Economist Column No.2026-073
政府の人口総合戦略に盛り込むべき視点~無理な人口増ではなく、現実的な戦略の策定を~
2026年10月26日 石川智久
■年末に向けて人口総合戦略の策定が本格化
高市首相は、2026年末をめどに「人口総合戦略」を策定する意向を示しており、政府は今週にも関係閣僚等による会議の初会合を開催する方向で調整を進めている。今後、戦略の具体化に向けた議論が本格化すると見込まれる。本稿では、同戦略の策定に当たり重視すべき視点を整理する。
■人口減少を前提とした現実的な戦略の策定を
人口戦略の策定は、すでに骨太方針に盛り込まれている。同方針では、「人口減少下においても我が国の成長力と国民の安心が確保されるよう、少子化傾向の反転と人口減少に対応した社会経済の再構築の両面にわたる対策を推進」とされている。これは、少子化傾向の反転を目指す一方、人口減少への適応も進める姿勢を示したものと解釈できる。わが国は人口減少局面に入って久しく、先進国の出生率が総じて1.5程度となり、多くの新興国でも2を下回るようになるなか、趨勢に逆らって人口増加を目標に据えることは現実的とは言い難い。人口減少を前提に、社会経済の持続可能性を確保する戦略を検討すべきである。
少子化対策についても、政策効果と財政負担の両面から検討する必要がある。筆者がOECD諸国のデータを用いて検証したところ、政府による給付金の出生率引き上げ効果は海外諸国でも限定的であった。例えば、ハンガリーでは、少子化対策として所得税の免除や高額な住宅補助を導入し、かなり世界的にも注目されたが、結果として出生率の上昇は一時的にとどまり、むしろそれによるインフレなどの弊害が目立っている。一方、筆者の分析では、賃金上昇などによる可処分所得の増加や、男性の勤務時間の短縮の方が、出生率を引き上げる効果が大きかった。給付の拡充に依存するのではなく、生産性向上を通じた賃金上昇、社会保障制度改革による現役世代の税・社会保障負担の軽減、働き方改革による勤務時間の短縮などを進めることの方が有効かつ重要である。これらを通じて、財政負担の増加を抑制しつつ、出生率や出生数の改善につなげていく必要がある。
労働力の確保についても、人数の拡大のみを目指すのではなく、生産性向上と人材配置の適正化を重視すべきである。経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)について」(2026年3月)によれば、「2040年に十分な国内投資や産業構造転換が実現する場合、人口減少により就業者数は約6,700万人(2022年)から約6,300万人となるが、AI・ロボット等の利活用やリスキリング等により労働需要が効率化され、全体で大きな不足は生じない」とされる。この推計は、一定の条件の下では、就業者数が減少しても経済全体で大幅な労働力不足が生じるとは限らないことを示している。ただし、個々の業種別では人手不足が残るため、教育やリスキリング、機械化などを通じ、労働需給のミスマッチを縮小する取り組みが不可欠である。
人口戦略の目的は、人口規模の維持・拡大そのものではなく、一人ひとりのウェルビーイングの向上に置くべきである。結婚を希望する若い世代や、子どもを持つことを望む人々が、その希望を実現できる社会を目指す必要がある。若い世代が子どもを持つことをためらう背景には、将来への展望を描きにくいこともある。安定した雇用を行き渡らせ、将来に希望を持てる社会を構築することが、結果として出生率の下げ止まりにつながると考えられる。
■外国人材の受け入れは長期的な労働需要を踏まえて設計を
政府は、人口戦略を踏まえ、27年3月末までに外国人受け入れ方針を示すとしている。人口減少が続くなか、外国人材は貴重な労働力であり、わが国でもすでに幅広い分野で活躍している。一方、欧米では外国人の受け入れが社会を二分する論点となっている。わが国でも外国人が足元で年間30万人のペースで増加するなか、適切な制度設計が求められる。欧米の経験を踏まえ、全体の受け入れ規模の拡大を進めるのではなく、外国人材が必要な分野で適切に確保できるよう、きめ細かな対応を図る必要がある。また、AIなどの技術進歩により、将来の労働需要が従来の想定を下回る可能性もある。このため、今後の受け入れ規模については、従来以上に慎重に見極めるべきである。とりわけ、永住許可は無期限の在留を認める制度であることから、他の在留資格と比べて厳格な運用が求められる。足元の人手不足を理由として外国人労働者の受け入れ拡大を求める企業もあるが、目先の労働需給のみならず、長期的な社会構築の視点に立って制度を設計することが重要である。
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