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JRIレビュー Vol.7, No.125

わが国企業のESG 経営と株主資本コスト

2025年07月07日 安井洋輔


政府によるSDGsの達成に向けた各種政策の効果もあって、わが国のESG投資は拡大傾向にある。こうしたなか、ESGの取組を強化している企業の方がそうでない企業よりも、資本コスト(投資先に求める最低限の期待収益率)が低下している可能性がある。

これを検証するために、資本コストのうち株主資本コスト(株主が企業に要求する最低限の期待収益率)に着目し、ESGスコアが算出されているわが国企業を対象に、ESG投資が拡大し始めた2014年度から直近の2023年度にかけてESGスコアと株主資本コストの関係について分析した。

その結果、社会スコアやガバナンススコアと株主資本コストの間には明確な関係はみられなかったものの、環境スコアと株主資本コストの間には負の相関関係が確認された。また、その関係は近年になるほど強まっていることが分かった。

これが因果関係を意味するのであれば、わが国企業は、環境の取組によって株主資本コストを下げることができる。具体的には、環境スコアを10ポイント程度改善すれば、当該企業は株主資本コストを0.4%程度引き下げられることが示唆される。こうしたインセンティブの存在は、わが国のESG経営の推進ひいてはSDGsの早期達成という観点からも望ましいことである。

もっとも、アメリカでESG投資への逆風が強まりつつあることは懸念材料である。今後、アメリカ以外の先進国において、こうしたアメリカの動きに追随する機関投資家が増え、ESG投資自体が下火となれば、わが国企業も環境経営による株主資本コストの低下を享受できなくなる可能性を否定できない。そうなれば、企業にとってESG経営に対するインセンティブは失われ、気候変動問題への対応が一定程度後退してしまうリスクがある。

これに対し、わが国は2030年におけるSDGsの実現、さらにはそれを越えた地球規模の持続可能性を担保するために、アメリカに追従せずに少なくとも中長期的にはESGを進めるという方針を堅持すべきである。具体的な対応としては、ESG投資のモメンタムの維持のほか、ESG経営に関する情報の開示と質の向上に向けた環境整備、さらには、ESG経営と企業価値や付加価値生産性に関する研究の蓄積などが求められる。


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