Economist Column No.2026-066 高市政権「秋の陣」で問われる市場の信認 ― 金利上昇下の予算編成をどう進めるか ― 2026年10月05日 井上肇■金利上昇下での予算編成10月5日の臨時国会召集で、高市政権の「秋の陣」が本格化する。法案審議と並行し、2027年度予算案を年末にまとめる。「夏の陣」では、骨太方針原案が日本銀行の利上げをけん制するものと市場で受け止められたほか、歳出拡大への警戒も重なり、長期金利が急騰する「骨太ショック」が起きた。足元では、中東情勢による原油高や世界的なAI投資の資金需要、日銀の利上げ等を背景に長期金利は3%台まで上昇している。利払い費が増加し、政策の選別が重要になっている。経済財政運営を扱う経済財政諮問会議、重点投資を具体化する日本成長戦略会議、財務相に提言する財政制度等審議会(財制審)の財政制度分科会などで秋の議論が始まっている。9月30日、高市総理は諮問会議で投資枠・複数年度管理の具体化、補正予算依存からの脱却、歳入・歳出の見直しと通年の国債発行額の管理を表明した。10月1日の成長戦略会議では「日本成長戦略実行計画」の年内策定が打ち出された。■共通基盤の整備と投資の重点化成長投資には、人材やインフラが欠かせない。成長戦略会議は、建設業の供給力、資金供給、AI活用、電力需要増への対応を課題に挙げた。工場への投資は、生産能力を増やす前に資材や人手の需要を生み、案件が集中すれば費用上昇や工期の遅れを招きかねない。今後は人材育成、省力化・AI活用、電力基盤の整備を急ぐとともに、個別投資には優先順位を付ける必要がある。政府が掲げる民間投資の誘発効果や成長・経済安全保障への寄与を財政負担と比較しながら、重点分野に位置づける17分野62製品等への支援にメリハリをつけるべきである。工事が集中する場合は、関係者間で工期の調整も検討する必要がある。■財政全体を見渡して予算を組む一般会計の歳出規模は、税収・税外収入と新規国債発行額に左右される。恒常施策の当初予算化を踏まえ、財務省の財制審資料は27年度概算要求143.1兆円を、25年度補正と26年度当初の計140.6兆円と比較した。新規国債も25年度補正と26年度当初の合計で約41.3兆円となる。高市総理が言及した25年度補正後の約40兆円は、27年度当初案でも新規国債発行額の目安となろう。同じ歳出規模なら、利払い費の増加は政策に使える余地を狭める。財務省の機械的試算では、借換え等で利払い費は26年度当初の13.0兆円から35年度に35.9兆円へ増える。27年度以降、金利が基本ケースを1%ポイント上回り続ければ45.2兆円となる。国債増発が金利を押し上げれば、民間投資も抑えかねない。財政の都合で日銀に金利抑制を求めず、防衛力強化等の恒久的支出には安定財源を確保すべきである。特別会計の資金調達も見落とせない。政府は「強く豊かな日本」投資枠の経済安全保障上重要な分野等で、追加的な税外収入を中心に複数年度財源を確保し、「つなぎ国債」で前倒し調達する構想を示した。法制・予算案の具体化に合わせ、償還財源と発行規模の見通しを示す必要がある。会計を分けても返済負担は減らない。家計支援は、財政負担に配慮し、必要な層に重点を置くべきである。政府は飲食料品の消費税減税を2年に限定し、所得に応じた「就業者負担軽減支援金」と一括して法制化する方針である。審議で期限を曖昧にせず、減収への対応と給付の本格導入の準備を進める必要がある。ガソリン等の価格補助は価格動向も踏まえながら段階的に縮小し、低所得者への所得支援に重点を移すべきである。■予算の中身で信認を支える政府と市場との対話は始まっており、今後は予算の中身が問われる。内閣府の金融機関へのヒアリングでは、歳入・歳出や国債発行、支援開始後の効果検証・見直しに関心が示された。政府は政策の必要性や効果を見極め、税収と追加支出・利払いの中長期見通しも踏まえ、予算の規模・配分を判断する必要がある。成長率・税収の下振れや金利の上振れも織り込むことが重要である。中長期の分析も段階的な充実が必要である。財制審資料が紹介した確率的債務持続可能性分析(SDSA)は、成長率・金利・PB(基礎的財政収支)の不確実性を織り込み、債務残高対GDP比の将来経路を確率的な幅で示す手法である。日本に適した活用方法を検討し、債務比率の安定的低下の検証に生かすことが望ましい。必要な投資を続けるには、補助金・出資・融資を使い分け、規制改革も組み合わせ、成果に応じて支援を見直すことが重要である(井上・野木森[2026])。「秋の陣」では、必要な政策と財政の持続可能性を両立させ、市場の信認を得る予算を仕立てる力が試される。参考文献井上肇、野木森稔[2026].「産業政策と財政の持続可能性の両立―持続的な支援に向けた政策手段の選択と組合せ―」日本総合研究所、リサーチ・フォーカス、No.2026-052※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。