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JRIレビュー Vol.6,No.101

認可外保育施設の側面から保育制度の在り方を考える

2021年04月28日 池本美香


《こども家庭庁への期待》JRIレビュー2022 Vol.6, No.101
 解題 調査部 上席主任研究員 池本美香

 今国会において、「こども家庭庁設置法案」と「こども基本法案」が成立する見通しである。こども家庭庁は、2023年4月の設置を目指しており、子ども政策を担当する大臣を置き、教育など他の大臣が担当する仕事が十分でないときに改善を求めたり、所管省庁がはっきりしない課題などにも取り組むとしている。こども基本法は、あらゆる場面で子どもの権利が守られるべきとする基本理念、および国、地方公共団体、事業主などの責務について定める。日本総合研究所では2019年度より、子どもの権利条約を起点とした政策への転換を目指して「子ども政策研究会」を立ち上げ、その活動内容について発信してきたところであり(注1)、「子どもの権利」に焦点を当てた法案の成立は大変喜ばしい。
 もっとも課題は多く残されている。本特集では、こども家庭庁への期待として、勉強会講師としてお招きしたお二人の講演録と、3本の論文を収録した。
 高松平藏氏のご講演では、ドイツの子ども・子育て環境について、具体的な事例紹介とあわせ、わが国とは都市の在り方が異なり、そのことが子ども・子育て環境に影響しているとの問題提起があった。例えば、ドイツでは、都市は赤の他人の集まりであるという前提で、人びとがつながるきっかけを意図的に作っていることから、わが国のような子育て家庭の孤立が少ないことが示唆された。ドイツでは都市のつくり方として「生活の質」が重視され、家の近くにたくさんの公園があり、そこまでの移動についても安全な歩道や自転車道路が整備され、職住近接で平日にスポーツクラブやボランティアに参加できる。中心市街地の広場では、子どもも参加できる様々なイベントやデモを通じた意見表明が行われる。わが国では経済成長を重視した国土開発が行われたことを背景に、遠くに自然や立派な公園があっても行くことが難しいなど、子どもや子育て家庭がつながったり、意見表明したりする時間や場所が少ない。ユニセフの調査では、地域に十分な遊び場があると答えた子どもの方が、そうでない子どもに比べて、より幸せと感じているという(注2)。わが国においても、子ども・子育て家庭の「生活の質」の観点から、都市政策の在り方について検討されることが期待される。
 吉田右子氏には、北欧の公共図書館における子ども・子育て支援についてお話をうかがった。おしゃべりや飲食が自由であること、必ずコンピューターゲームが備えてあるなど、わが国とは大きく異なる状況について紹介いただき、その背景として不平等の解消が徹底されていることが挙げられた。ゲーム機を買えない子どもにも遊ぶ権利を保障する、移民の子どもが図書館に通い、司書やボランティアのサポートを得て大学進学を実現するなど、困難な状況の子どもに焦点が当てられている。わが国の公共図書館のイメージは一人静かに本を読む静寂空間だが、北欧の図書館では他者との会話空間が重視されており、子どもたちが一緒に話し合いながら宿題をやったり、乳幼児の親子が集まって映画を観る会があったり、市民の声を聴くために政治家などがやってくるデモクラシーコーナーがあったりする。図書館に足を運んでもらうために、居心地のよいカフェを置いたり、若手のアーティストの作品を飾ったり、外壁をアートで目立たせるなどの工夫もある。わが国でも、子どもや子育て家庭の情報へのアクセスの不平等解消に向け、図書館に大きな可能性がある。
 3本の論文の一つ目の「認可外保育施設の側面から保育制度の在り方を考える」では、多様なニーズに対応した質の高い保育が確実に受けられるように、保育制度の抜本的な見直しの必要性について論じた。保育所を外形的な基準で認可と認可外に分け、補助金に格差を設ける現行の制度においては、保育内容の画一化が生じ、質の改善も進みにくい。第三者評価の受審を義務化し、質の高い施設が適正な補助を受けられる制度への転換が求められる。
 二つ目の「子どもの権利保護・促進のための独立機関設置の在り方」では、子どもコミッショナーを取り上げた。子どもコミッショナーは、子どもの権利侵害がないか否かを調査し、必要な改善を政府等に求めたり、子どもや子どもとかかわる大人に条約の内容の周知を行う役割を持つ公的機関で、子どもの権利条約批准国に設置が求められている。海外の多くの国では、子どもコミッショナーに加え、学校や自治体などの行政機関に対する苦情を受け付け、改善に向けて働きかける「オンブズマン」と呼ばれる公的機関もあるが、わが国にはいずれもない状況である。こども基本法案に子どもコミッショナーの設置は盛り込まれていないが、真に子どものための政策に転換するためには、設置に向け早急な検討が求められる。
 三つ目の「ニュージーランドのインクルーシブ教育とわが国への示唆」では、特別な支援を必要とする子どもも通常の保育施設や学校に通うことを原則とするインクルーシブ教育について、その先進国であるニュージーランドを取り上げている。わが国では障害のある子どものみが利用する施設や学校・学級の数が急増しているが、ニュージーランドでは子どもごとに通常の保育施設・学校で学ぶために必要な支援を行う。こども家庭庁が障害児支援、文部科学省が特別支援教育と所管が分かれるなか、今後は国際的なインクルーシブ教育の動向も十分に踏まえ、子どもの最善の利益を軸にした検討が期待される。
 「こども家庭庁は、こどもの声をしっかりと聴いて、こどもにとって1番いいことは何かを考え、仕事をします」と、政府は子どもに宣言している(注3)。本特集で取り上げた課題も含め、踏み込んだ検討を期待したい。
(注1)JRIレビュー2020 Vol.7, No.79「特集:子どもの権利条約を起点とした政策への転換」、JRIレビュー2021 Vol.6, No.90「特集:子どものウェルビーイング実現に向けて」
(注2)https://www.unicef.or.jp/report/20200902.html#annagromada
(注3)内閣官房こども家庭庁設置法案等準備室「こども家庭庁について」(こども向け資料)

ドイツ自治体が、子ども・子育て環境に必要だと考えていることは何か?(PDF:4737KB)
ドイツ在住ジャーナリスト 高松平藏 氏
北欧の公共図書館と子どもを対象としたサービス・子育て支援 (PDF:4354KB)
筑波大学図書館情報メディア系教授 吉田右子 氏
認可外保育施設の側面から保育制度の在り方を考える(PDF:1148KB)調査部 上席主任研究員 池本美香

子どもの権利保護・促進のための独立機関設置の在り方(PDF:472KB)調査部 上席主任研究員 池本美香

ニュージーランドのインクルーシブ教育とわが国への示唆(PDF:760KB)調査部 上席主任研究員 池本美香
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