視しており、公正な移行に取り組む方針は示しているものの、具体策は限られる。競争力の強化と公正な移行は脱炭素社会への円滑な移行に不可欠な両輪であり、とくに、人手不足が深刻化するわが国では、公正な移行によって成長産業等への労働移動を促すことは競争力の強化にも貢献するため、両者のシナジーを高めていくことが重要である。

わが国における20世紀後半の石炭鉱業からの脱却(“脱炭鉱”)の教訓や、EUの公正な移行メカニズムなどの海外の先行事例を踏まえると、公正な移行に向けては、①労働、産業、金融、教育など多面的な取り組みを行うこと、②脱炭素に向けて課題を抱える幅広い産業・企業・労働者を対象にすること、③長期の時間軸での支援を行うこと、④地域起点で取り組み、地域に適した対策を実施すること、の4点が重要となる。

今後、わが国政府・自治体等には以下の取り組みが求められる。

(1)政府に求められる取り組み
①産業構造の方向性やロードマップ(移行計画)の具体化
産業構造の方向性やロードマップを示して、企業や労働者の予見可能性を高め、構造変化に取り残されないように、事業転換やスキル転換、労働移動を促していく必要がある。
②政策枠組みの構築 ― 広範な産業×多様な政策分野、分野横断型の行政組織の設置
取り残されるリスクのある主体は様々な課題を抱えており、多面的な支援ができる枠組みが必要となる。分野横断型の行政組織の設置等によって一貫した政策運営を行うべき。
③産業・地域への対応要請・支援
業界団体・自治体等との対話強化や産業・地域別影響の基礎的分析、各産業・地域における影響評価を支援するデータ・ツールの提供などによって、取り組みを促す必要がある。

(2)地域(自治体等)に求められる取り組み
①地域経済への影響評価、地域版ロードマップの策定
政府等の支援も活用し、多様なステークホルダーと連携して、地域経済への影響評価や、取り残されるリスクのある主体やその課題を特定し、地域版のロードマップを策定する。
②対策パッケージの検討・推進
自治体による支援策に加えて、政府の各種支援策や支援機関、地域の教育機関・金融機関等とも連携して、地域が抱える課題の解決に適した対策パッケージを検討、推進する。


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